俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第二百十一話 実力とスキル



 ――三人のおっさんたちが全滅する少し前……



 【ガウ……ガウ……(ふう……ふう……飛ばしてきた上にこの寒さ……ブリーズドラゴンには厳しいでさあ……お、あれかな?)】

 全速力で飛ばしてきたファライディが少し前方に大きな屋敷を見つける。だが、ただの屋敷とは違い、鉄の壁に覆われ、その壁の向こうにいくつか小さな小屋らしきものが見える。恐らくヘルーガ教徒を住まわせるための施設のようなものだろう。この世界なら”要塞”といって差し支えないくらいの防御網だった。

 「止まってくれファライディ」

 【ガウ(合点)】

 フェアレイターが手綱を引いてファライディを止めると、グラオザムが顎に手を当てながら要塞を見て呟く。

 【ふむ、どうやらあれがそうらしいな。どう攻める?】

 「そりゃおめえ、このまま屋敷の上に行って飛び降りるに決まってんだろ?」

 【脳筋の発想だな。翁よ、どうする?】

 「このまま上空から攻める他あるまい」

 【ふむ!? こっちもだった!? ……飛べるのは私だけだと思ったが、着地はどうするのだ?】

 「まあ何とかなるだろ。このドラゴンも加えるか?」

 【ガウ!?(あっしも!?)】

 フェルゼンがペしぺしと背中を叩いていると、フェアレイターが何かを取り出しながら首を振る。

 「いや、ドラゴンは移動手段として死なすわけにはいかん。……いいか、お前はどこか遠くで、そうだな屋敷が見える位置には居てくれ。わしらが降りたらすぐ離脱するのだぞ?」

 【ガ、ガウ(わ、分かった)】

 「でだ。時が来たら狼煙をあげる。その色で、わしらの状態を把握してくれ。黄色なら勝利、白なら撤退。そして赤なら……全滅を示す」

 即効性の狼煙を一つ試しに使い、ファライディはゴクリを喉を鳴らす。

 「負けるつもりはねぇがな。まあ、万が一ってことだな?」

 「いや、わしの見立てではこの三人でも恐らくかなり厳しい。覚悟はしておいたほうがいいぞ」

 フェアレイターの言葉に眉と口を曲げるフェルゼンだが、恐らくかなり強いであろう目の前の爺さんがそう言うからにはと軽口を止めた。

 【では行くか。猫にハニワ? お前達も行くのか?】

 「無論だ。こやつの想いを無駄にしないためにもな」

 「~!! ~!!」

 チャコシルフィドの背中で力こぶを作ってアピールするへっくんを見て、フェアレイターが撫でる。

 「自己責任じゃからな? もしわしらがダメなら全力で逃げるのだぞ?」

 「~!」

 「……分かった」

 コクコクと頷くへっくんに、一瞬考え込んだチャコシルフィドが答えると、フェアレイターが両脇に抱えてファライディへ声をかける。

 「では上空へ頼む」

 【ガウ……(大丈夫かなぁ……)】

 スィーっと少しずつ高度を下げながら近づき、一番大きな建物の屋根へと飛び移るように三人が飛び降りた。

 【ガオォォン!(ご無事で!)】


 そのまま上空へ飛び去るファライディは見送らず、即座に窓ガラスを破って屋敷へ侵入する。

 「でかいだけで人の気配はないな! 片っ端から調べるぞ!」

 「おう!」

 バァン! と、次々に部屋の扉を蹴破って行くフェルゼン。背後では奇襲にそなえてグラオザムが構えていたが、十数部屋を開けても人どころか動物一匹見なかった。そこへチャコシルフィドがタタタ……と、前を歩き鼻をひくつかせて話しかけてくる。

 「む、あの時の匂いか? こっちにいるようだぞ」

 【ふむ、猫が行くのなど無駄死にだと思っていたが存外悪くないな。騒ぎで人が来る前に見つけるぞ】

 「そういやおめぇ、何で乗り気なんだ?」

 先頭を走るグラオザムにフェルゼンが疑問を投げかけた。フェアレイターが居るとはいえ、特に恨みなども無いはずなのにと聞いてみたのだ。

 【私はエアモルベーゼ様から造られた存在だからな。あの男がエアモルベーゼ様の僕で、エアモルベーゼ様の命令があればお前達の敵になっていたかもしれないが、どうも違うようだ。それにカケルという男が教祖を殺せば世界は終わる。破壊神の力の一部とはいえ、不本意な破壊は望むところではない】

 「なるほど、蚊帳の外のことで死にたくねぇってこったな!」
 
 【そう言う訳ではない。あくまでもエアモルベーゼ様が望むことだけを行うのが我等だ。それに絡まないのであれば、自由意志がある。そういうことだ】

 「何だか小難しいなぁ? もっとシンプルに行こうぜ! こんな感じにな! 『金剛飛連斬』」

 チャコシルフィドが影人の匂いをかぎ取った部屋を目くばせすると、フェルゼンは扉越しに斬撃を繰り出した。剣閃は扉を切り裂き、刃が部屋へと侵入する!

