俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
第二百二十九話 女神
 
【ガウ……ガウ……(ふう……ふう……。あ、あれですかい?)】
「大聖堂だ! ファライディよくやってくれた、あの島へ降りてくれ!」
【ガウ! (合点!)】
一週間はかかる道程をファライディは二日で飛んでくれた。俺が暴走している時、爺さんやフェルゼン師匠を連れて要塞まで飛んだ時もそれくらいだったらしいから、だいたい同じくらいの距離なのだろう。休憩は途中にある小さな島に降りてから休んでいた。
バサ……バサ……
「あれはアヒルにされた村じゃな。懐かしいわい」
「そうだねー。あれは散々だったよ……」
ファライディが降下する中、少し遠目に見えている村を見て二人がため息を吐く。確かにあれは不憫だったなあ。でもおかげでメリーヌと合流すること出来たんだけど。段々と地上が見えてきた頃、背に乗ったティリアが声をあげた。
「結界に綻びがありますね……大丈夫でしょうか」
「……一応、すぐには崩壊しないように手を施しているはずだけど、封印を仕掛けた本人だから多分効果は無さそうね。魔力を吸収するなら町の人や聖女も無事かどうか」
芙蓉が険しい顔でティリアに返すが、ラヴィーネが町を指差して言う。
「その心配は無さそうじゃ。見よ」
「あれは……ユーティリアか?」
そして横には恐らくエドウィンと、クロウを見送ってくれた神官が居る。俺達に気付いたユーティリアが手を振り、そのまま町に降りるよう手で合図してくれたので、ファライディを誘導して着陸に成功する。
「カケルさん、クロウ君、お久しぶりです!」
「あまり喜ばしい場面でもないけどな。どうしてこんなところにいるんだ?」
「みんなは大丈夫なんですか?」
荷台から降りていると、ユーティリアがすぐに駆け寄ってきて声をかけてくれたので、俺とクロウは気になっていることを尋ねる。すると、エドウィンが代わりに応えてくれた。
「久しいな、回復の魔王よ。大聖堂は女神アウロラを名乗る者に占拠されておる。禍々しい姿……あれは一体なんなのだ? アウロラ様が封印されていたのではなかったのか?」
「それなんだが――」
エドウィンの質問を簡潔に答えると、ユーティリアとエドウィンは驚愕する。それはそうだろう、信仰していたアウロラが今や世界を脅かす存在なのだから。
「これからカケルさんはどうするのですか?」
「もちろんアウロラの元へ行く。あいつが何を考えているかを聞かないことには打開策が無い。芙蓉、エアモルベーゼを倒した時はどうしたんだ?」
「えっと……全勇者、今は魔王ね。全員の力をもってダメージを与えて弱らせたところをアウロラがどん! そんな感じよ。破壊神の力達はその残りかすみたいな感じだったからサクッと倒して各地に封印したんだけど……」
それが仇になった感じか? いや、それでもおかしい……万が一エアモルベーゼがここで復活するなら、大聖堂の人間がそれを知らないのは道理が合わない。ヘルーガ教徒が情報操作をしたとしても大聖堂まで騙されるだろうか?
考えが巡るも、時間がそれを許してはくれないようで、大聖堂からアウロラの声が響いて来た。
『来たか。私の元へ来るのだ、そこで全ての決着をつけるための儀式を――』
それだけ言うと、ぷっつりと途切れまた静寂が残る。町の人達がざわついているが、ユーティリアの結界を大聖堂から外しているようで、魔力を吸われていないらしい。
「本当に女神様なのかな? とても邪悪な気配がする。わたしに語りかけてきた声より、もっと」
「女神だろうとそうじゃなくても、僕達に敵対するならそれはただの敵だ。そうだろカケル?」
青い顔をして呟くアニスの肩を抱いてクロウが俺に聞いて来たので、無言で頷く。デヴァイン教だからアウロラに傾倒しているもんだと思ったけど、どうやらクロウはしっかりと一人の人間としての芯を手に入れたようだ。
「それじゃ、待っている女神様の元へ行きますか!」
「……まさか、こんなところまでくるとはね」
「ま、カケルさんについて行くつもりだったんだからこれくらいは、ね?」
「そう。動じてたら着いて行けない」
「俺をなんだと思ってるの、君達……」
燃える瞳のメンバーがやれやれとグランツの呟きを「何を今さら」と肩を叩いて頷く。リファやルルカが笑いながらエリン達を伴って大聖堂へと歩き出す。
「女の子は強いな……」
「そうでもありませんよ、エリンの手は震えてました。俺は何があってもエリンを守ります。トレーネは、お願いします」
「……仕方ないな。死ぬなよ?」
「まだ戦いと決まったわけじゃありませんから、無用な心配ですよ」
「カケルさん、早く!」
俺とグランツが話していると、前を歩いていた芙蓉が振り向いて手を振っていた。
「ああ、今行く! ユーティリア、ファライディ……このドラゴンを任せていいか?」
「はい。大人しい子ですし、大丈夫です!」
「あ、それとこれを」
俺はユーティリアにルルカの作った簡易スマホを手渡し使い方を一通り教えておく。最悪何かあれば連絡してもらう必要があるだろう。
「ありがとうございます! お気をつけて」
「ああ。行こう、グランツ」
「はい」
――特に妨害もなく、結界を抜けた先の大聖堂に足を踏み入れると、とてつもない嫌な感じがした。女神? 冗談じゃない、これは破壊神そのものと言ってもいいくらいの気配だぞ……
「寒気がしますね……」
「……大広間から気配がするよ。こっちだ」
クロウが何かを感じ取り、俺達の前に立ち案内を始める。やがて天井が高く、壇上のようなものだけがある広い場所に到着すると、ゆらりと壇上に女性が現れる。
『辿り着いたか。芙蓉以外は見舞えるのは初めてか。私はアウロラ、この世界の創造神なり』
「!?」
俺があの世で見たアウロラとそっくりの顔をした、オレンジ髪の女性が壇上から俺達を冷ややかに見下ろしていた――
◆ ◇ ◆
『エアモルベーゼ様、カケルと愉快な仲間達がアウロラと接触しました』
『ノア、言い方……まあいいわ。これでようやく終末が訪れるわね。300年……長かったわ……』
エアモルベーゼはノアが見ていた池を見てうっすらと微笑む。だが、目は笑っていなかった。ノアに呟くでもなく、一人ごとのように口を開く。
『お膳立てはここまで。ここからは人間が勝つか、神が勝つか。ただそれだけの話。できればカケルさんの体を手に入れておきたかったけど、アウロラを倒してくれるならどっちでもいいわ。暴走を克服したカケルさんなら期待できる……』
踵を返し、椅子に座るエアモルベーゼ。手に持ったガラケーをパカッと開き、カケルのスマホの番号を表示させた。
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