その科学は魔法をも凌駕する。
第97話 招かれる者
真は念の為夜が更けるのを待ってからファンデル王都の城壁を川岸から乗り越え入る事にした。
そこまで神経質になる必要も無いとは思うが、念には念を入れておく。
地球でフォースハッカーの戦闘要員として数々の人間や機械を破壊していた真ではあるが、暗殺等の依頼には経験がないのが正直な所であった。
どちらかと言えば真っ向からの力押しが得意ではある真だが、今回はそれも仕事の内である。
寧ろ真にとって重要なのは暗殺自体よりもリトアニアに関する情報だ。
真にはこの案件を知れた事が既に有用な情報を手に入れたのと同意であると感じていた。
シグエーの話ではリトアニアグループの預り知らぬ所で人身売買が行われている。そしてそれがアリィの一家を殺したアニアリトと言う組織だと言う話だ。
シグエーが人身売買の話をリトアニアの会長に話した後直ぐにシグエーとあの受付のネイルが脅しをかけられたと言っていた。
つまり実際リトアニアとアニアリトは繋がっているのかもしれないと考えていたが、リトアニアグループの会長の命が狙われる辺り、もしかするとアニアリトがリトアニアの会長の暗殺を依頼した可能性も否定出来ない。
シグエーの話が本当であれば、アニアリトは人身売買を止めさせようとするリトアニアグループの会長を邪魔だと判断してもおかしくはないのだ。
アニアリトがリトアニアグループを乗っ取ろうと考えているのならそれもまた納得と言った所である。
しかしそれでも一つ解せないのはアニアリトがリトアニアの会長を狙うとして、わざわざあのギルドにその殺しを依頼してきた事。
シグエーとネイルを脅してきたのはアニアリトで間違いないだろうが、アニアリトは何故自分達で会長殺しをせずにギルドへ依頼したのか。
リトアニアの会長が武に長け、手がつけられないとでも言うのか。
真の予測ではアニアリトと言う組織は中々の手練が集まっていると踏んでいたが、実際はただの商売人の集まりと言う事なのだろうか。
そんな疑問を抱えながら、真は地図通りファンデル王都でも商業区に当たるイルト地区へと訪れていた。
ここにはアリィの祖母が経営している店もある。
ふと、皆は元気にやっているのだろうかとそんな気持ちが湧いている自分を随分と人恋しい人間になったものだとおかしく思うが、今はおいそれと会う訳にはいかないだろう。
ましてや真がこれから人を殺そうとしている事を知って喜ぶ者などあの中には居まい。
アリィはリトアニアに怨みを持っているので喜ぶかもしれないが、ルナは……いやルナも真ならばとなるかもしれないが、フレイはどうあっても不味い。
そもそもこれからの真に関係を持っていると第三者へ知られる事は、彼女等に危険を伴わせる事にすら為りかねない。
真は雑念を振り払い、そんな商業区の奥に堂々と鎮座する数階建ての屋敷を他の家屋の屋根の上から確認していた。
庭と呼ぶには畏れ多い程の敷地を持つ屋敷周りの芝地には、数匹の獰猛な犬が夜目を光らせ徘徊している。
入り口と思しき黒格子の門は長く、だがそれほど厳重な警備体制とも言えない。
屋敷の最上部にある大きな窓と一階の小窓から布越しに光が漏れ出ている事から、恐らくは最上階に件の対象がいるとみて間違いないだろうがこのまま窓から飛び込んで殺害という訳にもいかないだろう。
屋敷内にどれだけの手練が人数を詰めているかも分からない。
兎にも角にも対象者の確認が必要だが果たしてどうするべきかと悩む。最上階のカーテンらしきそれが何れ開き対象者が顔を見せるのを待つべきか。
だがそこで真は一つの事に気付いた。
自分がリトアニア会長サモン=ベスターの顔を知らないと言う事を。
(……そう言う事か。どうも暗殺ってのは慣れてないと駄目だな)
暗殺とは何よりもまず対象者の情報が最も要となってくる。
情報収集は暗殺に於いてもやはり重要なものなのだ。
中でも対象者の確認はその最も初歩的な事柄の一つである。
だが真は今までただ目の前の敵を無作為に殺してきた、それが暗殺であろうなんであろうと真にとってそこまで考えるような事ではないと高を括っていたのだった。
本来暗殺とは多分な時間をかけ、一瞬にて行うもの。
