俺が女の子にされた理由(ワケ)
4話放課後熊谷詩織は困ってて
俺が女の子になってから数日が経過しようとしていた。未だ男の戻り方を模索していた俺だが今はそれどころじゃなく、人生を左右すると言っても過言じゃない帰路に立っている。大袈裟じゃないよ、ホントだよ!
クラス担任の稲美新奈《いなみにいな》先生は困り果てた顔を手で支えながらため息を吐く。その相手はもちろん俺なんだが……
「私も中森さんの気持ちは良くわかる! わかるんだけど……校則だからそこは分かってくれないかな?」
「あ、アタシだって分かってますけど……譲れない事情があるんです!」
慣れない一人称を使いつつ、俺はかれこれ30分程度職員室の中でとどまっていた。
なかなか話の進まないこの状況、面倒くさがりな俺がここまで粘る理由……簡単に表せば服装の件なんだが。
「わかるんだよ!?先生も学生の頃は冬は寒いし、足を強調しちゃうから嫌だっけど! それに年頃の女の子の中じゃ数人毎年文句言う子もいるんだけど……それでも校則だからね?」
そう単純な服装、例えばシャツを出していたとかベルトをしていない、リボンをしていないとかこちらに非がある場合なら俺も謝ってすぐに帰っていたが……この学校なんと俺にスカートを履けと言ってくるのだ。ぼ、僕は嫌だ!
「校則校則った先生言うけど、実際この学校校則ガバガバじゃないですか!? スマホOK、ピアスもノンホールならオシャレで認めてるし、ズボンを履くこともアタシにとってはオシャレの一つなんです!」
暴論だと言われればそれでお終いなんだが、稲美先生は生徒からの押しに弱い。少し強気に攻めれば俺にも勝機がある!
「で、でも! 中森さん細いしスカート履いても似合うと思うけど……」
「細くないですよ!?」
俺は足に力を入れ太く見せようとするも実際細い。 男の時も散々細マッチョといじられてただけに受け継いたんのか今の身体は平均よりやや細身だ。
そんな俺の微妙な反応の変化に気づいてから稲美先生は硬いセリフよりもおだてる作戦の方が可能性があると見たく……。
「そうだ! 中森さんって気になる男の子とかいないの?」
「急になんですか? べつに興味ないです……」
戸惑いつつもそっち系の話には全く興味がない俺は正直に答える。 むしろなんだよその質問、好きな女子いないの? ならわかるけど男子聞いてどうすんだ、カフェに行ってコーヒー頼もうとしたら『ご注文はうさぎですか?』って聞かれるみたいなもんだぞ、違うか……違うな。
「ほらほら視線外しちゃって! ほんとはいるんじゃないの? ね?」
ゲスい顔してお姉さんぽい甘い声で聞いてくる先生。 なんだ、女って先生と生徒の関係でもこんな話するの。 怖いよ。
だがな、先生……俺をその辺の乙女と一緒にされちゃ困るぜ。
「いないですって! それに人に聞く時はまず自分からって習わなかったんですか?」
「え? なにその自己紹介は自分から見たいな理論!?」
「それに先生も彼氏いないですよねー? もうじきアラサーなのに……アタシの心配してる場合ですか?」
「アラッ……アラサー……だ、大丈夫まだ3年時間あるから……大丈夫だよね!?」
俺の強烈なカウンターが先生の急所に入ったらしく、涙目になりながら訴えてくる。
「いや大人の恋愛事情聞かれても困りますあはは……」
言い過ぎたかな? 年頃の女性には優しくしなさいと姉ちゃんに言われてたのを思い出した。
「と、取り敢えず! 私の一任だけじゃ許可出来ません!」
「そこをなんとかお願いしますよ! 先生ー!」
スカートだけは、スカートを履くことだけは男のポリシーとして断固あってはならないんです。
曽根曰く「スカートは履くもんじゃない、見るもんなんだ」って言ってたしね!?
「先生から見ても中森さんはズボンよりスカートの方が似合います!」
「似合わないけど!?」
「そんなことないですよ……」
稲美先生はそこで一区切り置き、優しく愛でるような声で呟いた。 なにかその前に最終手段とか聞こえたのは別の話。
「中森さんは私から見て凄く可愛いです、整った顔に優しそうな目、そこにスカートが加われば高校男子ならイチコロですよ? ね?」
この人ほんと何言ってんだ。 
それに……またか、可愛いとか言われた……カッコいいならともかく可愛いなんて言われても全く嬉しくない! 
