ロワとカラス城の魔女

thruu

17

 悪魔が私の耳元で笑っている。

「無駄だ」

 魔女の手からオレンジ色の光があふれて、黒いもやを消したように思えたけれど、違った。黒いもやはまだ存在して、オレンジの光を押しのけようとしているようだった。

 悪魔は、本当に魔女を殺してしまうかもしれない。

ーーちがう。

 私はやっと気がついていた。思わず息を吸い込む。

ーー私が殺してしまうんだ。この手で。それは、私が本当に恐れていることだ。

 どうにもならないなんて、思えない。思ったらダメだ。

 悪魔は耳元で囁き続ける。

「ロワ、お前の望みを知っているぞ。両親を苦しめた奴に仕返しをしてやろう。罪悪感を感じるかもしれないが、すぐに消えるさ。人間とはそういうものだ」

 ひとつの考えが崩れ去って、新しい考えが作り出されるのは一瞬のこと。

 わずかだけど、私の手は動く。そして魔女の手を必死で掴んだ。私の変化に気がついたのか、悪魔は囁くのをやめていた。

「私は、誰も傷つけない」

 心を決めていく。まるでなにかの誓いのようだ。

「悪魔のちからなんて欲しくない!」

 私は捕らえられている左手に力を入れる。悪魔が隣で舌打ちをする。魔女に向けられていた黒いもやは、私に向かっていた。

 実際には、私の心臓を取ろうと思っているのだろう。

 どうやったのか、私の左手は悪魔から逃れていた。目の端には見えていた。私の左手も魔女と同じオレンジ色の光を放っている。

 私は勢いよく自分の心臓を掴むように胸に当てる。どんっと大きな音が響いた気がした。

 オレンジ色の光が私の心臓から、血管を通って、悪魔の力を追い出していくのが分かる。悪魔は笑い声のような悲鳴をあげている。

 追い出された悪魔のちからはあの左手の黒いアザのようなものから外に出ていく。

 悪魔から逃れて落ちる私を魔女がキャッチして、私はまた魔女の腕のなか。今は魔女のマントの中だ。

 マントの隙間から、黒いもやが悪魔のマントに集まっていくのが見える。そのマントからまた気味の悪い腕が出てきて、私を捕らえようと腕だけで地面を這ってきた。

「契約は破棄された」

 魔女は冷たく言い放ち、這ってくる悪魔を勢いよく踏みつける。重たい音が響くと、悪魔はそろりそろりとその気味の悪い手をマントにしまう。

 今は魔女にひれ伏したように足元で小さく丸まっている。


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