カイカイカイ…

霜月 秋旻

対峙

彼は自らをそう名乗ると、再びあたりを見渡した。ざわめく周辺の木々を眺めた。秋が深まり、木々の葉は紅く色づいている。
「君は、安藤快くん…だったね。君の事は、シロウから聞いているよ。君はシロウの妹さんの同級生…なんだってね。シロウは君に興味を持っていたようだよ。シロウの妹さんが、シロウに君の話ばかりしていたようだったからね」
「え…?」
「だから、妹が好意を抱いているのが、いったいどういう人物なのか、知りたかったんじゃないのかい?」
「アカネが…僕のことを…?」
「もっともそれは、きっかけにすぎなかったようだよ。シロウの妹さんが君に好意を抱いていたことを知り、妹さんがいるクラスにアンケートを受けさせた。そしてそのアンケートに、氷川喜与味と君は、すべての質問に<どちらでもない>と答えていた。そして、妹さんに君らを<黄泉なさい>へつれてくるよう指示した。君らがどういう人間なのかを観察するために。君らの奥底に眠る本性を探るためにね」
不思議と、驚きは無かった。夏目宗助。彼が今説明したことに、僕はあまり驚かなかった。その手の話は、以前にシロウがだいたい説明してくれたということもあるが、僕が知りたいことは、その先にあったのだから。
「宗助さん、あなたはこの先、僕らに何を望んでいるんですか?本当に、本気で今の世の中を壊そうと、考えているんですか?カイカイカイを結成して、この森を訪れた自殺志願者を壊し屋として雇って、依頼があったものを壊し屋である僕らに壊させている」
「そうだよ。僕はいまの世の中が、いい世の中だとは思えない。たしかに、今の技術の進歩は素晴らしいと思う。ソファーに横たわりながら、その場から一歩も動かずにボタン一つで何かができる時代。より快適な生活ができる人間が増えたことだろう。しかし、技術の進歩はいいとして、人間としての機能はどんどん劣化しているんじゃないのか?人まかせ、機械まかせにして、自分は動かなくてもいいんだと思う人間。最先端のものを追うがあまり、買ったものをロクに使わないで、更に新しいものを買って次々と物を溜め込んでしてしまう人間。自分の意志で何かを考えたり行動したりすることができない人間。世の中が勝手に動くから、自分は動かなくてもいいと思う人間。この森へ来る前の君も、そうだったんじゃないのか?まわりでは何が起ころうと、自分には関係ない。そう思っていたんじゃないのかい?安藤快くん…」
彼がいま僕に対して言ったことを、否定する気はない。たしかに以前の僕は、そうだったのだから。僕のまわりに存在していた、僕自身の意志を覆い隠していた壁が壊れて無くなる前は、僕はまわりに対して無関心だったのだから。
「そうかもしれません。でも正直僕には、あなたが今考えていることが、必ずしも正しいことだとは思えなくなっている。自分勝手な考えだとさえ思い始めているんです」
「ボクが間違っていると言いたいのかい?君は」
「僕は壊し屋になってから今日まで、いろんなものを壊してきました。依存から解放されて救われた人が、何人もいました。便利なものに頼らずに、自分の力で何かを成しえることの大切さを知った人もいました。カイカイカイが、僕らが今やっていることは、正しいことなんだと、僕は思っていました。人々のために、世の中のためになっていると」
「それは嬉しい限りじゃないか」
「しかし、物を次々と壊していくうちに、僕は気付いたんです。自分にとって大事なものが壊れていっていることに」


自分のまわりにあるものを全部壊れた。壊された。だから自分には、これ以上壊れるものがない、失うものが無い。そう思っていた。

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