ロワとカラス城の魔女

thruu

12

 きっと魔女が、悪魔を追い払ってくれる。そうに決まってる。けれど、魔女の口から出た言葉は、信じられないものだった。

「好きにすればいい。そんなに欲しいならロワはあげるわ」

 迷いのない言葉が悪魔に向かった。

「ひ、ひどい!」

 思わず、間髪入れずに魔女にそう叫ぶ。悪魔は闇の向こうで笑いを含んだ声をだした。

「魔女は話が早くていい。懸命な判断だ」

 悪魔はまるで、小さな子供を褒めるように優しい声をだす。それは不気味でしかなかった。

「それじゃあロワ、最後の仕上げをしようじゃないか。さあ、お前の体の一部をよこすんだ」

 悪魔の声は笑いを含みながらも、鋭く闇の中ではっきりと響いた。

「体の一部って、なにそれ」

「例えば心臓とか、だな」

 例えばと言いながら、選択肢はひとつしかないような気がする。

 体の一部を差し出すなんて、それがどういう意味なのかは、聞かなくても分かってる。そういうことではなくて、どうして私の、体の一部なんか、差し出さなければならないの。

 私が理解できないのはそっちのほうだ。

 私は魔女を見上げた。こんな理不尽なことが、まかり通るわけがない。こんなことはあり得ない。

 けれど、どうだろう。魔女の瞳は決意を固めたような目をしていた。それは無言のうちに、選択肢はないのだと言っている。

 極限の立場に追いやられると、他人の感情を読み取れる能力が発揮されるものなのかもしれない。

「おねがい。助けて」

 私は悪魔に聞こえないように、声を押し殺して魔女にそう言った。私はもう涙がこぼれそうで、魔女がちゃんと見えてない。

 魔女はそれに応じることはなかった。私は再び魔女にしがみつき、そのローブを揺すってみたりしたけれど、魔女は私を見ようともしない。

 それからついに私を振りほどくようにして突き飛ばすと、魔女は悪魔よりも冷たい声で言う。

「今の状況は全て、あなたが引き起こしたことだわ。諦めるのね」

 魔女の言葉のあと、私の耳に聞こえるのは、甲高い叫び声のような悪魔の笑いだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品