俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第百四十七話 魔王と破壊神(の力の一部)

 

 「ってぇ……野郎、絶対ゆるさねぇ!」

 「……あんまり叫ぶと頭に響くから」

 「一本道だけど長いわね、さっきの揺れ……急がないと」


 神殿へ向かって懸命に走っているのは、アルとサンにコトハ、そしてペリッティだ。

 
 そして――


 「この先は女神と破壊神の封印がある。恐らく解けちまったみたいだな」

 さらにフェルゼンが合流していた。

 サンとアンリエッタがと共に子供達を馬車に乗せていたが、フェルゼンの怪力で即座に終了。サンと共に洞窟内へと侵入したのだ。

 「まさか、土刻の魔王が来るなんて思わなかったわ」

 「嫌な予感がしたからな。昨日、フエーゴから帰って来たんだけど、徹夜で走ってきたぜ!」

 「……港町から一日では普通の人は無理……」

 「流石は魔王ってことかしら? カケルさんも規格外だったし、魔王ってそういうものなのかもね」

 ペリッティが呆れたように言うと、フェルゼンが驚いた様に言う。

 「なんだ、お前等もカケルを知ってんのか? フエーゴであいつが来るのを待ってたんだが来なかったんだよな。この国にはもういねぇみたいだし、知ってるか?」

 「魔王同士、知り合いだったのかよ……えっと――」

 アルはエリアランドで出会ったカケルの話をかいつまんで話す。

 「はっはっはぁ! あいつ面白いことになってるじゃねぇか! いいぜ、もっと強くなって貰わないとな」

 「強く……ってどうするんですか?」

 コトハが眉をひそめて尋ねると、フェルゼンは当然と言わんばかりに答えた。

 「そりゃ俺と戦ってもらうためだ。最近腕の立つやつがいねぇからな……魔王連中はまあまあだが、それぞれの属性で戦ってくるからもう手の内は分かってんだよな。でもカケルは全武器適性持ちだ。成長すれば相当厄介になるだろうぜ! 楽しみで仕方ねぇ!」

 「……バトルジャンキー……」

 「あ、馬鹿!? なんてこと言うんだサン!?」

 サンがボソッと呟いたのをアルが咎めると、フェルゼンは笑いながら口を開く。

 「かまわねぇよ、その通りだしな! ……ま、その前に面白い相手と戦えそうだがな」

 フェルゼンが笑うのを止め前を見据えると、神殿の入り口の前でオロオロしているエリンを発見し、ペリッティが声をかける。

 「エリン!」

 「あ! ペリッティさん! た、大変です! 封印が解かれて、グランツとニドさん達が向こうに取り残されました!」

 「なんですって……! この崩れ方……これじゃ助けに行けないじゃない……」

 最高の暗殺者と言えど、即座に瓦礫を撤去する技術は無い。それでも何とか穴を掘ろうとダガーをがつがつと当てていると、フェルゼンが肩に手を置いた。

 「まあ慌てるな。俺が何とかしてやるよ」

 「フェルゼン様、この瓦礫をどうにかできるんですか……?」

 コトハが尋ねると、無言で頷き瓦礫に手をやり、呟いた。

 「俺は”土刻の魔王”だ、土や石を扱うのはお手の物ってこったな≪アースメルティング≫」

 「ああ! い、岩が融けていく……」

 コトハが手を口に当てて驚き、目の前でどんどん岩が融解していくのを見届ける。やがて一人分が通れるだけの穴を確保でき、そこから中を覗き込むと――


 ◆ ◇ ◆


 「ぐう……!? 強い……!」

 「さっきまでと同じ男とは思えん! ぐはぁ!?」

 「ニド! 野郎!」

 【ふっふっふ……そろそろ限界のようだな、お前達のレベルは斧を持った男が一番高そうだ。みつくろって36といったところか? 次に貴様か】

 「チッ……」

 ドアールの剣を受けながら余裕の笑みを見せるシュラム。言うとおり、グランツもれべるは上がっていたが、20程度なので、ニド達と比べれば見劣りする。現に攻撃を与えられているのはニドが一番高い。

 【私はこの状態で95はある。4人がかりでやっとだろう。潔く養分になれ人間】

 「がっ……!?」

 「兄貴! ≪業火≫!」

 【もう尻は焼かせんぞ!】

 「うう……」

 土の剣と格闘でグランツ達4人を相手に立ち回るシュラム。そしてついにトレーネが捕まってしまう!

