ロワとカラス城の魔女

thruu

8

 手の平を床につけようとしたとき、手と床の間を鋭い何かが通りすぎた。

「今、何か……」

 慌てて手を引っ込める。

「悪いな。血が必要なんだ」

 黒猫の声は相変わらずの真剣さだった。その言葉に人差し指に何か当たった感覚を思いだして触ってみると、指からは血がでている。

 それに気がつくと同時に、傷口は痛みだした。

「それで、名前を書くんだ」

 黒猫の言うとおりに、暗闇の中で床に自分の名前を書いていく。じゃりじゃりと、砂のような塵のうえに、痛みで顔をしかめながら書いていく。最後の文字を書き終わった時、部屋の様子が一気におかしくなった。

 足元の魔法陣は光を放ち、部屋の中は突然、風が巻き起こった。私を中心として竜巻のような風が発生していた。

 暗闇の中で魔法陣は黄金の光を放つ。その周りは風が巻き起こり今まであった埃や懐中電灯を盛大な音を立てて部屋の中を一定方向に流れて行く。

 それは壁のようで、逃げ出す事もできない。

 私にはやっと、恐怖心が沸き起こっていた。背中にあった悪い予感がついに頭までやってきて、もうそれは私を掴んで離さない。

 この魔法陣は一体、何の為?なぜカラス城の中心に位置しているの?この部屋はなぜ白いの?考える時間もなく、魔法陣の光が強まってくると黒猫が大声で叫んでいた。

「ロワ、解放するんだ!」

 混乱の中で、黒猫の言葉は私をさらに混乱させる。

「解放って、なにを?」

 そう言うと同時に、私の体は何かに体を奪われたように勝手に動いていた。血が出た人差し指を空中に向けると、見た事もない文字を書き始めた。

 一文字、二文字、書いた文字は魔法陣同様、空中で怪しく黄金に光り、次の文字を書くときには薄くなり消えていった。

 書くたびに体の体温を奪われていくような感覚に陥った。体の臓器が冷え冷えとしていく。

ーー気持ち悪い。吐きそう。

 三文字、四文字、見た事もない文字が現れては消えていく。

 私の足は震えてもう立っていることも難しかった。それでも、倒れる事もできずに、腕は機械のように文字を書き続けた。

 もしかしたら、この文字を書き終わる頃には、私は死んでいるかもしれない。

そんな事が頭をよぎると、部屋を渦巻く埃の壁が、床にどさりと落ちて、落ちたはずみで空中にもやのように漂うだけとなった。

「なんだ?もう見つかったのか」

 黒猫の声にはどこか恐怖と焦りがあった。

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