そんな自分の抜け目に半ば呆れながらも真は一つの方法を考えだしていた。
最も手早く、そして何より自分らしいやり方を。
◆
敷地の入り口となる幅長き門。
そこには黒い水晶のような掌大の球体が設置されている。
すぐ横には逆ピラミッド型の魔力機、恐らくは真がアリィから預けられた遠方秘談と同じ物と見て良さそうだった。
球体で此方を監視しているのか、それとも呼び鈴の役割か。
少なくともこの世界に指紋認証で犯罪者を割り出すような技術は無い筈だと、真はアリィに貰った漆黒のコートをフードケープ代わりに目深に被り、その球体に触れてみる事にした。
「――どちら様でいらっしゃいますでしょうか?本日のご予定に無い方はご遠慮頂いております」
球体に触れたまま暫く待つと横にあるロードセルからしわがれた声が聞こえて来た。やはりこの球体が引き金となってロードセルが起動する仕組みだったようである。
真は安堵しながらその声に返答を返す。
「……サモン=ベスター、会長と秘密裏に約束を取り付けている」
「会長に」
再びの沈黙。
これで会えると思う程真も馬鹿ではない。そもそもこんな時間にこの格好でいきなり現れた怪し気な人物に主に会わせる奴等居はしないだろう。
今回はここが確実にサモン=ベスターの居城だと確認出来ればいいと真は考えていたのだ。
万が一にも居るようであれば、事によってはそのまま侵入する算段も練る予定である。
「……見た所リヴィバル王都の方ですね」
「!?」
不意をついて聞こえてきた言葉は小さい声音だが、それは確かに真を一瞬でも動揺させるものであった。
「まぁ、いいでしょう……門を開けますので入って来てください」
通信が完全に途切れたのだろう、僅かなノイズさえロードセルからは消え去り辺りに夜の静けさが戻る。
真は内心動揺を隠せないでいた。
リヴィバル王都の人間だと何故バレたか、そしてそんな怪しい人間を何故容易く屋敷へ誘うのか。
真が会長に会いたいと言ってから数秒で返答が返って来た事から会長本人の確認は得ていないのか、それとも室内にもロードセルがあり会長の承認の下でこうして招くというのか。
真の疑問を余所に黒い格子は人一人分の幅で開門されて行く。
これは罠か。それともどんな相手であってもそれを退ける程の伏兵があるというのか。
流石の真も僅かな躊躇いを感じはしたが、考え方によってはまたとない機会である事は間違いない。
そもそも真の本来の目的はリトアニア、アニアリトに関する情報収集と壊滅。
サモン=ベスターの暗殺はそのきっかけに過ぎない。
あくまでもついでの仕事。
下手をすればもうあのギルドで仕事をせずともここだけで必要な情報は全て手に入るかもしれないのだ。
真はそこまで考えると、フードケープ代わりのコートを更に深く被り直しデバイスを確認した。
「端末起動、戦闘状態•展開拡張」
電力オフモードのデバイスを起動させ、一気に元素捕捉範囲を拡大させる。
集めるはC、カーボナイズドエッジの発想から生まれた更なる上位兵器の一つでステルス性に特化したもの。
「ヴァイズブラックエッジ」
それは光をほぼ100%吸収する黒き暗黒物質。
光の反射で可視光として人間は物質を視界に認識するが、光を吸収してしまうこのヴァイズブラックエッジは漆黒よりも黒く、暗闇や下地が黒ければ最早普通に認識する事も叶わない。
強度もカーボナイズドエッジと互角であり、真の黒いコートにそれを重ねあわせれば最早何かを持っている事など絶対に判別はつかないだろう。
自らさえその手に感触が無ければ忘れてしまいそうになるほど視覚が感知しないのだから。
ただ長時間に渡って顕現させると光を吸収し続け、熱エネルギーとして放出されてしまうので使い勝手が良いとは言い辛く滅多に扱う事は無い。
だが真はとりあえずの保険としてそれを装刀しておく事にした。
出来れば外装にもヴァイズブラックを施したい所ではあるが、そこまでが出来ないのは内部構図にそんなプログラムを入れていないからである。
直にそれも開発されるのであろうが、無い物ねだりをした所で事態は進展しない。
真は慎重に眼前の扉を目指し、手入れされた芝の敷地内へとその一歩を踏み出したのだった。
そこまで神経質になる必要も無いとは思うが、念には念を入れておく。
