ロワとカラス城の魔女

thruu

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 煙の中で、悪魔と黒猫の声だけがはっきりと聞こえてくる。

「おや。誰かと思えば、お前はロワを手助けしたやつじゃないか」

 悪魔の言葉に黒猫は喉をごろごろと鳴らす。

「はい。約束の通りに連れてきました。それで、その、こちらの約束のほうは?」

 その言葉の後、あたりには緊張が走る。まるで氷水に飛び込んだような感覚だった。

「こちらの約束?」

 悪魔のとぼけた声が聞こえる。

「え?ええ、ロワに契約を交わさせるかわりに私の……」

 暗闇の向こうで黒猫が困惑しきっている。それをすっぱりと切るように悪魔は言った。

「何の話だ」

 悪魔の言葉は冷酷だった。それは刃のように黒猫に向かっているのが私には分かった。これ以上なにか発言すれば、悪魔は黒猫を生かしてはおかないだろう。

 黒猫も悪魔のその気配に気がついたようで、それ以上は何も言わない。その方がいい。

ーー今は、魔女の元に戻るべきだよ。ディア。

 心の中で、私は黒猫の名前を呼んでいた。

 煙の中の悪魔の気配に、私はただ震えていた。かろうじて目は開けていたけれど、見ていたのは床だけだった。けれど魔女は違ったようだ。

「ロワと契約を交わすなんて、何が狙いなの」

 鋭い矢のような言葉を煙の奥に放つ。それに悪魔は退屈そうな声を出す。

「簡単な話だ。血と刻印で結ばれし者、大いなる闇をまとう。わたしがロワで、ロワはわたしであるのだ」

 魔女はその言葉を鼻で笑う。

「それはさっきも聞いたわ。でもそれって、諸刃の剣ね」

「ほう、私はそうは思わないがね。ロワと繋がっている限り誰も手はだせまい。かつての、あの魔女のように」

 魔女の言葉に一瞬だけ不愉快そうな声をだしたけれど、悪魔の機嫌は話すうちに元に戻っていた。

「あの魔女って、まさか、あの史上最悪の魔女のこと?」

 私は独り言のように小さく呟く。悪魔はそれにすかさず答えた。まるで大切な秘密を明かす時のように囁きながら。

「そうさ、私があの魔女に闇をくれてやったんだ。あいつの心が、もう人間にも、魔女にも戻れないように」

 その言葉で、私の未来は絶望の色に染まっていた。

 あの史上最悪の魔女と同じになるのだから。災害を引き起こし、天候さえも操り、多くの人の命を奪った。

 あの魔女の歩いた後には、死体ばかりだったと聞いている。悪魔に力をもらい、その力に溺れてしまったのだろうか。ごくりと唾を飲み込む。

 けれど、今のカラス城の魔女は、きっと私を助けてくれる。何故だかそんな気がした。だって、普通はそうする。というより、そうでなければ困る。

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