俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第二百十五話 心のままに



 「いい仕事をしてくれたな、ナルレア!」

 <カケル様! 正気に戻ったのですね!>

 『くっ……戻ったか、あのまま姉と夢を見続けていれば良かったものを……!』

 少しずつナルレアに吸収されているエアモルベーゼの影が恨み言をこぼすが、それを無視して俺はこいつに質問を投げかける。

 「エアモルベーゼは最初からそのつもりだったな? 俺の体を乗っ取るためにお前を俺の中に残した。で、月島のやつと対峙してルルカ達を痛めつけさせた」

 『……』

 「無言は肯定と取るぜ? 『俺が目を覚まして、興味が出た』なんて偶然っぽいことを言っていたけど、違うな。俺が目を覚ましたことすら手の内だったんだろう? 月島が先にこの世界に降りているのがいい例だ。全部、最初から決まっていたことだった、そうだろ?」

 俺がエアモルベーゼの影をじっと見ていると、おもむろに言葉を発する。少しだけ愉快そうな口調で。

 『フ……フフ、そういうことだ。月島影人にお前の話を聞いた時「これだ!」と思った。異世界人の強靭な体に、心に闇を持つ者こそが私の新しいボディに相応しいと! 心が疲弊すれば私という影が取りこむのも容易いとな』

 「だから、俺の周りで事件が多かったのか」

 『そうだ。アンリエッタを襲った冒険者……ユウキをさらった男達、メリーヌに乗っ取られそうになったソシア、ガリウスに騙されて国を亡びに導こうとしたクロウ……因果はお前に集まるよう仕組まれているのだその為の『運命の天秤』」

 なるほどな、寿命が見えれば助けたくなるのは人情だ。いくつかの事件はそれで、無理矢理巻き込まれたってことだな。

 『誤算は、あった』

 <誤算……?>

 ナルレアが口を開くが、構わずエアモルベーゼの影は言葉を続ける。

 『お前が自ら誰一人殺すことは無かった。それが大きな誤算だ。地球で月島影人を殺した時のように、復讐をすると思っていた。『生命の終焉』という、おあつらえむきなスキルがあるにも関わらずだ』

 「……まあ、ギリギリの線ではあったけどな。俺がギリギリ間に合わなくて、アンリエッタが冒険者に犯されたり、殺されたりしていたら躊躇なく殺していたかもしれない。ソシアだって師匠に乗っ取られていたら、どうなっていたか分からないしな? 運が良かったんだよ、多分な」

 『……忌々しい男よ……だが、それでこそ私の体に相応しいというもの……だが、もう時間が無い……』

 <逃がしませんよ!>

 『生命の終焉はくれてやる……せいぜいあがくがいい』

 ナルレアがずるずると黒いものを吸収するが、ぶじゅる、という音と共に以後、エアモルベーゼの影は声を発さなくなった。

 「大丈夫か、ナルレア?」

 <ええ、問題ありません。『生命の終焉』をただのスキルとして獲得できましたし! すぐに戻ってクロウ君や芙蓉さんを助けないと>

 「だな。でもその前に……」

 一つ、やることがある。

 「姉ちゃん、久しぶりだな」

 「……懸」

 「姉ちゃんが俺のことを心配してくれているのはすごく嬉しいよ。こうして、また話すことができたのもな。……実を言うと、ここで暮らすのも悪くない、そう思ったりもしたよ」

 「……! じゃあ!」

 パっと顔を輝かせる姉ちゃんを見て、胸が痛むが、俺は小さく首を横に振った。

 「まだ、俺を待ってる人達がいる。ルルカやリファ、師匠を助けないといけないし、それに――」

 (戻って、こい……カケ……ル……)

