俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第百六十九話 レヴナントの正体


 マスクを外したレヴナント。ついにその素顔を見ることになり、俺はごくりと唾を飲みこむ。

 俺と同じ世界から来た人間であることはほぼ間違いない。となると、どこの国の人間なのかというのも興味深い。アヒルの村だと金髪だったからそっち方面だろうか? などと考え込んでいると、マスクが完全に取れた。

 「あ……ああ……!?」

 「ま、まさか……そんな……」

 「お、お前……!?」

 「フフフ、どうだい?」

 と、言うレヴナントの顔にはまたマスクがついていた。

 「『フフフ、どうだい?』じゃないだろ!? ちゃんと外せよ!」

 「あ! ちょ……そんな乱暴に……! た、助けて! ヘルプ!?」 

 俺がレヴナントに詰め寄り、マスクに手をかけると師匠やルルカに助けを求め始める。

 だが――

 「自業自得じゃな」

 「そうだね。カケルさん、早く剥ぎ取っちゃってよ、面倒くさいし」
 
 「うええ!?」

 ルルカがレヴナントを羽交い絞めにし、師匠が頭を固定する。俺はいい仲間を持った。そして力いっぱい剥ぎ取ると、レヴナントの体に変化が起きた!

 ぼふん!

 「うわ!?」

 急に煙が上がり、視界が一瞬遮られた。

 「だ、大丈夫ですか!」

 「ああ、害はなさそうだ……それよりレヴナントは……?」

 「目の前にいるよ」

 レヴナントの声が聞こえ、煙が段々と少なくなり視界が開けてくる。そして目の前には……腰まである長い黒髪をした女の子が立っていた。髪の毛の真ん中ほどに赤いリボンがついていた。

 「お前は……俺と同じ日本人、か?」

 「ご名答。まあ薄々感づいていたとは思うけど、私は異世界人。カケルさんと同じところからこの世界に召喚されたわ」

 召喚? それも気になるが、こいつの顔……どこかで……俺はまじまじとレヴナントの顔を見ながら質問をする。

 「まずは名前を聞いておこうか。レヴナントは流石に偽名だろ?」

 「そうね。でも、カケルさんにはあまり言いたくないわね」

 「? どうしてだ?」

 俺が訝しんで尋ねるが、レヴナントは少し困った顔で俺に言う。

 「どうしても。さて、お茶も届いたことだし、私の今まで手に入れたお宝の話をするわね! ……いひゃい! いひゃい!?」

 「ふざけるならもっと引っ張るからな? ちゃんと話せよ?」

 俺が頬を引っ張って目を細めると、涙目でコクコクと頷く。やっぱりどこかで見たような気がするな……俺が手を離すと、そそくさとお茶を持ってベッドへ腰掛けた。

 「ふう……いざとなると緊張するわね。さて、どこから話そうかしら……」

 レヴナントがそう言うと、師匠が腕を組んで口を開く。
 
 「名前はさておき、お主は今、この世界に召喚されたと言ったな? いつ、何のためにじゃ? まずはそこからじゃろう」

 「じゃあ、私の始まりから話すわね」

 レヴナントが深呼吸し、真面目な顔つきになり語り始める。その内容は、信じがたいものだった。

 「私がこの世界に召喚されたのは三百年前。エアモルベーゼが世界を破壊しようと現れたころ……」

 「え!?」

 「さ、三百年前!?」

 「すごい。不死身?」

 ティリアとクロウが驚き、アニスが拍手をしながら尋ねると、レヴナントは口元を緩ませてから答えた。

 「それは後で話すとして……私が召喚された理由は、察していると思うけど、エアモルベーゼを倒すことだったの。女神アウロラだけでは手に負えず、止む無く異世界から人を集めたの。その内の一人が私」

 「その内の……ということは他にもいたのか?」

 リファが聞くと、コクリと頷き話を続ける。

 「ええ、私を含めて六人がエアモルベーゼを倒すために集められたわ。このメンバーならどこかで耳にしたことがあると思うけど、異世界人の能力は現地人に比べて遥かに高い能力を持つわ。アウロラが言うには『元々マナを持たない人間が、急にマナに触れることによって抑えられている能力が解放される』らしいわ。カケルさんなら分かると思うけど、人間の脳って10%程度しか使っていないって言うでしょ? あれがマナによって引き上げられるってこと」

 「なら僕達みたいな現地人は?」

 クロウが不思議そうな顔でレヴナントへ尋ねる。俺もそこは気になるところだ。

 「クロウ君達は産まれた時から……ううん、お母さんの体内に居るときからマナに触れているからね。『魔法』や『スキル』が使えるのはそのためなの。で、歳を経るごとにマナに慣れてしまうから成長しなくなるのが理由よ」