 ガガガガガ! ガキン!

 「チッ、止められたか」

 フェルゼンが中へ入ると、部屋の中心からやや右にあるソファに座り、”獄潰”を手に入り口を睨みつける影人の姿があった。

 「お前達は……!? 三人だけか? 芙蓉はどうした?」

 立ち上がりながら尋ねてくる影人に、マントを脱ぎすてて構えを取ったフェアレイターが返答する。

 「芙蓉はいない。カケルが来る前にお前に引導を渡しに来た」

 【ふむ、あの時のケガは完治してい無ようだな。一気に行くぞ!】


 「!?」

 影人が口を開こうとする前に、グラオザムが襲いかかり、次いでフェルゼンが追う! 部屋はそれなりに広いが、所詮それなりなので二人同時を相手にしたくないなら後退するしかない。狙い通り影人はソファを踏み台にして壁際まで飛ぶ。

 【はあああああ!】

 「何の!」

 ガカカカカカ! 爪を伸ばしたグラオザムの拳が人体の急所を狙い撃つ。それを刀に似た武器”獄潰”で捌く。挟み撃ちにはならなかったが、フェルゼンが攻撃する隙間は、当然あった。

 「くらえ!」

 「くそ、離れろ!」

 【ぐ……!】
  
 グラオザムを蹴飛ばしフェルゼンの斬撃を受けようと構える影人。だが、フェルゼンはニヤリと笑い、振り上げた剣を急に下げ、下からの斬撃に変更した。

 「下か、見えているぞ」

 「下はな!」

 「何!?」

 ゴン! 

 影人が下を向いた瞬間、鈍器でコンクリートを殴ったような音が後頭部から聞こえ、視界がブレる。そしてフェルゼンの剣も影人の脇腹を切り裂いていた。

 「影人と言ったな。お前は教祖としての力と異世界人としての能力が高いが戦士ではない。能力が高かろうが、それを活かせないというのは暴走したカケルと戦っているときに分かっていた。このまま死んでもらうぞ」

 フェアレイターが城で見た影人の印象は『#驕児__きょうじ__#』だった。自分にはなんでもできるという思い上がりが見られた。
 そして有利に立っている時はいいが負けそうになると逃げだしたので、人間としては正しいが武人ではない。ならば、こちらが命を懸けて突撃してくることなど予想しないだろうと考えたのだった。
 
 案の定、護衛をつけておらず、侵入して来たことすら気づかず奇襲を許した結果になり、フェアレイターは少しばかり安堵し、さらにグラオザムとフェルゼンと共に追撃を仕掛ける。

 「『黒き斬刀』! 『暗き指突』!」

 「そら! おりゃあ!」

 「ぐぬ……!? ぐああ!?」

 【まだ終わりではないぞ。『風牙』】

 フェアレイターの技が、フェルゼンの斬撃が、グラオザムの拳が影人をズタズタに引き裂く。破壊神の力に土刻の魔王から攻撃を受ければ当然の結果だった。


 「くおおお……お、おのれ! 私と芙蓉の住処をよくも汚してくれたな……!」

 影人が刀を振り被るが、フェアレイターが踏み込んで胴体へ拳を決めた。

 「反撃などさせん。これで終わりだ」

 ズドン!