 【私好みではないが、まずはお前から吸収してやろう】

 「や、やめろ……!」

 【いい顔だ、その恐怖も力の増加に役立つ。お前はこいつの兄だったか? そこで大人しく見ていろ≪グランドネイル≫】

 「ぐあ!」

 地面から突き出た土に貫かれ地面を転がる。

 トレーネを掴む首に力が入ったその時、入り口に異変が起こった!

 ドロリ……ぐしゃ……

 「な、なんだ……?」

 剣を杖に立ちあがるドアールが入り口に目を向けると、塞いでいた岩がみるみる解けて舞い散った!

 【なに……!?】

 シュラムもそちらを顔だけ向けて驚くと、入り口からシャ! と、何かが飛んでくる!

 ドス! ドス!

 【ぐあ!? ああ!? 尻ぃ!?】

 「トレーネに何するつもりよ、この変態!」

 憤慨して出てきたのはエリンだった! 尻丸出しの男がトレーネを捕まえていたのだ、気が気でなく、エリンは『ダブルショット』で、トレーネを捕まえていた腕と尻に一撃ずつ攻撃を仕掛けた。

 【ぐぬう……女ぁ……! 貴様から縊り殺してやる!】

 「!」

 グランツとニド、ドアールは動けずエリンに迫るシュラムを止めることができない。あわや、というところでシュラムの腕を掴む者がいた。

 「よう、お前が破壊神の力とやらか? 期待外れじゃないことを祈るぜ? よっと!」

 【ぐふう!?】

 腕を掴んだのは当然ながらフェルゼンである。腕を掴んだまま、開いた手でシュラムへとボディブローをぶち込むフェルゼン。それと同時に手を放すと、シュラムは物凄い勢いで石碑に激突した。

 バガン!

 「ひ、ひい!? ぶべら!?」

 石碑が粉々に砕け散り、破片がパンドスにヒット。鼻血を出しながらもぞもぞと隅へと逃げていた。

 【ぬう……! な、何者……!】

 「聞くのは昔から聞いているが、会うのは初めてだな。俺はフェルゼン。剣神フェルゼン。またの名を土刻の魔王フェルゼンだ」

 腰の大剣を抜きながら口上を言うと、石碑をガラガラのけつつ立ち上がる。

 【魔王……? 土刻の英雄ではないのか? まあいい、みんなまとめて片づけて養分にしてやる】

 それでも危険な相手だと感じ、シュラムはマナを集中させ力を高める。

 「こいつは俺がやる、仲間の手当てをしてやれ」

 「……は、はい! ニド達はこっちへ!」

 サンが近くにいたドアールを治療しながら叫ぶと、それが合図になったかのようにフェルゼンから仕掛けた!

 「ゆっくり楽しませてもらうぜ! まずは心臓!」

 【いきなり心臓狙い!? 楽しむ気があるのか貴様ぁ!】

 アースブレイドで剣を生成し、大剣を受けながら叫ぶシュラム。


 「……バトルジャンキーじゃなかった。危ない人だった」

 「私もそう思う」

 サンとトレーネがガシッと握手をしていると、アルが慌てて言う。

 「しー! サン、しー! トレーネちゃんもそれ以上はダメだからな!?」

 「?」

 サンとトレーネは首を傾げて、フェルゼンの戦いを見るのだった。

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