俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第百二十話 村人の主張



 「さっきの悲鳴はティリアか!」

 <急ぎましょう!>

 俺は鍵のかかった小屋にいるメリーヌ師匠を一旦諦めて宿へと駆けつける。師匠の話だと夕食が危ない。間に合ってくれよ……!

 宿へと入り、食堂へと走りこむと、リファが入り口に立っていたので声をかける。

 「リファ! 何があった! ティリア!」

 「あ、ああ……カ、カケル……! ルルカが……クロウが……!」

 「二人がどうし……」

 リファを押しのけて中へ入ると、アヒルが二羽、自分の羽を見てわなわなしていた。

 「ガ……ガア……!?」

 「グア……!」

 マジ有り得ない、そんな感じの表情だった。テーブルには野菜炒めがあり口をつけた後があった。

 少し頭のてっぺんが緑がかったのは……恐らくルルカで、茶色っぽいのは……クロウだと思う。

 「カ、カケルさん!? ルルカが! ルルカが!?」

 「落ち着け、料理を食べたらこうなった、それであっているか?」

 俺がみんなに尋ねると、レヴナントが頷きながら口を開いた。

 「その通りだ。どうしてそれを?」

 「ちょっとな。お前達はどうして無事なんだ?」

 「私は食べましたが変化はありませんでした。リファは……」

 「わ、私は……その、ピーマンが入っていたから、食べるのを躊躇したんだ……」

 ティリアは魔王だから何か耐性があったのだろうか? リファは……子供っぽい好き嫌いが幸いしたな。で、恐らくレヴナントは……

 「お察しのとおり、私は怪しいと思ったから口をつけなかったんだよ。これでも大盗賊だからね、警戒はするさ」

 ということらしい。普段はお茶らけているけど、レヴナントは実力者だ、そこは疑いようがない。

 「クロウは最近料理にハマりつつあるからな……俺のミスだ」

 「グエ!」

 俺が呟くと、羽を使ってポンポンと俺の足を叩いてくるアヒルクロウ。ルルカはとぼとぼと歩いてきて俺を見上げていた。

 「ガア……」

 ルルカを抱き上げるティリアが疑問を口にする。

 「しかし一体なぜこのようなことを……」

 「分からんが、答え合わせは今からできそうだぞ」

 俺がそう言ったと同時に、ドタドタと宿へ入ってくる足音が聞こえてきた。

 「へへ……今日も冒険者共が大量……だあ!?」

 ガツン! 俺の拳が最初に入ってきた男……門番をしていたやつにクリーンヒットし悶絶する。続いて村長と数名の男達が入ろうとして驚いて固まっていた。

 「確保ー!!」

 「おおお!」

 「二人を元に戻しなさい!」

 「おっと、動くと首がちぎれるよ……?」

 「ひ、ひい……!?」

 「な、何故アヒルになっておらんのだ!?」

 逃げる間もなくあっという間に俺達に捕縛され、村長以下数名は食堂の床に転がることになった。俺達を睨みつけたり、目を泳がせたりと対応は様々だが、村長は目を伏せて諦めたような顔をしていた。

 「さて、質問だ。口答えとかはしない方がいいぞ? 俺とこっちの子は……魔王だからな。どうなるか分からないぞ?」

 「ま、魔王だって……!? どうして魔王がこんな辺鄙な村に……」

 「余計な口もきくなよ? 俺達の質問に答えろ。まずはどうしてこんなことをしているのか、からだな」

 「……」

 一番悪い顔をして聞いてみると、村長は口をつぐんで喋らない。俺はレブナントに目で合図をすると、レヴナントは頷き、ナイフを持って門番の男へと近づく。

 「な、何をする気だ……!?」

 「いや、ちょっと片方の耳をきろうかと思ってね? どうやら言葉が通じ無いようだから無くても構わないかなと思ったんだよ」

 今のレヴナントは結構な金髪美人である。それがうっすらと笑みを浮かべてそんなことを言うので、男は青ざめて震えだした。

 「わ、分かった! 喋る! 喋るから!」

 「……仕方あるまい……魔王相手に逆らう方が無理と言うもの。私はどうなっても構いません、どうか他の者にはご慈悲を……!」

 「ガア!」

 「グエ!」

 もぞもぞと動きながら村長のマルタさんが懇願する。クロウとルルカに突かれながらも必死にお願いをしていた。

 「分かった。なら話してもらおうか」

 「は、はい……あれは数週間前だったでしょうか……ボロボロのローブを纏った旅人が村へ迷い込んできたのです。この通り、何もない村ですが、折角きたのだからと歓迎しました」

