俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第二百二十三話 後継者クロウ



 
 
 <リンデの村近くの森>


 ガッ! ガッ! ドォォォン……!

 グルォォォ……

 クロウの攻撃でゴブリン達が息絶える。帰り道の森でゴブリンが住処を作ろうとしていたので、これをクロウ一人に壊滅させる訓練を課していた。

 「そうじゃ。その感覚を忘れるな」

 「分かった。でもこれじゃ僕、神官じゃなくなっちゃうよ……聖女様、ごめんなさい!」

 村へ戻りながら戦闘技術を学ぶクロウも、この五日間でかなりの技能を習得した。だが、日に日に力が上がるのと引き換えに、神官というよりはすでに格闘家の域に達していた。

 「はっはっは、そう言うな。力はあって困るものではないぞ? 使い方次第で守りたいものを守れるようになる。正直なところ、魔王の力を持った男がカケルで良かったと思っておる」

 「ふうん? 悪いヤツじゃないのは確かだけどさ」

 「そこじゃ。力を持つ者は総じて顕示欲に溺れることが多い。特にあやつの寿命を出しいれする力は地味だが、かなり強力じゃ」

 フェアレイターがゴブリンの死体を埋めながら言う。それにクロウは眉を潜めて反論した。

 「うーん、確かに若返らせたりできるみたいだしから凄いと思うけど、そんなにかな?」

 「うむ。あやつが積極的に使わないから脅威が分からんが、例えば人知れず道ですれ違うだけで殺せる暗殺者や、指名手配されている者を老いさせてから国外へ連れ出し、元に戻すこともできる。そして、老いさせたものから元に戻りたければもっと金を出せ、なども考えられるな」

 「な、なるほど……」

 「大なり小なり、人は楽になりたかったりお金が欲しかったりするものじゃ。しかし普通の冒険者として生きる道を選んだのは凄いと思う」

 カケルの評価が高いのはクロウ尊敬しているため鼻が高いと思いながら聞いていたが、ふと気になったのでフェアレイターへ尋ねる。

 「でもカケルの話と僕の力の話は何の関係があるんだい? これ以上筋肉がついたらアニスに嫌われそうで嫌なんだけど……」

 するとフェアレイターがピタリと動きを止め、ゆっくりとクロウへ向いた。

 「……関係は、ある。お前次第ではあるが、実を言うとわしの力をお前に託したいと考えておる。だがお前はまだ若い。力を得ればもしもということもあろう」

 「力……って、破壊神の力!? そ、そんなことできるのかい!? と、というより僕に渡したら師匠はどうなるんだ!」

 クロウが慌ててフェアレイターに言うと、木に背中を預けて聞いていたグラオザムが口を開く。

 【ふむ。無論、朽ちる。元々300年も前の人間だからな。それに病気が一気に進行してその場で死ぬ可能性が高いだろう】

 「そんな……!? だ、だったらそんな力は要らないよ! このまま生きていけばいいじゃないか」

 「そうもいかんのだ……見よ」

 「う……!?」

 フェアレイターが服をまくり上げると、へその辺りがどす黒く変色していた。服で隠している部分にちらほらと黒い斑点が広がっていた。クロウ達には分からなかったが、デルマドロームという内臓どこかが侵されている証拠だった。

 「……破壊神の力を持ったしもべなのに病気には勝てないのかい……?」

 【ふむ。あくまでもべ―スは『人間』だから必然と言える。私のようにエアモルベーゼ様から造られた存在であればそんなことは無いのだがな】

 「あとどれくらい持つんだ?」

 「もう長くは無かろう。月島影人の戦いで無理をしたせいもある。このままでひと月もつかどうか……その前に力を託さねばならん。そしてわしを心配してくれるお前に託したい。受けてくれるか?」