世間の噂で一つ、男の可愛いはブサイクの隠語だって説がある。 今の状況的には違えど俺にとっちゃ可愛いなんて言葉は貶し言葉の一種。
そんな俺が先生の甘い言葉で騙されるはずもなく、白けた目ではっきりと言ってしまった。
「興味ないです」
「…………あれ?」
『おかしい……私の教師生活数年間の中でこの言葉を聞いて女子力に興味を持たなかった女子はいなかったのに……寧ろ私のこの褒め言葉を聞いて、白けてる人間なんて一人もいなかったわ』
凄い、何か独り言でブツブツ言ってるけど一語一句聞こえてくる。 それよりこの先生の人生しんどすぎないか、これが愛想よく生きていくということなのか。 
俺が哀れんだ瞳で先生を見つめていると、ようやく諦めたのか一つ咳払いをしながら稲美先生がこちらを向いた。
「わかった! 先生の方から一度保護者会に案を出してみる。 でも結果はどうなるか分からないからね? それでもいい?」
「お手数をおかけします……」
一礼し、俺は職員室を後にする。 仕方ない、許可はもらえなかったが検討してもらえるだけ取引には勝ったのだろう。
後日、許可が下りなかったのはここだけの話だ。
*
放課後になれば部活動の活性化しエネルギーに満ちた掛け声が校舎まで聞こえてくる。 
部活を何もしていない俺は基本一人で帰ることが多い。曽根も弘樹も今頃は部活動に励んでいる頃だろう。
この学校は部活動が盛んであり、多くの部が毎年全国大会や近畿大会に進んでいる。 
逆に俺みたいにこの時間帯に帰る生徒は珍しく、昇降口に向かっても誰もいないだろうと……思っていたが。 
そこには最近見た覚えがあるロングヘアーのシルエットが元気のなさそうにしおれていた。
「えっと熊谷さん?」
無視するのもアレなので遠慮気味に声を掛けると向こうもこちらに気づいたらしく、ぎこちない笑みを浮かべている。
「奇遇ですね、中森さんも今から帰りですか?」
「うん、ちょっと職員室寄っててさ」
「もうじき外も暗くなりますし、気をつけてくださいね」
「うん……」
気まずい。 案の定二人の会話はそこで途切れ、俺は足早にローファーに履き替え外に向かう。 しかし、熊谷さんは立ち止まったまま動こうとしない。
関わらない関わらない、きっと俺が帰るのを待っているんだ。 良くある話だ、名前ぐらいしかしらない相手とばったり出会ってしまって挨拶はするが、帰りは時間をずらして妙な距離を開けること。
そうだと思いつつも俺は熊谷さんの所まで寄ってしまった。 
熊谷さんの近くの靴箱は開いている、そこを覗くもローファーはなく、本人も履いていない。 まさかと思っていたがそんな俺に気づいた熊谷さんがえへへと力なく笑う。
「見ちゃいましたか……?」
「靴がないのか? まさか誰かに隠されたとか?」
「い、いえ!? えっと……多分そうなんですけど。 で、でも! 日常生活送ってると靴が無くなることぐらい良くありますよ!?」
普通の日常生活を送っていたら靴は無くならないけどな? 
