ロワとカラス城の魔女

thruu

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 街に着いてから、安宿に泊まる手続きを済ませた。

 皮肉な事に、窓からはカラス城が見えた。真っ赤な夕日が沈む中に真っ黒なカラス城が異様な雰囲気で、今日もまたカラスが群がっていた。

「もう見たくもない!」 そう言って雑にカーテンを閉める。

ーー明日、朝になったら帰ろう。もう、いいや。
 
 そう決めると、布団を被って眠りについた。




 翌朝、重たい体を引きずって歩き続けた。
 
 まだ太陽も昇らないうちから宿の亭主を起こし、迷惑そうなその顔に頼み込み、泣きながら見送ってくれた。

 そしてやっと着いた。カラス城。私の戻るべき場所。

 再び黒い扉の前に来ると緊張が走る。手も、足だって微かに震えている。否定されたり、嫌われたりするのは得意じゃない。怖くて仕方がない。

 でも、今日の明け方に目が覚めた時、思い出したんだ。ずっと昔、父さんが言ってたことを。

ーー人生なんて悪いことの連続だよ。父さん疲れちまって、いつも嫌になる。でもな、ロア。そういう時こそ、腐るなよ。食べ物を腐らせたりしたら、勿体無いだろう?

 よく分からないけれど、とにかく、食べ物は腐らせるなって話だった。

 そんなことはいいとして、私は腹に力を入れる。

「おハっ....!」

 今日一番の大声を出そうとして、変な調子の声がでた。落ち着け自分。大丈夫だ。大丈夫。まじないのようにボソボソ呟くと胸に手を当てて深呼吸をする。

 朝だというのに上空からカラスの鳴き声が聞こえる。


「ああ、バカって言ってる。絶対言ってる。ア、アアーー!アー!」


 カラスの鳴き声にすら、被害妄想を駆り立てられながらも、声の調子を整える。

 再び扉を2回だけ叩くと、意を決した。

「おはようございます!昨日お伺いしたロワです!えっと、研修のお願いに来ました!」

 反応は、もちろん何もなかった。扉が開かないどころか、物音一つしない。

「あの!研修生の受け入れを断られましたが、私、諦めるわけにはいかないんです。なので、受け入れてくれるまで、ここで待ちます!あ!テントも借りてきたし、食べ物も持って来ましたから、その、お気になさらずにー……」

 言えば言うほどパニックに陥った。気にしてもらわなきゃ、私は一生テント暮らしだ。

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