地球でフォースハッカーの戦闘要員として数々の人間や機械を破壊していた真ではあるが、暗殺等の依頼には経験がないのが正直な所であった。
どちらかと言えば真っ向からの力押しが得意ではある真だが、今回はそれも仕事の内である。
寧ろ真にとって重要なのは暗殺自体よりもリトアニアに関する情報だ。
真にはこの案件を知れた事が既に有用な情報を手に入れたのと同意であると感じていた。
シグエーの話ではリトアニアグループの預り知らぬ所で人身売買が行われている。そしてそれがアリィの一家を殺したアニアリトと言う組織だと言う話だ。
シグエーが人身売買の話をリトアニアの会長に話した後直ぐにシグエーとあの受付のネイルが脅しをかけられたと言っていた。
つまり実際リトアニアとアニアリトは繋がっているのかもしれないと考えていたが、リトアニアグループの会長の命が狙われる辺り、もしかするとアニアリトがリトアニアの会長の暗殺を依頼した可能性も否定出来ない。
シグエーの話が本当であれば、アニアリトは人身売買を止めさせようとするリトアニアグループの会長を邪魔だと判断してもおかしくはないのだ。
アニアリトがリトアニアグループを乗っ取ろうと考えているのならそれもまた納得と言った所である。
しかしそれでも一つ解せないのはアニアリトがリトアニアの会長を狙うとして、わざわざあのギルドにその殺しを依頼してきた事。
シグエーとネイルを脅してきたのはアニアリトで間違いないだろうが、アニアリトは何故自分達で会長殺しをせずにギルドへ依頼したのか。
リトアニアの会長が武に長け、手がつけられないとでも言うのか。
真の予測ではアニアリトと言う組織は中々の手練が集まっていると踏んでいたが、実際はただの商売人の集まりと言う事なのだろうか。
そんな疑問を抱えながら、真は地図通りファンデル王都でも商業区に当たるイルト地区へと訪れていた。
ここにはアリィの祖母が経営している店もある。
ふと、皆は元気にやっているのだろうかとそんな気持ちが湧いている自分を随分と人恋しい人間になったものだとおかしく思うが、今はおいそれと会う訳にはいかないだろう。
ましてや真がこれから人を殺そうとしている事を知って喜ぶ者などあの中には居まい。
アリィはリトアニアに怨みを持っているので喜ぶかもしれないが、ルナは……いやルナも真ならばとなるかもしれないが、フレイはどうあっても不味い。
そもそもこれからの真に関係を持っていると第三者へ知られる事は、彼女等に危険を伴わせる事にすら為りかねない。
真は雑念を振り払い、そんな商業区の奥に堂々と鎮座する数階建ての屋敷を他の家屋の屋根の上から確認していた。
庭と呼ぶには畏れ多い程の敷地を持つ屋敷周りの芝地には、数匹の獰猛な犬が夜目を光らせ徘徊している。
入り口と思しき黒格子の門は長く、だがそれほど厳重な警備体制とも言えない。
屋敷の最上部にある大きな窓と一階の小窓から布越しに光が漏れ出ている事から、恐らくは最上階に件の対象がいるとみて間違いないだろうがこのまま窓から飛び込んで殺害という訳にもいかないだろう。
屋敷内にどれだけの手練が人数を詰めているかも分からない。
兎にも角にも対象者の確認が必要だが果たしてどうするべきかと悩む。最上階のカーテンらしきそれが何れ開き対象者が顔を見せるのを待つべきか。
だがそこで真は一つの事に気付いた。
自分がリトアニア会長サモン=ベスターの顔を知らないと言う事を。
(……そう言う事か。どうも暗殺ってのは慣れてないと駄目だな)
暗殺とは何よりもまず対象者の情報が最も要となってくる。
情報収集は暗殺に於いてもやはり重要なものなのだ。
中でも対象者の確認はその最も初歩的な事柄の一つである。
だが真は今までただ目の前の敵を無作為に殺してきた、それが暗殺であろうなんであろうと真にとってそこまで考えるような事ではないと高を括っていたのだった。
本来暗殺とは多分な時間をかけ、一瞬にて行うもの。
そんな自分の抜け目に半ば呆れながらも真は一つの方法を考えだしていた。
最も手早く、そして何より自分らしいやり方を。
◆
敷地の入り口となる幅長き門。
そこには黒い水晶のような掌大の球体が設置されている。
