俺が女の子にされた理由(ワケ)

コタツ

7話熊谷詩織は天然で

「ごちそうさまでした……俺はこの辺で……」

 ザッと逃げるように席を立つ鵜久森。

「えぇ!?」

 その早さに驚いて反射的に声をあげてしまった。
 ただ、何処かに行ってくれるならそれもそれで俺的には問題ない、でも熊谷さんから見れば余り気分が良いとも思えない。
 そんなこと思って熊谷さんの方を見てみると先程まで俺の隣に居たはずなのにその姿はなく、視線を前に向けると鵜久森君の前を通せんぼするかのように身体を傾けていた。

「私、お邪魔でした?」

 申し訳なさそうに聞いてくる熊谷さんに鵜久森君は首を横に振る。

「ち、違う。 昼も食べたし学食にいる理由もなくなったから戻るだけだ」

「でも食べた形跡がないんですが……」

「あいにく昼はおにぎりしか食べない主義でね、ゴミはほらここにある」

「え? それだけで足りるんですか!?」

「十分だ。 部活もしてなければあとは帰って寝るだけ、食べる必要性がない」

 あれーさっきは経済的に計算して主婦的なこと言ってたのに……と言っても普通の男子高校生じゃおにぎり二つでは満腹にはならんだろ。

「良ければ私の唐揚げ食べますか? 美味しそうだったんでついついたくさん買っちゃいまして一人じゃ食べ切れるか心配で……」

「いらないね。 俺は人の義理を受けるつもりはない」

 うわー人の優しさをそこまで拒めるか。
 なんて二人のやりとりを観察してると、拒否した鵜久森がこっちを向いて目で何かを訴えてくる。
 恐らく助けろとかその辺りの意味合いだろうか。
 でも俺自身、彼を助ける理由なんてそもそも持ち合わせていないし、こんな状況だとむしろイジメたくなる。

「あれー? さっきまで地蔵みたいに動かなかったのに? 熊谷さんが来た途端どっか行くんだ? もしかしてだけど……え? ホントに!?」

 俺の知る女子高生を頑張って演じ、相手の様子を伺うと、ピクピクとコメカミに力を入れながらすごく睨まれた。
 が、ここで引くなら最初から何も言っていない、熊谷さんが何故彼に声をかけたのか、あと鵜久森が彼女が来た途端の奇怪な行動理由はわからないが、面白そうだしもう一声かけてみる。

「それにまだおにぎり残ってるよね? 仕方ないから一緒にお昼食べてあげる」

 熊谷さんと俺の言葉にようやく諦めたのか、鵜久森はため息を吐き捨て椅子に腰を下ろした。 
 それに満足したのか熊谷さん喜色の面を浮かべながら隣席から空いた椅子を取り腰に降ろすと何やら口元を緩ませる。

『夢見たいです。 こんな数人のご飯いつ以来でしょうか、中森さんに感謝ですね』

 あーなるほどね、ただ熊谷さんはご飯を一緒に食べる人が欲しかったんだ。 まぁ、一人よりも二人、二人よりも三人と数が多いほど話も盛り上がるしね。 だから呼び止めたのか。
 なんて考察してみる、てか熊谷さんやっぱり独り言が独り言になってないんだよな。
 でもここは聞かなかったフリをするのが正解だし、黙っておこう。

「アンタら二人はどいう関係なんだ」

 未だ不機嫌な鵜久森は率直な質問を投げかけてくる。 俺と熊谷さんはお互い顔を見合わせえへへと苦笑いし、なかなか言葉が出ない。
 確かに俺と熊谷さんの関係ってなんなんだろ。 友達と呼ぶには早すぎる気もするし、知り合いだとなんだか相手に失礼な気も……それに一緒にお昼を食べてる時点で知り合い以上ではあるし。

「はぁ……アンタ、熊谷のこと何も知らないんだな。 普通一緒に昼飯食べるなら食堂には来ないぞ?」

「私、そんな秘密組織に所属してるような人間じゃないですよ?」

 熊谷さんが冗談交じりの返答すると、鵜久森は本人も自覚なしか呆れた様子で話しだす。

「学校七不思議の一つ。 才色兼備のお嬢さま。 転校初日に二十人近くの男子生徒に告白され、次の日からはどこに行くにしても周りにはSPのように男子がついている。 それから数日、昼休みと放課後に彼女の姿を見た者はいない」

「もしかして……その彼女ってのが」

「私!?」

 何故か一番驚いたのは熊谷さんだった。
 てか学校七不思議なのに一つも怖さがないんだが、てか長門蒼真に関しても言えるんだけど不思議じゃないし、存在がはっきり確認出来てるし。