と何か言いたげな彼女をよそに俺は掃除用具入れの中や靴箱の上などを調べてローファーを探す。しかしそれらしきモノは見つからず断念し、作戦変更。
「ちょっと先生呼んでくるわ」
一言残し駆け出そうとした時腕を掴まれ止められる。 振り向くと熊谷さんは申し訳なさそうにしながら呟いた。
「ローファーの場所……目星はついてるんです……」
熊谷さんはそのまま右に二つずれた靴箱を開ける。 異臭といっても過言じゃない汗の匂いが立ち込めるおそらく男子生徒のものだろうか。 熊谷さんはそこから少し小さめのローファーを取り出した。
「しっかり洗えば臭いとれますかね?」
呑気な心配をしてる彼女を見ながら俺は疑問を抱えたまま何も言えずじっと黙る。
「嫌な所見せちゃいましたね、ごめんなさい。 私はここで失礼します」
嫌な顔せず熊谷さんは躊躇なく匂いのついたローファーに足を入れようとした、俺だったらとうてい真似できない、裸足で帰る方がまだマシだ。 家に帰る頃には靴下まで染み付くような男なら運動部の勲章だと言えるが女の子は匂いにシビアだったりする、いい例が香水ばかりつける姉だ。
そんな考えに従ってか、自分のローファーを脱ぎ捨て彼女の前に投げていた。 
「えっと……中森さん?」
「俺のローファー使って、臭いするかもだけど毎日消臭スプレーかけたりしてまだマシだと思う」
「でも、それだと中森さんの靴が無くなりますよ!?」
自分はどうでも良いのに人の心配はするんだな。 でも俺はそんな人思いの性格じゃない。
俺は靴箱から運動靴を取り出す。
「体育の時間、俺サッカー選択してるから靴持ってきてるんだ。 それにローファーだと足痛くなるし、今日は運動靴で帰るよ」
多少は申し訳ないと断っていた熊谷さんだったが、俺が反応せずにいると諦めたかのようローファーに足を入れた。
「えっとその、明日には洗って返すんで……」
「洗わなくて良いよ!? そんな洗うもんでもないでし、困ってる時はお互い様だから」
「ありがとうございます」
お礼を言われることなんて何一つやっていない。彼女の靴がなぜ男子生徒の場所にあったのか。
イジメ? 盗難? あげれば限りなく予想出来る。
そこを解決しない限り、明日も明後日も彼女はまたこうしてローファーを探すことになる。もしかしたら彼女の身に何かあるかもしれない。
でも俺がどうにかできるはずもない、間に入って火に油にでも注いでみろ、瞬く間に共犯者だ。
それに俺は男だ。 男と違って女は難しい生き物だ、根本的な考えが違うそんな問題俺がどうにか出来るわけもない。
俺の出来ることといえば彼女がいつも通りに学校生活を送れるよう願うことぐらいか。
……違うな。
何も出来ないとしても--熊谷さんはこんな悲しい顔をしている人じゃない
「熊谷さん」
「はい?」
「明日のお昼一緒にどうかな?」
優しさなんて俺にはない、これは気まぐれだ。 でも熊谷さんが安心して頼れる拠り所を作ってあげたい。
友達になってくださいなんて甘い言葉はかけれない、でもきっと彼女の近くにいれば彼女が抱える問題に向き合えるかもしれない。
クラス担任の稲美新奈《いなみにいな》先生は困り果てた顔を手で支えながらため息を吐く。その相手はもちろん俺なんだが……
「私も中森さんの気持ちは良くわかる! わかるんだけど……校則だからそこは分かってくれないかな?」
「あ、アタシだって分かってますけど……譲れない事情があるんです!」
慣れない一人称を使いつつ、俺はかれこれ30分程度職員室の中でとどまっていた。
なかなか話の進まないこの状況、面倒くさがりな俺がここまで粘る理由……簡単に表せば服装の件なんだが。
「わかるんだよ!?先生も学生の頃は冬は寒いし、足を強調しちゃうから嫌だっけど! それに年頃の女の子の中じゃ数人毎年文句言う子もいるんだけど……それでも校則だからね?」
そう単純な服装、例えばシャツを出していたとかベルトをしていない、リボンをしていないとかこちらに非がある場合なら俺も謝ってすぐに帰っていたが……この学校なんと俺にスカートを履けと言ってくるのだ。ぼ、僕は嫌だ!
「校則校則った先生言うけど、実際この学校校則ガバガバじゃないですか!? スマホOK、ピアスもノンホールならオシャレで認めてるし、ズボンを履くこともアタシにとってはオシャレの一つなんです!」
暴論だと言われればそれでお終いなんだが、稲美先生は生徒からの押しに弱い。少し強気に攻めれば俺にも勝機がある!
