俺が女の子にされた理由(ワケ)

コタツ

2話親友は恥ずかしながらトイレと言った

  俺の通う兵庫県立播磨中央《はりまちゅうおう》高校は校則があまり厳しくない。30分ギリギリのところで校門をくぐっても先生が仁王立ちしてることは滅多にないため遅刻の危険性が極めて低い。
  敷地面積の広さの割には校舎までの距離も長くなく時間が時間なのか下駄箱付近に生徒は数人しかいない。 これなら間に合いそうだ。
 
 「お、おはよう……」

  ぎこちない挨拶をしながら俺は席に座る。

 「んー!今日も30分ギリギリ!柚月狙ってるっしょ!?」

  呑気な調子で声を上げる、うるさい隣人は俺の保育園からの幼馴染、中曽根雷《なかそねらい》だ。見た目は少しやんちゃでピアスを開けたらと不真面目、身長は俺より少し高いくらい。 だが見た目の割には部活に勤しむし勉強もする。真面目なのか不真面目なのかわからない奴だ。

 「あれ?そーいや柚月髪切った?」

  もう一人のいつメン小幡弘樹《おばたひろき》が不思議そうに尋ねてくる。 
 弘樹は中学校からの付き合い、俺らより一回り小さいがバスケ部の小さなエースと言われるほどスポーツ万能。3人中じゃ唯一の彼女持ちだったりする。 
 女の子と常に関わっている弘樹だからこそ俺の小さな変化に気がついたのか。 現に後ろでピーチクパーチク騒いでる曽根は気づいてなかったのか、マジだ!?とか勝手に騒いでる。 因みに曽根はあだ名だ。

 「ストレートの柚月も良かったんだけど……ショートの柚月も似合ってる!まじで! て、なに?訳あり?彼氏にフラれたとか!?」

 「俺は何も言ってない……勝手に話を広げるな」
 「それにお前達も俺が女で当たり前のように振る舞うんだな……」

  2人に聞こえない程度の声でボソッと呟いた。 それでも俺を見た2人は嫌そうな顔をせず寧ろいつもの日常どおり、そんなやりとりが嬉しく思えた。

 「でもよーせっかくストレートの方が女の子ぽかったのに、ショート? にすると柚月って普通にイケメンになるっしょ!?俺を狙ってきた女の子が全部柚月の方へ行っちゃうんじゃね!?それやべくね!?」

  こいつホント幸せなぐらい思考ぶっ飛んでるんだな。 
  ん?こいつなんて言った今。

 「雷の考えすぎだろ。 もうじき夏が来るだろ?この時期になると女子も長い髪が邪魔で切りたくなるんだよ!」

 「曽根!!! 今なんて言った!?」

 「うっ!?ちょべ!? いきなり声あげんといてマジビビるから!?イケメンとか言ってんの気にした!? 悪かったって!?で、でもよー柚月そいうの気にしないタイプって……」

  曽根の慌てた弁解を阻むように俺は両手を肩に置く。

 「俺ってイケメンか?」

 「い、いきなりなん!? 柚月ちょっとおかしいべ!?」

 「真面目な質問してんの、答えろ」

 ちょっと直接過ぎたな、反省反省と落ち着いて俺は再度確認する。

 「俺って髪切ったら男の子ぽく見えるか?可愛いとかどうでもいい、こんな男子がいても違和感ないか?」

  少し驚いた様子を見せる2人だが何やら訳ありと感じたのか、いたってシンプルに答えが返ってきた。

 『うん、まぁ普通に』

 「男の子ですって言われると可愛い顔してるねーってなるぐらいには違和感ないよ?」

  それは違和感あるんじゃないのか。

 「良かったべー柚月が同性愛に目覚めたんじゃないかと心配した……」

  お前は良くこの短時間でその発想に持っていけたな、心理カウンセラーなれよ。無理だけど。
  と、まぁ2人からの答えも得たことで俺も今後どのように生活するか目星がついた。 いわば女の子だけど男の子を装って生活しよう作戦だ。 
  俺がモテてたという話もピークは中学生。 高校に入ってからもそれなりだったがたかが知れてる、高校に入れば人も多くなり必然的にイケメンが増え俺の影も薄くなっていったわけだ。
   棟が違えば同級生であっても卒業まで名前を知らなかったなんてざらにあるこの学校。俺が男として過ごすに越したことはない。
  あるドラマ、『イケメンなんだね』は男装した女の人が数名の男子とルームシェアまでしていた。 それに比べれば比較的俺は安心して学校生活を送れるに違いない。
  元々の記憶が代わってる家族や曽根とかは仕方ないとして出来る限り早く男に戻り普段通りの生活を送るのが今からの目的となる。 俺が戻れば他の人の記憶もまた改善されるだろ。 
  なんて出来のいい頭なんだ、俺は将来賢い職業に就けそうだ。無理だけど。
 
  色々想像を膨らませる俺を横目に曽根が雷に耳打ちし席を立つ。

 「んーどしたー?」

 「いやべーつに!? ちょっと俺ら用があってさ!すぐ戻ってくるから柚月は待ってちょ」

 「って言ってもHRまで時間ねーよ?」

 「大丈夫っしょ!1分もあれば十分!」

 「そんな用なら俺もついていくよ!」

  なにやら怪しい、これまで2人が俺を退けてどこかに行くなんてことは一度もなかった。
  なにか隠し事してるのか……。
  そんな俺の疑いの目に弘樹が口を挟む。

 「アレだよアレ! 雷がねちょっと我慢できないんだって」

 「しー!? 弘樹それだと俺がおかしな奴になるっしょ!?」

  我慢? おかしな奴? とりあえず1人取り残されるのはゴメンだと俺も2人の後を追いかける。

 「柚月今日積極的すぎべ!?」

 「なにがなにかわかんないけど俺も行く!!!」

  すると諦めたかのように曽根が踵を返して申し訳なさそうに呟いた。

 「トイレ行くんだ……」

 「と、トイレ?」

  俺は首を傾げブツブツとその単語を連呼する。そしてジワジワと俺の顔が熱くなるのが伝わってきた。

 「ば、バカ野郎! それぐらい普通に言えよ!!!」

 「あははは……雷も一応気遣ってるんだけどねー悪い!僕もねどうにか伝わるよう言いたかったんだけどね」

  苦笑しながら弘樹が悪いと謝る。
  でも、俺もおかしい。2人がトイレに行くと言った瞬間、足が動かなくなり、少し恥ずかしくなって2人を直視できなくなった。 俺が自分を女だと自覚してるから?違う、俺は俺、昨日までと変わらず過ごすんだろ。
  雷は何度も風呂を入ったし、アイツに羞恥心を抱くのがまずおかしい。
  男なら連れでトイレに行くこともまた青春の一つ。 

 「俺も行く!!!」

 『ダメに決まってんだろ!?!?』

  普通に断られました。

 

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