「学校七不思議って言う言葉をこの学校は知ってるのか……」

「アレだ、この学校のは学校の七人の不思議な生徒って意味だからな、てかなんで知らないんだよ」

「あはは興味なくて……」

 そんなやり取りをしてる横で熊谷さんがポンっと一つ手を叩く。

「あ、なら鵜久森君の噂も七不思議なんですか?」

「鵜久森の噂? え? あるの?」

 俺が聞き返すと、鵜久森が慌てて手で止めるも熊谷さんは気にすることなく頷き———

「えっと確か……『いつも一人ぼっちの生徒がいる』だったと思います」

「それだけ?」

「ごめんなさい、あくまで聞こえてきた話なので……」

 確かに今は普通に一緒にご飯食べて話しているけど、鵜久森自身どう見ても常人じゃないもんな……そりゃノミネートされるわ。
 でも説明がそれだけなんてあんまりだ……適切なのに悲しいな。
 なんてドンマイと視線を送ると鵜久森は軽く舌打ちしながらこっちを向いた。

「やめろ、哀れんだ目でこっちを見るな。 それよりも今は熊谷の話だろ」

 それもそうか。

「てか熊谷さんって転校生だったの? それもお金持ち!?」

 外れかけた路線を戻しつつ熊谷さんに確認する。
 するとどこか照れ笑いを浮かべながら熊谷さんは否定せず頷く。

「今年の春から一応転校してきました。 あと、お金持ち自慢はあまりしたく無いんですが……お父さんが社長で……」

 へ、へぇー全く知らなかったな。 
 そういや曽根が美少女が転校して来たぞ!? とかなんとか騒いでたか。
 それに熊谷さんの昼食、トンカツ定食にパック唐揚げが二箱、ポテト一つに飲み物は紅茶、締めのシャーベットと高校生が一日で使う学食の金額じゃねぇ。

「じ、じゃあ休み時間に男子を連れて歩いてたのも……」

「それはまるっきりの誤解です!!!」

 一呼吸置き、どこか表情の裏に愁色さを見え隠れさせる。

「確かに……転校してから多くの方からお付き合いの話を頂きました。 毎日、毎時間、何度も何度も呼び出されて。 流石の私も疲れちゃいまして、昼休みと放課後は誰にも会わないようにと姿を隠してたんです」

 ぼっち飯を食べる裏にはそんな事情があったのか……確かに俺、熊谷さんのこと何も知らないだな。

「で、でも! 誰かとこうして一緒にお昼食べるのすごく憧れてたんで中森さんには感謝の気持ちでいっぱいです!」

「そんなそんな! 感謝されるなんてこと一つもやってないよ!?」

「感謝の印に唐揚げ食べませんか?」

「あ、ありがと」

 学食特性ジューシー唐揚げをひとつまみし口に放り込む。 隠し味の柚子の香りが鼻を抜け、食欲を誘う絶妙な味だ。
 でも、感謝の表し方が小さくない? 気のせい? 気のせいか。まぁ、熊谷さんの満面の笑みを見れただけで充分だな。

「友情物語に口を挟むのは悪いんだが、隠れるまでして男どもから逃げてんだろ? こんな大勢いる学食で堂々と飯食ってて良いのか?」

 顎に肘をつきながら素朴な疑問を鵜久森が心配げに聞いてくる。
 でも確かに熊谷さんの噂が本当なら何人かが声をかけてきてもなんら不思議ではない。 むしろ、この場面で公開告白とかされてみろ、めんどくさいなんかで済ませれる話じゃない。
 だが熊谷さんはどこか安心してとどこか真面目そうにポケットの中から小物を取り出す。

「安心してください! しっかりとここに来るまで変装してましたから!」

 とか言って黒一色のニット帽を深く被り、サングラスにマスクと怪しさ全開の姿を披露。
 どう考えても逆に目立つ……街中歩けば『有名人の〇〇さんですよね!』って言われるぐらい目立ってる。
 バカを見るかのような冷たい視線を二人で送ると、流石に変だと気がついたのか熊谷さんが肩を縮めてションボリしていた。

「で、でも大丈夫です! この場所は端ですし見通しも悪いですから! 他の人が来るなんてことそうそうありませんよ?」

「それ言ったらダメな奴だろ……」

 俺も同じこと思ったよ鵜久森と、お互いため息を吐く。 熊谷さんはえ? え! ってびっくりしてるけど何やら嫌な事件が起きそうだ。

「詩織! ここに居たのか!」

 ほらやっぱり。
 隣から誰か来たようで俺の昼休みはまだ続きそうだ。

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