「で、でも! 中森さん細いしスカート履いても似合うと思うけど……」
「細くないですよ!?」
俺は足に力を入れ太く見せようとするも実際細い。 男の時も散々細マッチョといじられてただけに受け継いたんのか今の身体は平均よりやや細身だ。
そんな俺の微妙な反応の変化に気づいてから稲美先生は硬いセリフよりもおだてる作戦の方が可能性があると見たく……。
「そうだ! 中森さんって気になる男の子とかいないの?」
「急になんですか? べつに興味ないです……」
戸惑いつつもそっち系の話には全く興味がない俺は正直に答える。 むしろなんだよその質問、好きな女子いないの? ならわかるけど男子聞いてどうすんだ、カフェに行ってコーヒー頼もうとしたら『ご注文はうさぎですか?』って聞かれるみたいなもんだぞ、違うか……違うな。
「ほらほら視線外しちゃって! ほんとはいるんじゃないの? ね?」
ゲスい顔してお姉さんぽい甘い声で聞いてくる先生。 なんだ、女って先生と生徒の関係でもこんな話するの。 怖いよ。
だがな、先生……俺をその辺の乙女と一緒にされちゃ困るぜ。
「いないですって! それに人に聞く時はまず自分からって習わなかったんですか?」
「え? なにその自己紹介は自分から見たいな理論!?」
「それに先生も彼氏いないですよねー? もうじきアラサーなのに……アタシの心配してる場合ですか?」
「アラッ……アラサー……だ、大丈夫まだ3年時間あるから……大丈夫だよね!?」
俺の強烈なカウンターが先生の急所に入ったらしく、涙目になりながら訴えてくる。
「いや大人の恋愛事情聞かれても困りますあはは……」
言い過ぎたかな? 年頃の女性には優しくしなさいと姉ちゃんに言われてたのを思い出した。
「と、取り敢えず! 私の一任だけじゃ許可出来ません!」
「そこをなんとかお願いしますよ! 先生ー!」
スカートだけは、スカートを履くことだけは男のポリシーとして断固あってはならないんです。
曽根曰く「スカートは履くもんじゃない、見るもんなんだ」って言ってたしね!?
「先生から見ても中森さんはズボンよりスカートの方が似合います!」
「似合わないけど!?」
「そんなことないですよ……」
稲美先生はそこで一区切り置き、優しく愛でるような声で呟いた。 なにかその前に最終手段とか聞こえたのは別の話。
「中森さんは私から見て凄く可愛いです、整った顔に優しそうな目、そこにスカートが加われば高校男子ならイチコロですよ? ね?」
この人ほんと何言ってんだ。 
それに……またか、可愛いとか言われた……カッコいいならともかく可愛いなんて言われても全く嬉しくない! 
世間の噂で一つ、男の可愛いはブサイクの隠語だって説がある。 今の状況的には違えど俺にとっちゃ可愛いなんて言葉は貶し言葉の一種。
そんな俺が先生の甘い言葉で騙されるはずもなく、白けた目ではっきりと言ってしまった。
「興味ないです」
「…………あれ?」
『おかしい……私の教師生活数年間の中でこの言葉を聞いて女子力に興味を持たなかった女子はいなかったのに……寧ろ私のこの褒め言葉を聞いて、白けてる人間なんて一人もいなかったわ』
凄い、何か独り言でブツブツ言ってるけど一語一句聞こえてくる。 それよりこの先生の人生しんどすぎないか、これが愛想よく生きていくということなのか。 
俺が哀れんだ瞳で先生を見つめていると、ようやく諦めたのか一つ咳払いをしながら稲美先生がこちらを向いた。
「わかった! 先生の方から一度保護者会に案を出してみる。 でも結果はどうなるか分からないからね? それでもいい?」
「お手数をおかけします……」
一礼し、俺は職員室を後にする。 仕方ない、許可はもらえなかったが検討してもらえるだけ取引には勝ったのだろう。
後日、許可が下りなかったのはここだけの話だ。
*
放課後になれば部活動の活性化しエネルギーに満ちた掛け声が校舎まで聞こえてくる。 
部活を何もしていない俺は基本一人で帰ることが多い。曽根も弘樹も今頃は部活動に励んでいる頃だろう。
この学校は部活動が盛んであり、多くの部が毎年全国大会や近畿大会に進んでいる。 
逆に俺みたいにこの時間帯に帰る生徒は珍しく、昇降口に向かっても誰もいないだろうと……思っていたが。 
そこには最近見た覚えがあるロングヘアーのシルエットが元気のなさそうにしおれていた。
「えっと熊谷さん?」
無視するのもアレなので遠慮気味に声を掛けると向こうもこちらに気づいたらしく、ぎこちない笑みを浮かべている。
「奇遇ですね、中森さんも今から帰りですか?」
「うん、ちょっと職員室寄っててさ」
「もうじき外も暗くなりますし、気をつけてくださいね」
「うん……」
気まずい。 案の定二人の会話はそこで途切れ、俺は足早にローファーに履き替え外に向かう。 しかし、熊谷さんは立ち止まったまま動こうとしない。
関わらない関わらない、きっと俺が帰るのを待っているんだ。 良くある話だ、名前ぐらいしかしらない相手とばったり出会ってしまって挨拶はするが、帰りは時間をずらして妙な距離を開けること。
そうだと思いつつも俺は熊谷さんの所まで寄ってしまった。 
熊谷さんの近くの靴箱は開いている、そこを覗くもローファーはなく、本人も履いていない。 まさかと思っていたがそんな俺に気づいた熊谷さんがえへへと力なく笑う。
「見ちゃいましたか……?」
「靴がないのか? まさか誰かに隠されたとか?」
「い、いえ!? えっと……多分そうなんですけど。 で、でも! 日常生活送ってると靴が無くなることぐらい良くありますよ!?」
普通の日常生活を送っていたら靴は無くならないけどな? 
