俺が女の子にされた理由(ワケ)

コタツ

6話ひねくれ少年もまたぼっちで

 机の上に転がった折鶴はたしかに見覚えがある。 だがこの学食に席の予約制度なんてなく、一般的にカバンや服を席に置いて立ち退くべきで折鶴を置かれて予約してましたなんて俺は知らないし、そもそも早い者勝ちという権利がある。
 それにこの状況で席にやってくる度胸、こいつ只者じゃなさそうだ。 てか、なんでこんな変な人ばかり来るんだろうか。

「あんたら二人がどんな関係でどんな状況か知らんけど、ここは飯食うところだからナンパするなら外でしろよ」

 助け舟を出してくれるかと期待してもやっぱり自己中。 変な奴だ。 首にかけたヘッドフォンがそれを物語っている。 
 てか、ここで乱入されると話がややこしくなりそうなんだけど……。

『え? なになにあの子の席にもう一人男子行ったよ?』

『え? 修羅場? 三角関係? てか長門君じゃない方の子誰?』

『さぁな、でも冴えない顔してんなー』

「人ごとだと思って……」

「えっと中森さん? もしかしてだけど君が約束してたって人、鵜久森君なのかな?」

 まだ良く状況を理解していないのか長門蒼真は苦笑いしながら二人を見比べる。

「ち、ちが!? …………」

 チラッと向かい側へ目線を送ると俺たちに興味がないのか首にかけてたヘッドフォンを耳に当てスマホを操作している。
 こちらの話し声をシャットアウトしているつもりか、それなら可能性は低いかもだけど……利用させてもらうことにした。

「そ、そうだよ! 彼を待ってたんだ! うん!」

 嘘をつくのには定評があるんだが、どうにもぎこちない演技になってしまった。 流石にバレるかと思いや、長門蒼真は優しげな笑みを浮かべてそっかと呟いた。

「二人の邪魔しちゃ悪いな、今回は諦めるよ」

 その一言に周り空気が一瞬止まる。 誰もが長門蒼真がフられるとは思わなかったに違いない。 きっと本人も思ってなかっただろう。

「中森さん」

「へ?」

「今、好きな人とかいるの?」

「い、いないけど!?」

 数回瞬きしてから俺は慌てて両手をブンブン振り否定する。 なんでコイツはサラサラとそんな恥ずかしいセリフを言えるんだ。なんて思ってると長門蒼真は机の上に小さな紙切れを置いた。

「良かったら開けてみて今じゃなくてもいいから、俺待ってるから」

 どこか寂しげ、そして悔しげに彼の背中が遠くなる。 あの目はきっと俺に気がある目だ、俺もそんなに鈍感じゃない。 多くの恋愛を目の当たりにしてきたからわかる、人が好意を向ける目。
 もし、俺が女子なら返事は変わってたかもしれない、いや変わらないか。 とても苦手な人種、俺とは真反対の人間だ。そんな人と分かり合えるわけがない。
 この紙に何が書いてあるか分からないけど多分開くことはないだろう、でも捨てるにもここじゃ人目につく、教室に戻ってからで良いかと制服の中にしまった。

「あんな見え透いた嘘ついて良かったのか?」

「は!? 聞いてたの!?」

「聞いたんじゃない聞こえたんだ」

 なんだよその屁理屈。 犯人がよく言うセリフじゃん、取るより取られた奴が悪いんだ!? みたいな感じ。 てか、ならなんで利用されたのに何も言わなかったんだろう。

「ごめん……」

「別に謝られることされた覚えはない」

「別にこっちが謝りたいだけ……そっちは聞き流してくれたらそれでいい」

「良く分からないが、そーさせてもらう。 後、用が済んだならどこか行ってくれないか? 安心して飯も食えないんだが」

 あ、そう言えば彼からしたら俺も邪魔者だったんだっけ。 えっとこの場合は退くべきなんだろうか、いやいや俺の方が先に座ってたよね!? 