 クロウは俯いて考えていたが、やがて顔を上げて頷いた。

 「……分かったよ」

 「すまんのう。エアモルベーゼが力を取り戻さないのか戻せないのか、それは分からんがこちらには拒否権がある。もしやつと戦うことになっても操られたりはせんから安心せい」

 「うん。アニスには会っていくのかい……?」

 クロウが短く尋ねると、フェアレイターが首を振って答えた。

 「城に戻る前に力を託す。恐らくすぐに死ぬじゃろうから、わしは旅に出たとでも言ってくれ」

 「そんな……」

 クロウがぐっと顔を歪めると、フェアレイターはクロウの頭に手を置いてフッと微笑んだ。

 「だが、まだお前には教えることがある! それまでは死ねんぞ! ふわっはっはっは!」

 【……】

 
 ――やがてクロウ達は村へ到着し、ヘルーガ教徒達を無事引率することができた。話し合いの結果、元々イヨルドと一緒に出奔した教徒達と合流する者と、村に残る者が半々になるということになり、さらに町までの引率を頼まれるクロウ達だった。

 しかし――


 ◆ ◇ ◆


 <トーテンブルグ城:謁見の間>

 
 「この度は申し訳ありませんでした」

 『魔王のフェロモン』がルルカ達が色んな意味で克服してからさらに二日――

 休息を終えて、俺達は国王に呼び出されて謁見の間へ赴いていた。開口一番、俺は今回の騒動について謝罪を述べる。

 「うむ。元に戻ったようでなによりだ。リファルも傷一つなく治療してくれたこと、感謝する」

 「いえ、あれは俺のせいですから……」

 「殊勝よな。月島影人なる人物と破壊神が仕掛けた罠というのに。リファルの命を盾に要求を飲ませることもかのうだろうに……いや、むだ話はいいか。休養している間にウェスティリア殿と芙蓉殿から聞いている。この世界においてお主がイレギュラーであること、そして魔王と呼ばれる存在は実はお主一人であることをだ。芙蓉殿が初代光の勇者というのも聞いた。それで女神アウロラを復活させるということだが……?」

 「ええ。一応ここに魔王……アウロラの英雄と破壊神エアモルベーゼの力が集まりつつあります。残りはフエーゴの封印のみ。それが解ければ何かしらの動きがあると思います」

 そこでグランツが一歩前へ出てから膝をついて国王へ告げる。

 「今は私達の知り合いであるパーティ"ブルーゲイル”がフエーゴの封印へ向かっています。何かあればユニオン経由で知らせが来るはずですから、しばらくお待ちください。昨日まではまだなにもありませんでしたが……」

 収穫の無いグランツが悔しそうに言うのに続けてエリンが喋り出す。

 「それと、ヴァント王国のレリクス王子もこの件は存じており、協力していただけることになっています」

 「(あの事件だな。おめぇも関係あるなあ)」

 エリンがフェルゼン師匠がへっと笑いながらボソッと横に居るシュラムに笑いかけると、シュラムは嫌そうな顔をして睨み返していた。

 気にせず俺は続けて国王へと話す。

 「エリアランドのハインツ国王や、闇狼の魔王ベアグラートも女神の封印は知っているので協力出来ると思います」

 「なんと……お主たち顔が広いな……」

 「あちこち旅してきましたからね。それはそうと、この天井どうしたんですか? 大穴が開いてますけど」

 「お前がやったんじゃないか!?」

 「え!? そうなの!?」

 ジェイグの言葉に驚いたその時だった。


 ゴゴゴゴゴ……

 「なんだ? 地震か? おわ!?」

 ゴゴゴゴゴゴゴ……

 「大きいです! みなさん穴の開いた天井から離れて!」

 ティリアが叫び散り散りになると、直後天井が少し崩れてきた。ティリアが叫ばなければ危うく誰かの頭が潰れていたかもしれない。

 そして――


 フッ


 ついさっきまで明るかった空が、一気に闇に包まれた。







                                    NEXT Last Episode……


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