 「あの野郎さえ来なければ……」

 門番が悪態をつくと、リファが村長へ続きを促す。

 「それで、その男は……?」

 「男は二日ほど大人しくしていました。しかし突然『実験場に丁度いい』と言い、村人を次々とアヒルに変えてしまったのです」

 「やっぱり料理でですか?」

 「いえ、その時は水でした。飲んだもの、かけられたものはアヒルに……」

 するとレヴナントが顎に手を当てて呟いた。

 「……魔法じゃないのかな? でも、アヒルに変えるなんて芸当は聞いたことがないね」

 「どちらかと言えば魔法薬の類のようでしたが、何ぶん私達はそういうものに疎いもので……一応、本人も魔法使いだと言っていました」

 封印されていたヤツみたいな感じじゃなさそうか? ならやりようはあるか。

 「で、協力していたからには何か弱みでも握られたのか?」

 すると別の男がぶすっとして口を開いた。

 「……ああ、村長は奥さんをアヒルにされた上、連れて行かれた。他の連中も嫁が連れていかれたり、子供がアヒルに変えられたりして迂闊に逆らえない」

 なるほどな……それともう一つ、気になる点がある。

 「それは分かったが、師匠もアヒルに変えられていた。それとさっき『今日も冒険者が大量だ』と言っていたが、どういう意味だ?」

 「実はアヒルの中には冒険者も居るのです。それも一人や二人じゃなく何十人も」

 「やっぱりか。でも冒険者が町じゃなくこっちに来たんだろうな……?」

 ユニオンの依頼はメリーヌ師匠以外受けた話を聞いていない。となると直接こっちに来ていたことになる。

 「それは私達にも分かりませんが……船着き場に仲間がいるのかもしれません。どうもあの男の口ぶりだと数人で何かをしようとしている感じでした。アヒルにする理由までは分かりませんが……」

 それが分かれば苦労は無い、か。

 だが、話は分かった。となるとこれからすることは二つ。

 「恐らく教えてもらっていないだろうけど、アヒル化を戻す方法は?」

 これがまず一つめ。

 「申し訳ありません……流石にそれは教えてはくれませんでした」

 まあそうだろうな。戻し方が分かっていたら、無理して取り返しに行く人も居るかもしれないしな。ならば二つ目だ。

 「その男はどこにいる?」

 「……」

 しかしこの問いには村長は答えなかった。するとレヴナントがため息をついて話しだす。

 「言うと家族を殺されると脅されているんだろう。しかし、村長、これはチャンスだ。こちらには魔王が二人いる、その男に嗅ぎつけられる前に取り返すことができるかもしれないよ? それに私も大盗賊だ、盗むのは得意だよ」

 「む、むう……」

 それでも歯切れが悪い村長に俺は言った。

 「俺は回復が得意な魔王だ、もし万が一があっても……このとおりだ」

 「カケルさん!?」

 俺は槍で自分の足を刺し、血を流す。ごくりと喉を鳴らす村の人間が見ている中で、俺は『原初の光』を使い、怪我をあっという間に治す。

 「す、すごい!? あなた方ならもしかすると……わ、分かりました、お教えしましょう」

 「村長!?」

 「言うな、こんなことを続けていて、妻たちが戻って来たときに顔向けができるか? 私はかけてみようと思う」

 「……村長がそう言うなら……」

 男達はざわざわしていたが、話はまとまったようで、村長が意を決して口を開いた。

 「あの男はここから北へ行ったところにある洞窟へ潜伏しております。アヒル化の薬を量産するつもりなのでしょう」

 「後、魔物が多くなったってのは本当だ。あの男が来てからだから、そっちの線も怪しい。注意した方がいいぜ」

 村長の後に門番の男がそう言いって注意を促してくれた。見知らぬ男を歓迎するあたり、本当はみんな良い人たちなのだろう。

 「夜も遅いけど、逆に奇襲になるかな? どうする、行くかい?」

 「ああ、さっさと終わらせてメリーヌ師匠を元に戻そう……戻す手段が無かったら……」

 「ガア!?」

 「グエ!」

 バンバンと俺の足を叩く二羽。それは耐えられないと言わんばかりだ。そろそろ声が聞こえてきそうだけどな。

 「ではすぐに出発しましょう」

 ティリアの言葉で俺達は頷く。

 それじゃ、厄介事を片づけに行きますかね。 

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