 「ごふ……!?」

 壁に思い切りたたきつけられ、首を掴まれ拘束される。

 「よし、何とか間に合ったか」

 フェアレイターが首を落とそうと手刀を心臓に突き立てようとすると、影人が笑い出した。

 「く、くく……」

 【何がおかしい? いや、やられすぎで頭がおかしくなっただけか】

 グラオザムが、早くトドメをと言ったところで影人が口を開く。

 「私をこんなにして満足だろうな? ふう……いきなりの来訪で焦ったが、今一歩だな……」

 「負け惜しみを」

 「そう思っているといい……ぐぶ……!?」

 フェルゼンが悪態をつき、影人がニヤリと笑った瞬間フェアレイターの手刀が心臓に突き刺さった。

 べしゃりと血の海に沈み、影人が床へ倒れ込む。

 【ふむ。終わったか。後はカケルとかいうものを何とかせねばな。そしてエアモルベーゼ様、いやアウロラの復活か】

 「そうだな。油断してくれて助かった。行こう」

 フェアレイターが踵を返すと、直後ゆらりと影人が起き上がる。

 「!?」

 気配に気づき、振り向く三人。だが、影人はフェアレイター達が反応するよりも早く刀を振り抜いた。


 「ばかな!? 心臓を貫かれて生きているはずがない!?」

 【ぐあ!?】

 「こいつ……さっきまでと動きが……!? おらあ! ぐあああ!?」

 反撃に転じるが、奇襲という形になり三人は無惨にも切り伏せられた。

 「ふん……エアモルベーゼからこの世界に送られてきた私が、対策もせず姿を出すと思うかね?」

 「どういう……ことだ……」

 「芙蓉のスキルは知っているか? 芙蓉は”不老不死”を持っているそうだ。であれば、おのずと答えが見えてくるだろう? 確かに痛いが油断したお前達を引き裂くことくらい訳は無い……私を殺したければ肉体ごと消滅させるか、首と胴体を切り離すことだったが、残念だったな」

 「くそ、がぁ……!」

 ドシュ!

 歯噛みするフェルゼンの腹に獄潰を刺しながら、冷ややかに言う。

 「それはこちらのセリフだ。まあ、芙蓉を手に入れるためにまだ利用価値はあるから活かしておいてやろうじゃないか。私は寛大だからな」

 三人の手足を刀で斬り裂きながらフフフと、影人が嫌な笑いをする。

 「残ったのは猫とハニワだけかな? 愚かものどもめ。異世界人の私をお前達が簡単に倒せるわけがないだろう?」


 その瞬間、チャコシルフィドが影人へ襲いかかる!

 「まだだ! 弱点を晒したのはまずかったな、吾輩達がトドメを刺す! フシャー!!」

 「~!!!!」

 「速い!? ぐあ!?」

 チャコシルフィドが首に噛みつき、へっくんが影人の肩に乗り、土を研鑽して切れ味を増した剣で影人の首を切断しようと襲いかかった!

 「!!!」

 ブシュ!

 「いけるぞ! うお!?」

 「猫の分際で喋るとは生意気な! それにハニワが人間を殺そうとするか! 死ね!」

 影人はチャコシルフィドを掴んで握りつぶすと、べきべきと音を立てて、チャコシルフィドは悲鳴を上げた。

 「があああ!? ア、アニス、すまん……」

 「!? ~!!」

 チャコシルフィドが動かなくなったのを見て必死に首を斬ろうと腕を動かすへっくん。だが、体格差がある影人の首は切断までは至らなかった。

 「よく動く人形だな? ……くたばれ」

 「!?」

 ガチャン!

 へっくんは壁に投げつけられ頭部が損傷すると、そのまま床にごろりと転がり動かなくなった。

 「さて、ゴミを幽閉するとしよう」

 「(全滅か……ファライディ、後を頼むぞ!)」

 バリーン!

 フェアレイターが最後の力を使って狼煙を窓の外へ投げる。赤色の煙が外で伸びていくのがうっすら見えていた。

 「む? 今何を投げた? ……まあいい、後はカケルを始末すれば私の目的は達する……」


 ◆ ◇ ◆



 ボシュウ!


 赤い煙が空に上がるのを見て、ファライディが戦慄する。


 【ガウウ!?(赤い煙!? ま、まさか全滅したってのか!? あの面子で!)】

 ファライディは酷く落ち込み、しばらくその場でホバリングしていたがすぐに踵を返して元来た道を引き返す。

 【ガウ……(このまま帰ってもあの三人がやられたならティリア姐さん達でも歯が立たないだろうし、あっしの言葉も通じないから乗せてここまでくるだけになるか……カケルの旦那は何してるんだよ……)】

 せめて魔王が全部揃っていれば……エリアランドでバウムを連れてくるかとも思ったが言葉が通じないので戻ったら城に連れ戻されて終わりだろうとファライディは思い直す。

 【ガオウ……(どうすりゃいい……あっしにできることは――)】

 ファライディは休みながら飛び、考えがまとまらないまま南へと戻る。一日経過してまた飛ぼうとした時、眼下に見覚えのある姿を確認した!

 【ガオオ!?(あれはカケルの旦那!? こんなところに居たのか! ……よし!)】

 ファライディは走るカケルへと急降下していった――

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