僕の中の死んだ英雄

キムチ

捻れた世界

遺体の無い葬式。この世界では稀にある。

何も入っていない空箱を焼いた。

周りの親族は必死に作ったハリボテの涙を披露しあう。多分この中に本当に悲しんでいる人間等片手があれば事足りるだろう。

葬儀が終わるとすぐさま少年の事を取り囲んだ。

「✕✕君、家に来ないかい?」

「可哀想に家が養ってあげる。」

「何を言っているんだ!✕✕君は私が引き取る。」

親族達が醜い争いを始める。

彼等の僕を見る目は哀れみや情等からではない。
目当ては父さんの遺産だろう。金に目が眩んだ大人達はまるで……

――怪人が


――少年は吐き出しかけた言葉を飲み込んだ。

「僕はもう行きます。」

誰にも頼らずに一人で生きていく。それは齢7の少年には余りにも苛酷であった。

あの日から見る人全てが歪んで見える。
    
路頭に迷い、途方に暮れた。全てを失った少年は中身の無い無力感と脱力感の狭間を彷徨った。

人じゃなくなる様な感覚、このまま羽でも生えて何処かへ飛んで逝きたい、そう思った時だ――

――おいおい、辞めとけよ


声の主は草むらに横たわる中年のおじさん、酷い血液の跡とあろう事か角を生やしている。



怪人だ。間近で見るのは初めてだ、でも逃げる気力も無い。

身近に死を感じた。いや、この世界で生活を続ける限りそんな物はすぐそこにあったのかもしれない。

「まぁた暗そうなガキが来たよ…最近の日本はホントどうなってんのかね。」

思いもしない返答に少し思考が停止した。

「おじさん怪人でしょ……襲わないの?」

「生憎俺にショタコン等という独創的な趣味は持ち合わせてねぇ。」

普通に会話ができる。ヒーロー議会が提出した特徴とはえらい違いだ。

「ついて来いよ、どうせお前あれだろ?親亡くした孤児、匿ってやるよ、お前名前は?」


――かどや……角谷 修士

そう、腐る程人間のいるこの世界で少年を助けたのは皮肉にも怪物だけだった。

「俺はフレディで通ってる、よろしくなシュージ。」

男はニマリと笑ってみせた。

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