「どくも何もこっちが先に座ってた早い者勝ちだ」

「ふん、この折鶴を置いていた。 予約済みだ」

「そんなので予約とか言われても譲れないから!?」

 なんだろうこの捻くれた感じ、喋っていてどっと疲れてくる。
 俺が声をあげても向こうは機械みたいに一定のトーンで言葉のキャッチボールにもならない。

「それよりもあんた約束約束言ってたけどその友達はホントに来るのか?」

 そう言われてみると熊谷さん遅いな。
 てか、俺熊谷さんに場所伝えてないよね、しまった……! こんな角の見えにくい場所大勢の生徒がいる中で見つけれるとも思えない。
 でもここで探しに行けばこいつの思うツボ、他に移るにしても席を確保できる保証はない。
 いや、熊谷さんだ。 信じろ、俺が出来るのはこの席を守ることだ。

「来るよ、もうじきな」

「う、嘘じゃなかったのか……」

「そこまで嘘つきじゃないから!?」

「別に来るなら良いけど、俺はこの席を離れるつもりはない。 それで良いなら好きにしたらいい」

 言われなくてもこっちも退くきはない、熊谷さんさえ来てくれれば、居心地の悪さから移動するだろ、女子二人いや厳密には一人だがに囲まれて呑気に飯なんか食える男子はそうそういない。 これが俺の作戦セカンドだ。
 それにしてももう一つ気になるのは彼の昼飯だ。 おにぎり二つだけって……育ち盛りの高校男子の昼食とは思えないチンケなものだ。

「高校男子とは思えない貧相な昼食だけど……それで足りるのか?」

「おにぎり二つで140円、1ヶ月学食利用する日を20日で計算してみろ、2800円だ。 俺の小遣い3000円の中で1ヶ月生活するにはこれ以上の贅沢は出来ない」

 それなら家でおにぎり作れば良いんじゃないか……おにぎりなんて買うほどのものじゃない、特に学食に売っているのはコンビニのおにぎりと比べればかなり小ぶりで70円の価値があるかと聞かれれば首を傾げる値段だ。

「それにそう言うアンタもパン二つって人のこと言えないだろ? ダイエットでもしてんのか」

「し、してないけど!? てか無神経だな!」

 た、確かに最近腹の肉がついてきたから筋トレしようと考えていたところだったが……。
 男の俺に言うならまだしも高校生のそれも一番気にしてる年齢の女子に言えるのはもはや尊敬する。

「神経使いながら生活すんのも疲れるだろ?」

「屁理屈ばっかり、絶対友達とか彼女いないタイプだろ」

「作らないの方が正しいな、人付き合いとかめんどくさいから、俺は一匹オオカミだ」

 典型的なぼっちだ。
 いやそこまでキリッと胸張ってハッキリぼっち宣言できるなら、誇れるべきか。
 何にせよ、ここだけの付き合いでもう話すこともなさそうだ。 向こうもその気でケータイをいじりながらおにぎりをかじっている。

「中森さん! ごめんなさい、お待たせしました!」

 そんなこんなで数分待つと熊谷さんがようやくやってきた。

「待ってない待ってない、場所わからなかったよね」

「そーじゃないんですけど……。 ってアレ? 誰かいませんか?」

「あー!!! ちょ、ちょっと訳あってね!? 相席という形になっちゃうんだけど……大丈夫かな?」

「私は別に構いませんよ? えっと……鵜久森君? ですよね」

 熊谷さんは立った俺の脇の下を覗き込む。 

「え? 知り合いなの?」

「知り合いと呼べませんが……何かと言うと私が一方的に知ってるだけですね」

「へ、へぇ……意外」

 確かに熊谷さん自身もぼっち飯を食べてるぐらいぼっちだから、同類者として面識があってもおかしくはないんだが……。
 そんな俺より驚いたのは名前を呼ばれた鵜久森君で。

「マジかよ……」

 その表情は今までの冴えない色が濃いわけでもなく、どこかびびってるかのよう顔が青白かった。

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