ロワとカラス城の魔女

thruu

13

「全部、私が引き起こした?」

 私は魔女に言われたことを繰り返す。そうする以外に、この時間を長引かせる術はない。そんな理由だったけれど、魔女の言葉は、私の感情を揺さぶる。

ーー私のせいなの?

 だって私、魔法使いになれるって信じたんだもの。それでこんなことになって。わざわざ自分の血で名前なんか書いたりして、もう言い逃れなんかできない。

ーーあの悪魔に心臓をくれてやったら、解決するの?

 私は暗闇を睨んで、その答えを考えていた。もう魔女は助けてくれない。そんなこと、もう望んでない。

 今は、なんだか悔しい。私はとんでもない怒りが沸き起こっていた。魔女にじゃない。自分自身に。

 あんな冷たい魔女が私を助けてくれるだなんて、そんな馬鹿みたいなことを、どうして考えたりしたんだろう。

 悪魔はゆったりとした眠たそうな声をだした。

「そろそろ、その心臓をよこす気になったかな」

 私はがくがくと震える足を叩くと、もう魔女にも背を向けて暗闇に顔を向けていた。

「ほう」

 悪魔は嬉しそうな声を出す。闇の向こうからディアが戻ってくると、心配そうな顔で私を見上げている。すっかりと怯えて、毛並みはこの短時間でボロボロになってしまったようだった。

ーーなんだって、あなたがそんな顔するのよ。こんなことになるって、分かっていたはずでしょ。

 魔女と同じようなことを思って、私はその考えを捨て去った。

ーーディアも、私と同じだったのかもしれない。心から望んでいることを、自分では何もせずに叶えようとして、そこに付け込まれた。

 たとえどんなに愚かなことをしても、叶えたいことがあった。私も、ディアだって。

 悪魔に向かう私に、ディアは片足だけを一歩出して、私に近づこうとする。気が引けたのかディアはその足を戻す。

「一緒に来て」

 私はそう言ってディアを抱き上げる。ディアは驚いて逃げようとしたけれど、今は覚悟を決めたのか大人しくしている。

 私はディアを抱き上げたまま、悪魔に向かって歩きだす。

「心臓なら、俺のをくれてやる」

 ディアは小さくそう呟いたのを、私は聞いていた。

「心臓をもらう前に、契約書を書いてもらおうか。まぁ、なくたっていいがね。さぁ、名前を書きなさい」

 悪魔がそう言うと、暗闇の中から1枚の紙が不規則な動きで落ちてくる。私は受け取るわけでもなく、それが床に落ちるのを見下ろしていた。

「ロワ?」

 ディアが心配そうな声を出す。わたしはちいさく、独り言のように呟いていた。

「こんなこと」

 それからはまるで、どんどん悪魔の言ったことを思い出しては怒りが大きくなっていた。わたしは息を吸い込むと、これまでにないほどの大声を出していた。

「こんなこと、嫌よ!」

 私の声が辺りに響いて、誰もが息をのんだようにしんと静まり返っていた。私はそんなことにも気がつかないまま、もう一度息を吸い込む。

「姿も現さない、あんたみたいな腰抜けな悪魔に、心臓なんてくれてやらない!もっとましな悪魔なら話は別だけど!」

 これまで、こんなふうに悪魔に喧嘩を売るなんて、聞いたことがない。そんな愚かなことを誰もしないのは、みんな恐ろしいからだ。

 静まり返ってだれも物音を立てない状況にやっと気がついて、一瞬で我に返る。

ーーあたし、悪魔に取り憑かれて首が後ろに回り出したりするかもしれない。

 そう思ったら、なんてことをしてしまったのだろうと、後悔しか生まれなかった。

 けれど、後悔しているのは、悪魔に立てついてることじゃない。こんな大声で喧嘩を売ったことだ。もっと穏便に片付く策を思いつければ良かったのに。こんなに怒ってたんじゃ、そんな考えを見つけるのは難しいなんて、今更気がついたけれど。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品