と何か言いたげな彼女をよそに俺は掃除用具入れの中や靴箱の上などを調べてローファーを探す。しかしそれらしきモノは見つからず断念し、作戦変更。
「ちょっと先生呼んでくるわ」
一言残し駆け出そうとした時腕を掴まれ止められる。 振り向くと熊谷さんは申し訳なさそうにしながら呟いた。
「ローファーの場所……目星はついてるんです……」
熊谷さんはそのまま右に二つずれた靴箱を開ける。 異臭といっても過言じゃない汗の匂いが立ち込めるおそらく男子生徒のものだろうか。 熊谷さんはそこから少し小さめのローファーを取り出した。
「しっかり洗えば臭いとれますかね?」
呑気な心配をしてる彼女を見ながら俺は疑問を抱えたまま何も言えずじっと黙る。
「嫌な所見せちゃいましたね、ごめんなさい。 私はここで失礼します」
嫌な顔せず熊谷さんは躊躇なく匂いのついたローファーに足を入れようとした、俺だったらとうてい真似できない、裸足で帰る方がまだマシだ。 家に帰る頃には靴下まで染み付くような男なら運動部の勲章だと言えるが女の子は匂いにシビアだったりする、いい例が香水ばかりつける姉だ。
そんな考えに従ってか、自分のローファーを脱ぎ捨て彼女の前に投げていた。 
「えっと……中森さん?」
「俺のローファー使って、臭いするかもだけど毎日消臭スプレーかけたりしてまだマシだと思う」
「でも、それだと中森さんの靴が無くなりますよ!?」
自分はどうでも良いのに人の心配はするんだな。 でも俺はそんな人思いの性格じゃない。
俺は靴箱から運動靴を取り出す。
「体育の時間、俺サッカー選択してるから靴持ってきてるんだ。 それにローファーだと足痛くなるし、今日は運動靴で帰るよ」
多少は申し訳ないと断っていた熊谷さんだったが、俺が反応せずにいると諦めたかのようローファーに足を入れた。
「えっとその、明日には洗って返すんで……」
「洗わなくて良いよ!? そんな洗うもんでもないでし、困ってる時はお互い様だから」
「ありがとうございます」
お礼を言われることなんて何一つやっていない。彼女の靴がなぜ男子生徒の場所にあったのか。
イジメ? 盗難? あげれば限りなく予想出来る。
そこを解決しない限り、明日も明後日も彼女はまたこうしてローファーを探すことになる。もしかしたら彼女の身に何かあるかもしれない。
でも俺がどうにかできるはずもない、間に入って火に油にでも注いでみろ、瞬く間に共犯者だ。
それに俺は男だ。 男と違って女は難しい生き物だ、根本的な考えが違うそんな問題俺がどうにか出来るわけもない。
俺の出来ることといえば彼女がいつも通りに学校生活を送れるよう願うことぐらいか。
……違うな。
何も出来ないとしても--熊谷さんはこんな悲しい顔をしている人じゃない
「熊谷さん」
「はい?」
「明日のお昼一緒にどうかな?」
優しさなんて俺にはない、これは気まぐれだ。 でも熊谷さんが安心して頼れる拠り所を作ってあげたい。
友達になってくださいなんて甘い言葉はかけれない、でもきっと彼女の近くにいれば彼女が抱える問題に向き合えるかもしれない。
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