カイカイカイ…

霜月 秋旻

いらないもの

「なんで…?」
帰ったと思われた喜与味は、満面の笑みで、僕の後ろに立っていた。そして戸を閉めて鍵を内側からかけた。
「ごめん。やっぱり快くんの部屋をみてみたくて、戻ってきちゃった」
「だから散らかってるって」
「別にいいよ。散らかってても気にしないから」
彼女は遠慮という言葉を知らないらしい。彼女のあまりの押しの強さに、僕は諦めた。しかし見せるのが恥ずかしいくらい、僕の部屋は散らかっている。
「じゃあ、五分くらいここで待ってて」
僕はそういい捨てて、玄関からあがってすぐにある階段をかけあがった。僕の部屋は二階にある。僕は部屋のドアを開け、床に散らかっているものに手をかけた。しかしどれから片付ければいいかわからないほど、いろんなものが部屋のあちこちに散乱している。五分とはいわず、十五分くらい時間をもらえばよかったと後悔した。もしくはやっぱり帰ってもらったほうがいいのかもしれないとも思った。
しかし気がつくと、喜与味は既に僕の部屋の入り口から、僕の部屋の中を眺めていた。足音を立てないように、そぉっと階段を昇ってきたのだろう。彼女は興味津々に、目を大きくして僕の部屋を見ている。
「すごいね。快くんの部屋。いろんなものが置いてあるね」
褒められているのか、けなされているのかわからない一言だった。喜与味に見られたのに気付いた時点で、僕は片付ける手を止めた。片付けるのを諦めた。
「すごいだろ。笑いたければ笑えよ…」
喜与味が、散らかった部屋に入ってきた。まるで僕の心の中に、土足で入り込まれたような、そんな感覚があった。
せんべえ、スナック菓子、飴などの細々した食べ物。そしてどこかのスーパーからもらったパンフレット。親戚からもらったお下がりの衣類が多数。卒業記念にもらった置時計数点。誕生日プレゼントでもらったおもちゃも数点。試験対策の参考書やノートパソコン。そういったもので僕の部屋は散らかっていた。
「快くんって、こういうお菓子をよく食べるの?」
喜与味は、僕の勉強机に置いてあるスナック菓子を手にとって尋ねた。僕は違うと答えた。近所のおばさんがよく僕にお菓子をくれるのだ。そして、くれるお菓子はどれも、特別好きというわけではないけど、嫌いではないもの。食べようと思えば食べられるのだが、僕は食べようとせず、それはどんどん溜まっていった。両親にあげようとしたが、父も母もいらないと答えたので結局、僕の机にそのままになっている。
「服、いっぱいもってるね。これ全部着てるの?」
畳まれた状態で床に置いてある僕の衣類を見て、喜与味が尋ねた。そしてまた僕は否定した。親戚からもらったおさがりの衣類は、ほとんど僕の趣味ではない。せっかくもらったので、とりあえずそのまま置いておいているだけだ。着ないで処分するのも申し訳ないと思ったからだ。
喜与味は他にも、部屋に置いてあるものについて僕に尋ねてきた。時計が何個もあるのはなぜなんだとか、どこかのCDショップでもらったパンフレットをみて、どんなアーティストの曲を聴くのかだとか、いろんな質問を僕にしてきた。その数々の質問に対して、僕は曖昧な返答をした。
改めて質問されると、僕の部屋にあるものはどれもこれも、僕にとってあまり必要ではないものばかりだ。ほとんど、人から貰ったものばかり。人が使わなくなったものを、僕が引き受けたようなものばかりだった。自分にとって必要なものといえば、机の上に置いてあるパソコンと、部屋の片隅にあるテレビぐらいのものだった。この部屋には、僕自身の個性のかけらもない。何もかも投げやりな部屋。ここは本当に、ただの物置だった。いらなくなったものを保管しておく場所。ただ僕が眠る場所。それがこの部屋だった。

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