ロワとカラス城の魔女

thruu

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 まじまじと見つめていると、魔女はこちらに振り返って言う。悪魔との契約書はマントの中なのか、もう持ってはいなかった。

「金に目がくらむなんて、人聞きの悪い。私はただ、必要としている人を知っているだけ」

 ディアは耳をぴんと立てて、背筋を正す。

「そんなものがほしいなんて、どうせ遺跡の街の錬金術師だろ」

 魔女はディアの言葉を聞いていないのか、返事をしなかった。カエルの悪魔をその辺に放り投げると、魔女は指をぱちんとならした。どうやったらあんな音がなるんだろう。思わず真似をしたけれど、渇いたかすっとした音しか私は出せない。

 ところで、魔女が指を鳴らしても、しばらくは何も起きなかった。何かの魔法ではなかったようだ。魔女は呆れたように「あのカラスは耳が遠くなったのかしら」と呟いたかと思うと、もう一度指を鳴らした。

 今度はオレンジ色の光がぶわっと炎のように宙で舞ったかと思うと、その中から真っ黒なカラスが現れた。迷惑そうに咳き込んでいる。たしか、真っ黒なのにアカという名のカラスだ。

「ちょっと!この呼び出しかたやめてよね!苦手なのよ!」

 カラスがバサバサと翼を動かし、文句を言いながら暴れている。魔女は暴れているカラスに何か封筒のようなものを差し出した

「急ぎで遺跡の街まで行ってほしいの。この手紙をノーマン・バードに渡して。もし脅しをかけてくるようなら、試してみればと伝えて。そんなことをすれば、もう二度と悪魔の血は手に入らないとね。まぁ、ノーマンなら、そんなこと考えもしないだろうけど、念のため」

 魔女がそう言うと、何か呪文を唱える。するとその手紙は小さな瓶にシュッと閉じ込められて、それがカラスの足にくっついた。

「え?いやよ!そんな遠いとこまでいけない」

 魔女は「来て」と、そう言ってカラスを自分の腕にのせると、やさしく撫でた。

「ディアが悪魔の指示でロワのマントを燃やしたとき、一緒にいたわね。あなたなら、あの木の価値を知っていたはずよ。止めることもできた」

 魔女の声は責めるように鋭く響いた。カラスのアカはぎくりとしたように口を閉じる。魔女はさらに続けた。

「それに、遺跡の街に行くようにさっき呪いをかけたの。わかったら、とっとと行きなさい」

 魔女はカラスを乗せた腕を、後ろに引き、思い切り前に振る。カラスはその勢いで飛び立つ。カラスが飛び立った後、遠ざかりながら大声で文句を言っている。

「あんた!ほんと呪いとかやめなさいよね!ろくな死に方しないんだからっ!これでチャラだからね!」

 その後も何か言っていたけれど、聞き取れないくらい遠く羽ばたいていったようだ。

「あんなところまで行くのが俺がじゃなくてよかった」

 ディアは安心したように呟いた。

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