俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
第百十九話 メリーヌの足跡
宿で一息ついたのも束の間。
俺達は部屋を取った後、すぐにその足でユニオンへと向かう。外で待っていたレオッタ達にも部屋番号を教え、すぐに解散。幸い人通りも少なかったので怪しまれることはないだろう。
「ついてきているか?」
「……うん、大丈夫だね。お嬢様もリファもちゃんとついてきているよ。リファの顔がちょっと怖いけど」
ルルカが俺の腕にくっつきながらたまに後ろを振り返って確認してくれていた。で、俺達の前にはクロウとレヴナントが歩いている。
「クロウ君もユニオンでいいの? デヴァイン教へ行った方がいいんじゃない?」
「いや、この時間は午後の礼拝があるから向こうへ行っても門前払いだろうね。僕が一緒だと中には入れるけど、聖女様と話すのは難しい。なら先にカケルの師匠とやらを探す時間に当てた方が効率的だね」
「ということだレヴナント、ちょっとお金もおろしておきたいしな」
実は生前のお金もユニオンの口座に入っていて、結構な高額をもっていたりするのだ。エリアランドで貰った報酬、そしてデブリンを倒した報酬も入れてある。俺の財布にも20万セラは入れていたのだが、レヴナントの船賃と食事代で割と消えたので、補充しておきたいということである。
「お、ここか」
「この町のことならだいたい分かるから、僕は横で聞いているよ」
このユニオンもクロウに連れて来てもらったので、信頼性は高いな、と思いつつユニオンの扉をくぐる。
「いらっしゃいませー……」
すると超やる気のない声で出迎えられた。カウンターには気怠そうな灰色の髪を後ろに束ねた女性が座っていた。外からじゃ分からなかったけど、中はそれほど広くなく、結構荒れていた……。
「……何? 早くしてほしいんだけど」
「ああ、すまん、お金をおろしたいんだ、頼めるか」
「はいはい、じゃ、カード出して」
やはり気怠そうに目を細めて手を出したので、俺はスッとカードを渡した。
「……カケル=ジュミョウ、と……え!? 何これ!? え、ええと、こちらの紙に引き出し金額をご記入願えますか?」
……急に態度が変わる職員の女性。俺の貯金額を見て驚いたのだろうか?
「とりあえず20万セラで」
「……とりあえず……はい、はい……では少々お待ちください」
「よろしく」
裏へ行く職員女性。それを見ながらルルカが俺に聞いてくる。
「何で急に態度が変わったんだろ? ……いくら入っているか聞いてもいい?」
「喋るなよ? ……ごにょごにょ……」
「マジで!?」
「お前も聞いてたのかよ!?」
レヴナントが大声を上げて驚いていた。
「お前は大盗賊なんだからこれくらいはあるだろ?」
「それはそうだけど、仲間達とか色々諸経費がいるんだよ? 蓄えはそれなりにあるけど個人でそれだけ持っているのは珍しいかな。かなりレベルの高い冒険者でも難しいよ」
そうなのか……遺産とか色々含めたものだから自力で稼いだわけじゃないけどな。そんな話をしていると、職員女性が戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちら20万セラになります」
「お、サンキュー……うん、確かにあるな。それで聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「は、はい! わ、私の名前は、イザベラ! 20歳、彼氏はいません!」
「聞いてない!?」
「あ、そ、そうですか……この後お食事でも……?」
そこでルルカがぷんすかしながら職員、イザベルに詰め寄った。
「ちょっと! この人はボクの旦那なんですけど? 言い寄らないでくれませんか?」
「……チッ、コブつきか……なんて羨ましい……! はいはい、分かりましたよ。で、何を聞きたいのかしら?」
開き直ったイザベルが髪をかきあげながら面倒くさそうに口を開く。こっちが素のようだな。ともあれ、俺は情報を聞きだす。
「まず一つ目だが、なんでこのユニオンはこんなに寂れてるんだ……? それともう一つ、メリーヌという女性がこの町に来たはずなんだ。心当たりはないか?」
俺の話を聞いたイザベラはカウンターから出て、テーブルを拭いた後、俺達に座れと指で示してきたので腰掛ける。
「話が長くなりそうなのか?」
「そうね……とりあえず、出前頼んでもいいかしら? お昼過ぎたし」
ガクっと俺達が崩れていると、少し離れたところに居たティリアとリファもずっこけていた。
「情報料代わりよ、改めて自己紹介するわね。私はイザベラ=ドルチェ。アウグゼスト支店のユニオンマスターよ」
この人が……!?
