その科学は魔法をも凌駕する。

神部大

第15話 ファンデル王都



あれから川沿いを下り、もう一夜を森で過ごした真達はついに背の丈の低い木々が辺りに広がる場所にまで出てきていた。



「ここまで来れば後は歩くのみだな、彼処がファンデル王国の王都だ」
「……あれが、都か」



一面に拡がる青空の下の緑一色。
今まで歩いてきた川は大きく広がり海へと続いている。
その横に悠然と拡がる石造りの城と城下町はこれだけの距離があっても尚広いと感じさせるに足る物だった。



「フレイ、あの中心地辺りにある塔か……あれは何だ?」
「あぁ……あれは魔力砲マナグローブだな。戦争の火種でもあるが今では全ての王都にも建造されて互いに牽制し合っているただのお飾りみたいな物だ。魔力機の巨大版だと思えばいい」



塔の様に聳えるそれは太い柱の様でもあり、先端部は十字架が幾重にも重なっている形をしている。
恐らく今の話からするに魔力結石とやらを大量に使ってとんでもないエネルギー砲でも放つ為の装置なのだろうと真は予測を立てていた。


「あれだけの物が役立たずか……勿体ない気もするな」


「あれで戦争を始められても困るぞシン、それに今じゃお上の中でもあれの使い方を知っている人間はいないと言われてるしな……まぁ、魔物の殲滅にでも使ってくれれば助かるかもしれないが、さっ、行くぞ!」
「あぁ」



この三日でフレイからこの世界での様々な事を聞いた。
金の価値から物の相場や国の事、種族の種類から獣、そして獣とは違う魔物と言う存在について。
時に魔物と人間達は遥か昔から争いを続けており、マナを自在に操る魔物達に対抗するべくして作られたのが魔力結石を利用した魔力機であると言う事だった。


そんな話の中でやはり真の気を引いたのは魔力と言う自然のエネルギーについてである。
魔力結石と言う物は自然界のあらゆる力、魔力が結晶化された物。人間達が文化を発展させて来た中にはこの魔力結石の占める所が大きい様だ。


しかもその魔物と同じく、人間の中にもその魔力を直接体内に取り込みその力を発現させる者もいると言う。
何でもそんな人間は魔導士と呼ばれ過去には特別視されたらしいが、魔力結石を自在に使える様になった今では特にこれと言って目立つ物でもないらしい。


真はそんな話を聞き、いざ人前で科学技術を駆使する事になったら自分は魔導士だと名乗ってもいいかもしれないと考えていた。



だだっ広く広がる平原、遥か遠方に聳える山々は先端が尖り凶器の様に辺りを囲む。
僅かな起伏のある丘を抜け、田畑を越えて真とフレイはただ真っ直ぐにファンデル王都へと足を向けた。











何気にデバイスで確認した時刻は16時を過ぎた頃、森を抜けたのが昼前だった事から4時間は経過した事になる。
目の前に目的の場所が見えていただけに森から王都まで体内時間的にはもっと時間がかかった様にも感じた。



「ようやくだな……シンといて時間が有意義だったのか前より長く感じた」
「それは嫌味と受け取るのがいいのか?」


「はは、冗談だ。王都は広い、迷うなよ」



そういって今や軽口を叩き会える仲となったフレイに付いてな王都の入り口らしき場所に向かった。


王都は辺りを数メートル程はある高さの城壁によって囲まれている。その距離は左右に数十キロと続き、それだけでとてつもない敷地面積だと言うのが分かる。
入り口から街並は上へ上へと向かい、頂点にはここが王都だと認めさせる白亜の城が堂々と鎮座し、街全体を見守っている様だ。


城壁の切れ目、入り口に立つ門番の様な男はワイドの街で炎の剣を振るってきた男の様なプレートメイルよりも上等そうな甲冑を身につけ不動立ちを貫く。
ちらりと横目で姿を確認されたが、特に問題ないと見たのかそのまま素通りで真とフレイは城下町へと足を踏み入れた。



「私はとりあえずギルドに行ってから宿に行くとするがシンはどうする?」


宿の事までは考えていなかったシン。
眠ると言う概念が頭から欠如している真にはどうしてもそう言った事に考えを向けられない。

しかも今やこの国で真は無一文、宿など取れる筈もない。
先んじて優先すべきはまず金の稼ぎ方である。



「どうすると言っても俺は今金が無いからな、仕事がいる」
「あぁ、そうだったな。まぁ私もあれだけ撒き散らしてしまったから同じ様な物だ……でも宿代位貸してやるぞ?シンならすぐに倍になって返って来そうだからな」



