ロワとカラス城の魔女

thruu

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 私が本当に怖いこと。今のこの状況以外、何も考えられない。

 それに体中が重たい。けれど、動こうと思えば動けるはず。ためしに指を少し動かしてみると、ちゃんと動いた。けれど、左腕はまるで痺れているような感じがする。

 この重たさは一体何だろう。まるで重たい空気の層に押しつぶされているよう。

 恐る恐る目を開けると、魔女が見える。腕を組んで私を見ていた。腕組みをしている手には、なぜか注射器を持っているようだ。

 あれは、いったい何に使うんだろうと一瞬考えたけれど、それよりも自分の状況を考えるべきだった。

 注射器を持っている魔女は、私の斜め下に立っているのだ。

 私の左腕は、まだ何かに引っ張られるように上にあげられていた。足は地面に付いてない。浮いている。実際は、吊るされている感じだ。どうりで左腕が痺れているはずだ。

 私は本当に悪魔に捕らえられてしまったんだ。

「さあ、ロワ。まずはあの魔女から始末しよう。そうすればこの城はすべてお前のものだ」

 耳元で悪魔が囁く声が聞こえる。私の右手は、悪魔に操られて魔女に差し出されていた。助けを求めるためじゃない。攻撃するために。魔女はそんなこと気にもしていなかった。

「残念だけど、私を始末しても意味ないわ。大家に話をつけたら?会わないほうがいいと思うけど」

 魔女はこんな状況で、呑気な返事をする。

 私の手には黒いもやが集まったような塊ができていた。私はやっとかすれた声で「逃げて」そう言うのが精いっぱいだ。

 魔女は何も言わなかった。私は驚きながら魔女を見つめていた。だって、魔女は微笑んでいる。

 そして、私の差し出した黒いもやが漂う手を、注射器を持つ反対の手で力強く握っていた。握った魔女の手からはオレンジ色の光がこぼれている。

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