俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
第二百三十七話 あの世へ
「これがあればエアモルベーゼのところに転移できる……かもしれない!」
靴を掲げて俺が叫ぶと、疲労した声が聞こえてきた。
「どういう、こと?」
「目が覚めたか芙蓉。大丈夫か?」
少し離れたところに寝かせていた芙蓉が上半身を起こして言う。俺は近寄って飲み物を渡しながら話を続ける。
「これは向こうの世界で履いていた靴なんだが、こっちに来るときに片方が脱げてな。あいつが捨てていなければ恐らく向こうにあると思う。だからこれを使って転移が出来るんじゃないかと思ってな」
「なるほど。それじゃ早速行きましょう!」
ティリアがパンケーキを咥えて立ち上がるが、俺は首を振る。
「いや、悪いけど俺だけ行ってくる。みんなを連れて転移できるとも思えないし、失敗した時が怖い。もしかすると失敗して消えるかもしれないから」
船で俺が話したことを覚えているティリア達はびくっと身を強張らせる。
「じゃ、行ってくる」
俺は早速靴に魔力を込めて転移の準備をすると、ブワっと靴が光り出す。どうやら、ビンゴらしい。
「カケルさん!?」
「ちょ、ちょっと待って!? ボクは回復できるし、連れて行ってよ!?」
ルルカがハッとして慌てて言うが、俺が急いだ理由はみんなに考える時間を与えないためだ。ルルカは勿論、メリーヌやトレーネあたりは確実についてくるというだろう。だけど、転移してしまえばもう追ってくることはできない。
「……ごめんな」
「何じゃそれは! 永遠別れみたいな言い方をするな! 必ず帰ってくるくらい言わんか」
「ダメ! また遠くへ行っちゃうのカケル!」
俺に向かって走ってきたメリーヌとトレーネを見ると、泣いていた。トレーネは二回目か、悪いことをしたな……
「大丈夫、必ずアウロラを止めてくる――」
「待てよ! 僕ならいいだろ! 連れて行ってくれ! ……わ!?」
クロウは流石の身体能力で俺の元へあっさり近づいてきたが、それを力任せに吹き飛ばす。
「帰ってこい! 絶対帰ってこいよ!」
クロウがよろよろと立ちあがるのを見ながら俺が困った顔をしていると、浮遊感を覚える。さて、決戦かと思った瞬間、近くに座っていたはずの芙蓉が死角から手首を掴んでいた。
「私は一緒に行く権利があるわ。そうでしょ?」
「馬鹿!? お前離せよ!? メリーヌ達が我慢してるのにお前が――」
「えい! へっくんゴー!」
俺が油断していると、トレーネがまだ目を回しているへっくんを俺に投げつけてきた!? あぶね!?
咄嗟にキャッチしたすぐ後、俺達はその場から消えた――
◆ ◇ ◆
「馬鹿者めが……」
「メリーヌさん信じて待とう? ボク達を気遣って最後の戦いに行ったカケルさんを」
ルルカがメリーヌの肩に手を置いてニコッと笑うと、メリーヌは顔を歪めてコクリと頷いた。
「帰って来なければ世界は終わりってところか? ま、仕方ない。俺達は飯でも食って待ってるしかないな」
「あいつがそう簡単に死ぬとも思えん。で、帰ってきたら全員でぶん殴ってやろう!」
フェルゼンとリファが少しだけ寂しそうな顔をしながら元気づけようとそんなことを言うと、グランツやエリン、ラヴィーネがそれに乗る。
「わらわは大してあやつのことは知らんからどっちでもいい。ほれ、そのスープを出せ」
「師匠、世界が救われたら……また稽古をお願いします!」
「グランツ……お父さんに言われてるんだから村に帰って結婚式をあげてからね」
「う……」
わいわいとご飯が始まったが、クロウはカケルが消えた場所を見つめたままじっと佇んでいた。そこにアニスとユーティリアが近づき声をかけた。
「僕は、まだ力不足だったのかな……カケルの役には立てないのかな?」
「ううん。クロウ君は強いよ?」
振り向かずに言うクロウの呟きにアニスがかすかに微笑みながら首を振って答えると、クロウはさらに口を開く。
「じゃあ連れて行ってくれても良かったじゃないか! アウロラのバリアも剥がすことが出来た! 一緒に行けばカケルが無理をしなくても――」
するとユーティリアがクロウの頭を撫でながらクロウへ話しかけた。
「……きっと、この世界に残って欲しかったのよ。信頼しているからこそ、ね? この世界はアウロラ様が創った世界。そしてカケルさんはそんな女神と破壊神のいざこざに巻き込まれた形だもの。決着は自分でって思ったんじゃないかしら? 必ず帰って来るわよ、だから……泣かないでクロウ君」
「く、うう……」
「お兄ちゃんが帰って来たらびっくりするくらい強くなろう? 私も頑張る。ね、チャーさん? あれ? チャーさん?」
「アニス……」
そこでウェスティリアもクロウの元へやってきた。
「私もこそカケルさんを巻き込んだだけで、何の役にも立てませんでした……祈りましょう。カケルさんと芙蓉さんが勝利することを。そして、また美味しい料理を作ってもらいましょう?」
ウェスティリアが、クロウの好物であるから揚げを渡しながら笑い、クロウはそれを一つつまみ口に入れる。
「しょっぱい……」
「うふふ(すみませんカケルさん……私達が不甲斐ないばかりに……この世界がどういう結末を辿っても……私は後悔しません。ですが……どうか無事で……)」
◆ ◇ ◆
ブゥン――
浮遊感が消えた後、俺は硬い地面に着地した感触を覚え目を開く。するとそこはアウロラと会話した場所で間違いなく、俺の足元にもう一足の靴が転がっていた。
「何とかなったか! ……!? おい、芙蓉大丈夫か?」
「う、ううん……」
体をゆすると反応があったので俺はホッとし、辺りを見渡す。よく見れば、あの綺麗だった壁や柱がに戦闘の傷跡が見受けられた。
「……うまくいったみたいね」
「ああ。立てるか? これはマズイかもしれない、急ごう」
しかし、改めてみるとこの空間は広い。見慣れたテーブルセットや池はあるけど、二人の姿は無い……相討ちだったりするのか? どちらにせよ探さないと、と思っているところに思わぬ声が聞こえてきた。
「ふんふん……アウロラの匂いはこっちにある。吾輩が案内しよう」
リュックからぼふっと顔を出してチャーさんが言う。
「お前、いつの間に!?」
「良い考えがある、と聞いてからだな。世界がどうにかなるとアニスが死ぬ。カケルには勝ってもらわねばならんからな」
その時、ちょうどへっくんが目を覚まし、俺の手の中できょろきょろとトレーネを探す。
「~? ??」
「あー……すまんな。お前は俺と一緒にあの世に来た。トレーネのところへ戻れるか分からん」
「……~!」
少し腕を組んで考えた後、へっくんは問題ないと剣を掲げていた。こいつはイイヤツだよな、と改めて思う。喋れたら面白そうだよな。
「よし、チャーさん案内を頼む。芙蓉、無理するなよ?」
チャーさんを俺の肩に置き、へっくんを芙蓉に預けておく。ダガーを取り出し、芙蓉は立ち上がって頷いた。
「うん。ありがとう! 行くわよ!」
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