物渡り

ノベルバユーザー302214

10日目

今日は自転車になりました。
目が覚めると駅の駐輪場にいて、周りに他の仲間は見当たりませんでした。
この自転車の持ち主は、まだ日も登って居ないうちから仕事に行ったと思い、頑張っているんだなぁ...と思いました。
日が昇り始め、しばらくすると他の仲間たちに乗って色々な人達が仲間を近くに置き、鍵をかけて駅に向かいます。
そう言えば自分には鍵がかかっておらず、どうぞ持って行ってくださいとばかりに防犯登録もしてないようです。
なんて不用心な持ち主なんだ!と思い、取りに来たら怒鳴りつけてやろうと思いましたが自分には口はありませんでした。
更に時間が過ぎ、仲間も徐々に増えてきました。
仲間達は奥の方から置かれていくので手前に止まっている自分は一人ぼっちでした。学生や社会人はそれぞれが駅へ向かっていき、小学生の集団は遠くの道を通り過ぎていきます。ワイワイと騒いぎながら楽しそうに登校していました。
幸ちゃんはもうすぐ二年生になる頃です。卒業式は参加してあげたい。卒業式までに...あと4年で元の体に戻らなければならないのです。
それから更に時間が過ぎ、学生や社会人の姿は見えなくなりました。
ここは田舎にある小さな駅の駐輪場です。特に面白いことは起こらず、ただただ時間が過ぎていきます。
もう昼を過ぎ、駅へ向かう人もやや増えてきました。
暇なので周りを見ていたら、自分の足元には苔や、雑草が生えています。
体も所々錆びており、サドルも1部破れています。
もしや...と思いましたが、その考えは捨て、持ち主を待ちました。
やがて夕方になり、駅から出てくる学生や走り回る小学生などがちらほら見えてきます。
日が落ち始め、社会人の人達も家へと向かっていき、奥に並んでいた仲間達の数も減っていきます。
そして完全に日が落ち、仲間達はみんな帰ってしまいました。
きっと...きっと大丈夫...きっと来てくれる...
その思いは儚く散りました。

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