俺達が驚愕していると、メニューを取り出しメモをしていく。
「あなた達も食べない?」
「……いただこう」
少し遅めの昼飯になった。
◆ ◇ ◆
「ふぉれで、一つ目のふぉとふぁら……」
「飲み込んでから喋れ」
サンドイッチとパスタ、それと紅茶にソーセージサラダをもりもり食べるイザベラ。顔はかなり美人の部類に入るが残念と言わざるを得ない。
「……ごくん。ふう、ごちそうさま。久しぶりに美味しい物を食べたわ」
「それはこの荒れ果てたユニオンと関係があるのか?」
「そうね。まず一つ目のことだけど、ここのところ冒険者が来ないのよね。給料はきちんとでるけど、プラスアルファはどうしても魔物の討伐頭数とかも関係してくるから、退治してくれる人がいないとねえ……」
なるほど、そういうのもあるのか。
「で、何で冒険者が来なくなったか分かるのかい?」
レヴナントが俺も聞きたかったことを聞いてくれる。イザベラは最後のプチトマトを口に入れてから肩を竦めて答える。
「さっぱりよ。これじゃやっていけないって職員も逃げちゃうし、最悪よ! それで二つ目の件だけど、一つ目の件にも関わってくるわ」
「メリーヌ師匠が、ユニオンに何かしたのか?」
「そうじゃないわ。そのメリーヌって言う女の人、依頼を受けてくれたのよ」
「依頼を? 彼女はデヴァイン教へ行くと言っていたけど……」
レヴナントが訝しげに口を開く。
「ここから西にある村から依頼が出たの。一週間くらい前かしら? その時、ちょうどデヴァイン教について情報が欲しいときていたメリーヌさんがそれを受けたの」
「あれ? 師匠は冒険者じゃなかったはずだけど……」
「一緒に登録もしたわ。かなりの実力者だったから問題ないと踏んでいたんだけど、まだ戻って来ないの……折角ボーナスになると思ったのに……!」
ぐぬぬ……と、拳を握るイザベラは捨ておき、俺はルルカとレヴナント、そしてクロウへと話しかける。
「すまない、俺は師匠を探しに村へ行こうと思うんだ。アレだったら宿で待ってくれていてもいい。お金は置いていくし……」
「ううん、ボクは一緒に行くよ。カケルさんのお師匠さんがまだ戻って来ないとなると、結構面倒ごとかもしれないしね」
「私はメリーヌ女史を探しにきたという目的もあるから異存はないよ」
「村のことなら僕も行こう。ちなみにどういった依頼だったんだ?」
クロウが聞くと、イザベラは答えた。
「ただの魔物退治だったわよ。結構村に被害が出ているとかで、早急に処置が必要だって村長さん自らが来たくらいだもの」
となると師匠は足止めを食らっているのか? あの人が普通の魔物程度で押し負けるとは思えないけど……。
「分かった、ありがとう。クロウ、村まではどれくらいかかる?」
「歩いても日が暮れる前には着くよ」
「よし、なら早速行こう。帰ってきたらまた寄らせてもらうよ」
「あ、あ! ま、また奢ってくださいね! 何でもしますから! 良かったらその子を捨てて私と……痛っ!?」
「……三度目はないよ?」
「あ、はい」
ルルカが女の子がしてはいけない顔で脅していた。
とにかく無事でいてくれよ師匠?
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