カイカイカイ…

霜月 秋旻

暗黙の多数決

志摩冷華は、原稿用紙数枚に文字を書き連ね、やがて万年筆を置いた。そして、その書いた原稿を僕と喜与味に見せた。
『わたしは幼い頃から霊媒体質で、幽霊が見えたり、悪霊に取りつかれることが度々あった。近所の人から気味悪がられてたわ。わたしの母親はイタコで霊媒体質だったから、おそらくそれがわたしに遺伝したのね。それは仕方が無いにしても、他の人には見えないものが自分にだけは見えるっていうのが嫌だった。逆に言えば、わたしにだけは見えるのにまわりの人にはそれが見えない。いくらわたしが見えると言っても、みんなが見えないといえば、それは存在しないことになる。暗黙の多数決。そしてありもしないものを見えるといっているわたしは異常者扱いされ、いじめられる。あいつに近寄ると呪い殺されるだとか、そんなことばかり言われていたわ。みんなからみて、わたしは普通じゃないのよ。小学校でも中学校でも、わたしはいじめられた。というより、恐れられたと言ったほうがいいかもしれない。霊能力を持った人間なんて、いったい世の中に何人いるのだろう。そんな珍しい人間に、クラスのみんなをはじめ、学校中の人間は関わりたくはなかったでしょうね。霊能力を持った、得たいの知れないわたしには。靴を隠されたり机に落書きされたりなんてのは無かったけど、そのかわり誰もわたしに近寄らないし、口もきかない。先生までわたしを、腫れ物でも見るような目をして、わたしを拒絶していたわ。暗黙の多数決。賛成の多いほうが正しい。わたしはみんなに貶されて当たり前。それは高校に入ってからも続いた。わたしの理解者は誰もいない。母親はわたしが小学生の頃に亡くなったし、霊媒体質ではない父親は仕事で忙しくて、わたしの相手はしていられない様子だった。
そんな日々の孤独に高校二年のとき、わたしはついに、自ら命を絶つことを決心した。食料も何も持たず、遺書を懐にひそめて一人で森へ入ったの。それがこの<キヅキの森>。ここで餓死するか、もしくはどこか急な傾斜があるところから頭から落ちていって死のうかと思った。そしてわたしは、それにふさわしい場所を見つけた。急な傾斜があって、落ちたら死にそうな場所を。でもそこへ落ちていこうとしたとき、後ろから誰かに腕を掴まれた。わたしが落ちそうになるのを見て、助けに来た年配の女の人がいたのよ。
「危ないじゃない!こんな場所でふらふらしていたら!危うく落ちるとこだったよ」
その女の人は息を切らしてそう言った。そのあと、わたしが荷物をいっさい持っていないことを不振に思ったのか、あたりを見渡していたわ。そして落ちているわたしの遺書を見つけてられてしまい、そしてわたしが死のうとしていたことに気付かれてしまったの。観念したわたしは、その女の人に話した。わたしがここで命を絶とうと決意するまでに至った今までのいきさつを、洗いざらいその見ず知らずの女の人に話したの。そう、その女の人こそが、末永弱音さんだったわ。それは今から十一年前のことよ。その出会いが、わたしの人生を変えたの。』

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