 「なるほどね……色々考える余地はあるけど、理由としては有り得なくないかな。じゃあもしカケルさんとボクが子供を作ってもカケルさんみたいに強くなるわけじゃないんだね」

 ルルカが賢者モードで何やら不穏なことを言う。レヴナントは気にした風も無く「その可能性は高いね」と頷き、話を戻す。

 「少し話が逸れたわね。で、六人はそれぞれエアモルベーゼを倒すために、この世界へ降り立ったの」

 「なるほどな、と言いたいところだけど、質問が二つある。いいか?」

 「うん」

 「まず一つ目は、お前はいつの時代の人間だ? スマホなんかを知っているなら少なくとも俺とほとんど変わらないはずなのに、300年前に召喚されたという意味が解らない。二つ目は残りの仲間はどうなった?」

 するとレヴナントは目を瞑って少し間を置いてから口を開いた。

 「……一つ目の回答だけど、私はカケルさんと同じ時代の人間よ。でも召喚された先は間違いなく300年前……そして二つ目だけど、私以外の仲間はみんな寿命を迎えて亡くなったわ」

 少し寂しげな目をしてレヴナントが俺を見る。その目を見返しながら俺は再度質問をする。

 「じゃあ……どうしてお前は300年も生きているんだ……?」

 「うーん、その質問の答えは後にするわね。で、私達は世界に干渉できないアウロラの代わりに、エアモルベーゼを倒した。ただ、完全に倒すことができなかったから、アウロラの力を使ってカケルさん達が探している石碑へエアモルベーゼを各地へ封印したわ。そして、私達は六つの土地でそれぞれ暮らすことになったの」


 そこまで聞いてから、ティリアが目を見開いてレヴナントへ詰め寄った。

 「ま、まさか……あなたも魔王……!? い、いえ……そんなはずないですよね……今は六人ちゃんと居ますし……」

 「遠からずってところね。私以外の五人は寿命で亡くなったから、自分たちの力を子供や正しく使ってくれる人へ継承していった。それは長い時を経て――」

 「ティリア達に受け継がれている、ってところか」

 俺がいいところをかっさらうとレヴナントがバンバン俺の背中を叩いて来た。

 「そうだけど! そうだけどさ! そこは私が最後までカッコよく言うところでしょ!! コホン……そう、今の魔王とは、異世界人の力が長く継承されているものなの!」

 「まあ、今カケルが言ったしのう……」

 バーン! とドヤ顔で言い放つが、俺が先に言ったもんだからあまり驚きは無く、レヴナントはその場に崩れ落ちた。だがティリアは目を輝かせて口を開く。

 「なんと! では、異世界人であるレヴナントさんはやはり魔王!」

 あまり驚かなかった俺達を体育座りで見上げてくるレヴナント。だが、ティリアの食いつきに満足したのか復活した。

 「おっと、ティリアさん、そこは訂正させてもらうわ! 私達は魔王では無かったの。いつ、どこからねじ曲がってしまったのか分からないけど、それぞれ六人には『光翼の魔王』や『闇神官の魔王』みたいに通り名がついていたわ」

 「うおお……」

 思わぬダメージを負ったクロウが頭を抱え呻く。

 「どんなやつなんだ?」

 「そうね、私は『光の勇者』だったわ。他には『土刻の英雄』『風斬りの守護者』とかクロウ君が好きそうな感じだったわね」

 ふむ、属性はそのままだけど『魔王』という部分が違う感じだな。バウムさんは守護者なのか。

 「光……ということは、お嬢様の力は元はレヴナントがもっていたものなのか?」

 リファがお茶を飲みながら尋ねる。

 「一応、ね。……うわあ!?」

 「ご、ご先祖様!」

 ティリアがバッとレヴナントに抱きつく。そりゃ300年も生きていればそうなるか、と思っていたら意外な言葉が返ってきた。

 「私は独身で処女よ! ティリアさんのご先祖じゃないわよ。勇者……今は魔王か。魔王の力は他人に奪われるか、譲渡できることは知っているわよね?」

 「は、はい」

 「私は力を譲渡したのよ。300年、きっと色々な人に渡って、今はティリアさんが持っている、そういうことよ」

 そこで俺はもう一度レヴナントへ質問をする。

 「どうして300年も処女……いや、どうしてお前は300年も生きているんだ? それにどうして俺と同じ時代の人間がこの世界の300年前に召喚されたんだ?」

 「それは――」

 レヴナントが笑いながら俺の首を絞めつつ話しはじめた。
 

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