ロワとカラス城の魔女
21
遺跡の街のことなら、私だって知っている。
それは、忘れられた魔法都市のことだ。そこは魔法錬金の第一人者である賢者が住む街。
ただ、それは10年くらい前の話。賢者のウィルソン・バードが死んでしまうと、その街は魔法がとけたように活気を失ったと教わった。今は誰も住むことのない建物がずらっと並んでいるだけって有名な話だ。
少し離れたところに世界最大規模の魔法都市リズがある。以前はそのリズと競うほど栄えていたと聞く。
賢者が死んでしまうと、ゴーストタウン状態になった街を皮肉めいてこう呼んでいるんだ。忘れられた魔法都市、遺跡の街と。
元々の街の名前を知っている人に、私は会ったことがない。あと数年したら、遺跡の街という存在も人の記憶から消えてしまいそうだ。
でも、魔女にとっては、大切なお得意様がいる街なのだ。悪魔の血なんて不吉なもの、じゃなかった。貴重なものを売ろうとしているのだから。
そう考えていると、魔女が私の腕をがしっと掴んで引っ張るように歩いていく。
「ここはもう出入りできないようにするわ。早く上にいきなさい」
私は部屋からでる途中で足を止めた。魔女は動かない私に振り返った。私は、魔女から目を離して言う。
「あの時、あなたは私を助けてくれなかった」
私は根にもっていた。悪魔に差し出された時のことを。魔女は悪びれもなく「だから?」と返す。
「私は、助けてくれるって信じてた。あの時そうしてくれても良かったはず。だと思います」
最後はなんだか気弱になってしまって変な終わり方だ。だって、わたしはとても怖い思いをした。最初に助けてくれれば、あんな怖いことにならずにすんだはずだもの。
私を掴む魔女の手から、力がぬけた。今は私に向き合っている。
「あの時は助けられない状況だった。それに、私は言ったはずよ。騙されて殺されるのがオチだって。嫌なら帰りなさい。今後も同じ。私は誰も助けたり、守ったりしないわ。自分の身は自分でどうにかするしかないのよ」
魔女はマントを翻して階段を上がっていく。コツコツと魔女の足音が遠ざかっていく。
分かってた。あの時、魔女に言われたとおり、私が引き起こしたことだって。これは私が、あんな怪しい魔法陣に名前なんか書いたせいだ。それなのに、私は魔女を責めてる。
ディアは心配そうに私を見上げている。
「あのさガレットは」
そう言いかけたところで、私はディアの言葉を遮った。
「ディア、あの人は嘘つきだよ」
あの時、悪魔から逃れた左手を私はじっと見つめた。もうあの時のオレンジ色の光は消えていた。あれは魔女のちからだって、知ってた。 
「私は助けてもらったし、守ってもらった。それにちからも貸してもらった。素直に、ありがとうって言えばよかった」
涙を拭う私を見上げたまま、ディアはしっぽで私をそっとたたく。
「言うチャンスはいつでもあるだろ。このまま帰ったりしなければね」
ディアの言葉に私は何度もうなずいて、何度も涙を拭った。
それは、忘れられた魔法都市のことだ。そこは魔法錬金の第一人者である賢者が住む街。
ただ、それは10年くらい前の話。賢者のウィルソン・バードが死んでしまうと、その街は魔法がとけたように活気を失ったと教わった。今は誰も住むことのない建物がずらっと並んでいるだけって有名な話だ。
少し離れたところに世界最大規模の魔法都市リズがある。以前はそのリズと競うほど栄えていたと聞く。
賢者が死んでしまうと、ゴーストタウン状態になった街を皮肉めいてこう呼んでいるんだ。忘れられた魔法都市、遺跡の街と。
元々の街の名前を知っている人に、私は会ったことがない。あと数年したら、遺跡の街という存在も人の記憶から消えてしまいそうだ。
でも、魔女にとっては、大切なお得意様がいる街なのだ。悪魔の血なんて不吉なもの、じゃなかった。貴重なものを売ろうとしているのだから。
そう考えていると、魔女が私の腕をがしっと掴んで引っ張るように歩いていく。
「ここはもう出入りできないようにするわ。早く上にいきなさい」
私は部屋からでる途中で足を止めた。魔女は動かない私に振り返った。私は、魔女から目を離して言う。
「あの時、あなたは私を助けてくれなかった」
私は根にもっていた。悪魔に差し出された時のことを。魔女は悪びれもなく「だから?」と返す。
「私は、助けてくれるって信じてた。あの時そうしてくれても良かったはず。だと思います」
最後はなんだか気弱になってしまって変な終わり方だ。だって、わたしはとても怖い思いをした。最初に助けてくれれば、あんな怖いことにならずにすんだはずだもの。
私を掴む魔女の手から、力がぬけた。今は私に向き合っている。
「あの時は助けられない状況だった。それに、私は言ったはずよ。騙されて殺されるのがオチだって。嫌なら帰りなさい。今後も同じ。私は誰も助けたり、守ったりしないわ。自分の身は自分でどうにかするしかないのよ」
魔女はマントを翻して階段を上がっていく。コツコツと魔女の足音が遠ざかっていく。
分かってた。あの時、魔女に言われたとおり、私が引き起こしたことだって。これは私が、あんな怪しい魔法陣に名前なんか書いたせいだ。それなのに、私は魔女を責めてる。
ディアは心配そうに私を見上げている。
「あのさガレットは」
そう言いかけたところで、私はディアの言葉を遮った。
「ディア、あの人は嘘つきだよ」
あの時、悪魔から逃れた左手を私はじっと見つめた。もうあの時のオレンジ色の光は消えていた。あれは魔女のちからだって、知ってた。 
「私は助けてもらったし、守ってもらった。それにちからも貸してもらった。素直に、ありがとうって言えばよかった」
涙を拭う私を見上げたまま、ディアはしっぽで私をそっとたたく。
「言うチャンスはいつでもあるだろ。このまま帰ったりしなければね」
ディアの言葉に私は何度もうなずいて、何度も涙を拭った。
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