カイカイカイ…

霜月 秋旻

どちらでもない

「俺達カイカイカイは、定期的にアンケート用紙を作成して、近くの高校で教師をやっている俺の元同級生にそれを手渡している。そしてその同級生が受け持っているクラスの生徒に、そのアンケートを受けさせることを頼んだ。名目は進路希望調査の類なんだが、実は生徒の興味、関心を探るためのアンケート。面倒な記述を必要としない、はい、いいえ、どちらでもないの三択形式のアンケートだ。将来やりたいことはありますか?とか、そういった質問だ。そしてそのアンケート結果から、君達をこの森へ誘うことに決めたのさ」
「つまり、僕らのクラスの担任が、シロウさんの同級生ってことですか?」
「そうだ。合田夏代は俺の中学時代の同級生だ」
そう。僕のクラスの担任の名は合田夏代。年齢はたしか三十四だった。つまり、黒沢シロウも同じ年齢ということだ。
「それで、なんで僕と喜与味が選ばれたんですか?特別変わった回答をした記憶は無いんですが…」
「そうよ。偏った回答はしていないわ」
喜与味も、そこが気になったようだ。
「偏ってはいない…か。たしかにな。だが、ふたりとも、どの質問にも<どちらでもない>と答えていた。それが、君達がこの森へ来ることになった原因だ」
「そのことが…?」
「そう。君達の本意を知りたかった。そのために、俺はアカネに、君達をブックカフェ<黄泉なさい>へ連れてくるよう頼んだのさ。俺の見込んだとおり、二人とも、まわりに遠慮して本来の自分を隠しているタイプだった。カイ、とくに君はな。俺は、人の心を探るのが好きだ。余裕ぶってはいるが、そいつが窮地に陥ったとき、どんな表情をするのか、どんな行動をするのか。それを見るのが楽しくて仕方が無いんだよ」
やっぱりシロウはエスだ。今の発言で確信した。
「喜与味の方は、元々本好きなだけあって、<壊の書>を読ませたらすぐに<キヅキの木槌>を発現させることに成功した。自ら頭を丸く刈ったのは予想外ではあったが、非常に喜ばしい結果だった。しかしカイ、お前はしぶとかった。本に興味がないと言ったな。だから俺は、別のやり方で覚醒させることに決めたのさ。夏目の霊能力で、君をこの森から出られないように閉じ込めて、体力、精神を限界まで削らせ、本音を吐かせる作戦。そして、君は<覚醒の拡声器>を発現させた。そしてその後、君には<懐の書>を読ませ、自分の過去を振り返させた。かつての自分を思い出させるためにな。君は今まで、まわりに対して自分を偽って生きてきたのだろう?そして偽っていた自分を、いつのまにか本来の自分と錯覚していたはずだ。身に着けていた偽りの仮面が、あまりに君の顔になじみすぎて、自分の本来の顔と仮面と同化してしまったまま生きてきたのだろう。そのことに、気付いて欲しかった。そして、君は気付くことができた。そうだろう?」
僕が初めて<キヅキの森>へきたときから、僕は黒沢シロウの手のひらのうえで踊らされていたのだ。僕は、黒沢シロウに遊ばれていたのだ。
「喜与味が、僕の部屋のものを壊したのは、あなたの差し金だったんですか?」
僕が、シロウにそう問いただすと、喜与味は必死でそれを否定した。
「違うわ。あれは、あたしの意思でやったことなの。あたしは、あなたのことが知りたかったの。あのときあなたの部屋にあったものは、どれももらい物ばかりだった。あなたが本当に好きなものがなんなのか、あなたが本当はどういう人間なのかを知りたかったの。あなたがいらないものを全部壊すことで、本当のあなたを知りたかっただけなの」
「喜与味…」
「そういうわけだ。カイ、お前の両親が離婚したり、お前の家が燃えたのは、俺の思惑通りではない。すべては自然。なるべくしてなったことだ。もしくは、お前はひそかにそれを望んでいたのかもしれない。お前の中に眠っていた破壊衝動が、無意識のうちにまわりを動かしていたのかもしれないな。お前の中に眠っていた、覚醒する前の<キヅキの木槌>が、お前のまわりにあるものを壊していたんだよ」


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