すぐ横には逆ピラミッド型の魔力機、恐らくは真がアリィから預けられた遠方秘談と同じ物と見て良さそうだった。
球体で此方を監視しているのか、それとも呼び鈴の役割か。
少なくともこの世界に指紋認証で犯罪者を割り出すような技術は無い筈だと、真はアリィに貰った漆黒のコートをフードケープ代わりに目深に被り、その球体に触れてみる事にした。
「――どちら様でいらっしゃいますでしょうか?本日のご予定に無い方はご遠慮頂いております」
球体に触れたまま暫く待つと横にあるロードセルからしわがれた声が聞こえて来た。やはりこの球体が引き金となってロードセルが起動する仕組みだったようである。
真は安堵しながらその声に返答を返す。
「……サモン=ベスター、会長と秘密裏に約束を取り付けている」
「会長に」
再びの沈黙。
これで会えると思う程真も馬鹿ではない。そもそもこんな時間にこの格好でいきなり現れた怪し気な人物に主に会わせる奴等居はしないだろう。
今回はここが確実にサモン=ベスターの居城だと確認出来ればいいと真は考えていたのだ。
万が一にも居るようであれば、事によってはそのまま侵入する算段も練る予定である。
「……見た所リヴィバル王都の方ですね」
「!?」
不意をついて聞こえてきた言葉は小さい声音だが、それは確かに真を一瞬でも動揺させるものであった。
「まぁ、いいでしょう……門を開けますので入って来てください」
通信が完全に途切れたのだろう、僅かなノイズさえロードセルからは消え去り辺りに夜の静けさが戻る。
真は内心動揺を隠せないでいた。
リヴィバル王都の人間だと何故バレたか、そしてそんな怪しい人間を何故容易く屋敷へ誘うのか。
真が会長に会いたいと言ってから数秒で返答が返って来た事から会長本人の確認は得ていないのか、それとも室内にもロードセルがあり会長の承認の下でこうして招くというのか。
真の疑問を余所に黒い格子は人一人分の幅で開門されて行く。
これは罠か。それともどんな相手であってもそれを退ける程の伏兵があるというのか。
流石の真も僅かな躊躇いを感じはしたが、考え方によってはまたとない機会である事は間違いない。
そもそも真の本来の目的はリトアニア、アニアリトに関する情報収集と壊滅。
サモン=ベスターの暗殺はそのきっかけに過ぎない。
あくまでもついでの仕事。
下手をすればもうあのギルドで仕事をせずともここだけで必要な情報は全て手に入るかもしれないのだ。
真はそこまで考えると、フードケープ代わりのコートを更に深く被り直しデバイスを確認した。
「端末起動、戦闘状態•展開拡張」
電力オフモードのデバイスを起動させ、一気に元素捕捉範囲を拡大させる。
集めるはC、カーボナイズドエッジの発想から生まれた更なる上位兵器の一つでステルス性に特化したもの。
「ヴァイズブラックエッジ」
それは光をほぼ100%吸収する黒き暗黒物質。
光の反射で可視光として人間は物質を視界に認識するが、光を吸収してしまうこのヴァイズブラックエッジは漆黒よりも黒く、暗闇や下地が黒ければ最早普通に認識する事も叶わない。
強度もカーボナイズドエッジと互角であり、真の黒いコートにそれを重ねあわせれば最早何かを持っている事など絶対に判別はつかないだろう。
自らさえその手に感触が無ければ忘れてしまいそうになるほど視覚が感知しないのだから。
ただ長時間に渡って顕現させると光を吸収し続け、熱エネルギーとして放出されてしまうので使い勝手が良いとは言い辛く滅多に扱う事は無い。
だが真はとりあえずの保険としてそれを装刀しておく事にした。
出来れば外装にもヴァイズブラックを施したい所ではあるが、そこまでが出来ないのは内部構図にそんなプログラムを入れていないからである。
直にそれも開発されるのであろうが、無い物ねだりをした所で事態は進展しない。
真は慎重に眼前の扉を目指し、手入れされた芝の敷地内へとその一歩を踏み出したのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
1
-
-
4405
-
-
2265
-
-
314
-
-
2813
-
-
147
-
-
37
-
-
59
-
-
1512
コメント