ボクの心臓はひとつだけ

泣き虫パピコ

カオル

 視界いっぱいに広がる空色。温度はそこそこ高めでほのかな甘い香りも検知できる。
 そんなよく見る景色の横からぬっと一人の少女がボクを見下ろした。ボクがゆっくりと少女の方に目を向けると少女は目を見開き、口角を上げて言った。
 少女「すごい!動いた!」
 ボクは体を持ち上げ今まで動かしたことのない部分を動かし、初めて口を開いた。
 『…キミは誰なの?…ココは何処?…ボクに何をする気なの?』
 少女「あっ、ごめんなさい。大きな音がしたからお庭に出てみたら、あなたが倒れてて…大丈夫?」
 『お庭…?』
 辺りを見渡すと整えられた芝生と沢山の花たちが温かい風に吹かれて少し揺れていた。たしかにこの子の家の庭のようだ。
 少女「ところであなたは誰なの?何かの目的があって私のお庭に来たんじゃない?」
 ボクの…名前?名前なんてわからないよ。
 『わからないんだ。何処に行けばのかもわからない。自分のことを何一つ知らないんだ。』
 少女はきょとんとした顔でボクを覗き込んだ。そして、またにこっと微笑んで言った。
 少女「それなら私の家で暮らしましょう。あなたを少し調べてみたいの」
 『ボクを…調べる?』
 少女「そう。あなたはとても興味深い研究題材になりそうなの。」
 『研究題材って…あまり乱暴には扱わないでほしいな…。』
 少女「大丈夫よ!痛くはしないわ。それにあなたのことだって分かるかもしれないし。あっ、名前を言ってなかったわね。私はカオル。」
 そう言ってカオルはボクにそっと微笑んだ。こうしてカオルとボクの奇妙な生活が始まった。

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