 「ちょっと心配になる弟分を助けてやらないとな」

 「……行ってしまうのね……」

 「ああ。ごめんな、姉ちゃん。俺はまだ生きている。できることがあるならそれまではきちんと生きていきたい」

 俺がそういうと、俯いていた姉ちゃんが口元を緩ませて顔を上げた。

 「……フフ、仕方ないな、懸は。わざわざ苦しいところに行きたがるなんて、私の弟はとんだMだったわ」

 「ま、姉ちゃんの弟だしな」

 「ぷっ! 何それ? 私は懸みたいに、リスクを冒してまで復讐なんかしないわよ。……じゃあね、急いでいるんでしょ?」

 「……ああ、死んだらまた会えるかなあ」

 「運が良ければ、ね。成長した懸を見れて嬉しかったわ」

 俺は無言で頷き、ナルレアへ叫ぶ。

 「俺は意識を覚醒させるから、ナルレアはサポートを頼む!」

 <はい!>

 ナルレアの返事を聞き、俺は目を瞑って意識を外に向ける――




 「頑張ってね、懸……かけ……うう……うええ……」

 <お姉さん……>

 「わ、私が……あの子を苦しみから救わなきゃって……ず、っと、思ってた……だ、だけど、大丈夫なんだね……懸は、う、うう……」

 <あの人には素敵な仲間が居ますから、大丈夫ですよ。それより私と――>

 「え?」





 ◆ ◇ ◆




 「まったく、邪魔をしてくれる。いいかげん離れたらどうだね?」

 「げぼ……ごほ……嫌だ……こいつはきっと、戻って……くる……」

 目がかすみ、影人がどこにいるかも分からない中、クロウは最後の枷を外そうとしがみついて右足に手を伸ばす。

 「こ、れで……さ、いご……」

 「ふん」

 「ああああああ!?」

 伸ばした手に刀を突きたて串刺しにすると、クロウは絶叫する。

 「この男はもう終わりだ、このままなぶり殺してやる」

 「く、そ……」

 「そろそろ時間も惜しいので、君から死んでくれたまえ」

 「……っ!?」

 手から引き抜いた刀をクロウの頭へ狙いを定める。

 「カケルに着いて来たばかりに可哀相にな。カケルを恨みながら……死ぬがいい!」

 「ク、クロウくーん!」

 芙蓉が泣きながら叫ぶ。

 傍から見てもこれはもうダメ。脳天直撃セ〇サターンだ。と、見れば誰しもが思うであろうその時、フッとクロウの体が消え、固い床を突く結果になった!

 「何だと!?」

 すぐに顔を上げる影人。

 見れば、壁に磔になっていたカケルの姿が無くなっていた。そしてゆっくりと後ろを振り返る――


 「だ、誰……?」

 床に降ろされているクロウが誰かに助けられたと認識するのにそれほど時間はかからなかった。クロウが恐る恐る尋ねると、久しぶりに聞く声が、返ってきた。

 「悪い、クロウ。遅くなったな『還元の光』」

 パァア……

 カケルがスキルを使うと、その場にいた全員が光のベールに包まれる。クロウはむくりと上半身を起こし、カケルを見て目を見開いた後、涙を流した。

 「お、遅いじゃないか……! ここまで追いかけて来るのにどれだけ苦労したか……クロウだけに……う、うう……」

 「はは、まだ余裕がありそうじゃないか。なあ芙蓉」

 「うん……うん……良かった……ちゃんと帰って来られたんだね……」

 「カケルさん! 良かった……」

 芙蓉もうれし泣きをし、俺を抱きしめてくる。ティリアもよろけながら俺の元へとやってきた。

 そして――

 「ばかな……精神を食い散らかされて消えたのではなかったのか……!? それに、切れていた私の腕を回復させるとは……!」

 影人が驚きか怒りか分からない感情を俺にぶつけてくる。そう、俺はこいつにも『還元の光』を与えたのだ。

 「そうそう思い通りにはならないってことだ。それは、向こうの世界で俺がお前を殺した時と同じだ。どんなに人の心を掌握しても、いつか必ず逆襲されることがあるのさ。腕を治したのは……俺がお前をとことんぶちのめす為だ。……てめぇ、俺の仲間を随分やってくれたみたいだな。……もう一回死ぬ覚悟はできてんだろうなぁ!!」

 「馬鹿め! 不老不死の私に勝てると思うな!」

 「やってみなきゃわからんだろうがよ。それに俺の寿命を1500年くらいもぎ取ってくれた礼もさせてもらうからな」

 すると、影人が眉をひそめて尋ねてきた。

 「寿命を1500年だと……? そんなに削っているのに、何故お前は死なないんだ……?」

 「はあ? 1500年くらいで死ぬわけないだろ。俺の寿命はまだ99,997,989年あるぞ?」

 「なんだと!? それでは不老不死とそんなに変わらないではないか!?」

 「それがどうした! まずは特大の一発だ!≪地獄の劫火≫!」

 <フルパワー!>

 ナルレアの声が頭に響き、俺の両手に膨大な魔力が収束する!

 「ば、馬鹿! そんなのここで放ったらお前ぇぇぇ!?」

 そう叫んだのは影人だったかクロウだったか?

 目の前がまばゆい光に包まれ――

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