「冗談言うな、俺はギルドのギの字も知らない」



ここに来るまでに真はフレイに仕事についても聞いていた。
真の実力を評価していたフレイはギルドに登録すらしていないと言う真に大層驚いて見せたが、田舎出身だと言う事を思い出し何となく納得していた。


この世界でも様々な仕事がある様だが、力、主に魔力結石や武器等を用いて戦闘に長ける者は総じて一攫千金を狙いギルドで一旗上げるのを目標としている。
中には小さな仕事で細々とやる人間や、実力のある者と組んで少ない報酬で安全に稼ぐと言う者もいる様だった。


とりあえずフレイに付いてギルドを紹介して貰う事にした真は、石やレンガ造り、または木造家屋が密集する街道を歩き城下町を観賞しながらギルドへと足を進めていた。




ここだと言われたギルドと呼ばれる建物は、周りの家屋に比べそれほど大きさは代わり映えしない二階建てだろう建造物であった。
だが外見は白一色で中々綺麗に塗装されている。


度々塗り替えているのだろう、他の家屋がくすんでいる事から真はそう感じた。


高級店にあるような引き扉を開け中へと入る。
ギルド内も外見と同様に白一色で塗装され、何ヵ所かには観賞用であろう植物が置かれていた。



「随分と綺麗な所だな……一攫千金を狙う戦闘狂いがいる様な場所だからもっとこう……」
「汚い酒場でも想像したか?」


先言を取られた真はまぁ、と言いながら室内を見渡す。
入り口から少し先には石壇の様なカウンターがあり、朱色のクロスが敷かれその向こうにいる数人の人間がカウンター越し向かう物騒な男達と何やら話し込んでいた。



「こっちのでかい掲示板に張られているのが今来ている仕事依頼だ、中には定期的な物から王国管轄の物もある。この紙を持って彼処の受付に行って仕事を受注するんだ」


室内の壁際に設置された大きな白い木版には小さな刃物の先端に似た物で留められた用紙が幾つも貼られていた。
だが他にも木版は幾つかあり、これを全部閲覧するのはそれだけで労力が必要に思える。



「……こんなにあるのか」
「掲示板毎に階級が違うからな、受付に行けばここに無いような物もある。と言ってもシンの場合は……兎にも角にもまずは登録からだ。行くぞ」


「お、おい」



スタスタと受付らしい場所に向かうフレイの後を慌てて追う真の姿は、正に田舎から出てきた人間さながらの動きだった。


受付で前の男が手続きを済ませ、はけた所にフレイが立つ。


「……やぁ、ネイル」
「あら……フレイ、旅に出たんじゃ?」


「まぁ、事情があってな……また此処で当分は仕事をする事になりそうだ」
「そう、優秀なギルド員が滞在してくれるのは本部としては有り難いけど」



受付に立つ女はフレイと知り合いなのか何やら暫しの雑談を交わしていた。
ネイルと言うらしい受付嬢の第一印象はお淑やかと言う所だろう。染色とは違う生まれながらの薄赤みがかった髪は柔和な表情に相まってそれを大いに引き立てている。


「とりあえず仕事はまた後日として、今日はこいつのギルド登録をして欲しいんだが……」



フレイが真を振り向きそう言うと、受付嬢のネイルが此方を向き真と視線を交わす。
それを合図に真はフレイの隣に歩み寄った。


「ギルドは初めて、と言う事……ですね」
「ああ、まぁ」


「田舎から来たんだ、ギルドは見たことも無いらしいから親切にしてやってくれよ」


何となく気恥ずかしさを覚える真。
受付嬢と言うだけあって、ここが戦場に赴く人間の居城にも関わらず何処か気品を感じさせる。
それが着こなされている制服から来る物なのか、それともこのネイルと言う女の纏う雰囲気なのかは分からないが、真は自分の中で芽生え始める田舎者と言うレッテルに負い目を感じる様になっていた。


(俺もすっかりこの世界の住人か……全く)


真は自分自身に俺は地球人だと言い聞かせながら田舎者呼ばわりされた自分の心を何とか立て直した。

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