物渡り

ノベルバユーザー302214

3日目

今日はハンガーになりました。
目が覚めるとそこはマンションのベランダでした。
周りには仲間が同じように吊るされており、いくつかはまだ服をかけています。
部屋の中を覗こうとしましたが、まだカーテンが閉まっていて見えませんでした。
反対側を見るとビルが立ち並ぶ都会の中のマンションだとすぐにわかる光景でした。
後ろでカーテンを勢いよく開く音がし、振り向くと30代程の女性が立っていて、背伸びをしていました。
「んん〜...朝だよー2人とも起きて〜!」
奥の方からのそのそと、眠そうな顔をして歩いてくる男性を見てふと思い出した。
今の今まで自分に起こったことが異常すぎて忘れていた...
咲ちゃんと茜ちゃんは元気にしているのだろうか...
「ほら、朝ごはん作ってあるから食べて。あとけいくん起こしてきてね」
「はーい」
いつか...いつかきっと自分の家族に会えると、そう信じる事に決めた。
ガラガラと窓を開ける音がし、そちらを見ると洗濯物籠を抱えたさっきの女性がベランダへ出てきている。
籠の中から濡れた服を引っ張り出しては仲間たちへ引っ掛けていく。
「おはよー!ママー!」
「あら、おはようけいくん」
「今日も元気だね。けいくんは」
「うん!」
そう言うと今度は父親の元へかけていく。
仲睦まじい家庭を眺めていると、隣の仲間に濡れた服が掛けられた。
次は自分の番だ。服がかけられればもう周りは見えない。今日はこれで寝よう。と目を閉じる。
体が傾き、服が掛けられた。
パキッ
聞き慣れない音が自分の中から聞こえた。
「あっ...」
「どうしたの?あー、もう長いしね。仕方ないよ」
「そうね。新しいの買わなきゃ」
かけられていた服がそっと取られ、パタパタと払われている。
なぜか真上の天井が見えている。
その手前にある物干し竿にはハンガーのフックのみがかかっている。
あぁ...壊れたのか...
硬い地面から拾われ、半分に折られてゴミ箱の中に入れられる。
あーあ...また何も見えなくなってしまった...

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