俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第百十二話 ナルレアと新スキル



 「酷い目に合いましたね……」

 ボートの上でティリアがげっそりとして呟いた。かくいう俺も疲れていたりする。

 「いやあ、あははは!」

 「何笑ってんだよ! 誰のせいだと思ってるんだ!」

 「あいた!? か弱い女性になんてことするんですか」

 「誰がだ……俺よりも強いだろうに」

 レヴナントがボートをぎこぎこと漕ぎながら口を尖らせる。

 「今はどうですかねえ……? ほら、船はあれです」

 気になることを言いながらも、遠かった船が段々と近づいてくるのが分かる。ちなみにクロウ達は先に乗り込んでいる。船に到着すると、側面に縄梯子がたらされており、そこから登るようだった。

 「……カケルさん、先にどうぞ」

 「ん? 俺は最後でいいぞ?」

 「いえ、カケルさんが先です」

 顔を赤くしたティリアに、真顔のルルカが俺に言う。その手はスカートに……あ!?

 「あ、ああ、そういうことね……悪かった」

 「カケルさんはわざとじゃないと思うからいいけど。気が付いて欲しいよね」

 ルルカの苦言を背に受け俺は甲板へと降りたつ。続けてティリアが飛んできて、リファ、ルルカ、レヴナントと続いた。

 ん? あれ?

 「……そういや何でリファとルルカがここに居るんだ……?」

 「あ、あー、追いかけまわされてたから気付かなかったなー(棒)」

 「ボクトシタコトガー」

 「よし、レヴナント、この二人は返してきてくれ」

 二人の頭を掴んでレブナントの前に差し出すと、疲れた顔でため息を吐いた。

 「嫌だよ。この距離を二往復しただけで疲れたし」

 もっともな意見だった。

 「仕方ない……アウグゼストから戻ったら戻ってもらうからな」

 「うんうん!」

 「それでこそカケルだな!」

 目をキラキラさせてルルカとリファが俺に抱きついてくる。

 「ええい、離れろ! レヴナント、ここからどれくらいで到着する?」

 「飛ばして三日ってところだね。それ以上は流石に無理だから、みんなゆっくりしていってよ。ロビーや娯楽室、食堂なんかも完備しているから好きに使ってくれ。食堂はコックがお金を払えば出してくれるよ!」

 「ちゃっかりしてるな……僕達はそれほど持ち合わせがないから我慢かな」

 「あら、そうなんだ? ツケといてもいいけどね。カケルさんに。それじゃ部屋へ案内しよう」

 「俺かよ!?」

 クロウが呟き、レヴナントが首を傾げながら俺のツッコミをスルーし、歩いて行った。

 船の中は海賊船というよりも豪華客船と言った方が似合う内装をしていた。壁もしっかり装飾され、白と赤を基調としたデザインは目をみはるものがある。

 「それじゃ、男性は右の通路の部屋を好きに使って。左は女性用。寝るときにカギはかけてね!」

 「何でだ? 身内なら問題ないだろ?」

 すると下から見上げるような顔でニタリと笑い、レブナントは言う。

 「……それがですね、出るんですよ」

 「……出る?」

 リファが顔を青くしてルルカのローブを引っ張りながら尋ねると、レブナントが俯いてから顔を上げた。

 「ええ、アウグゼスト近くの海には……出るんですよ……幽霊がっ!」

 「いやああああ!?」

 「うぇへっへ! だからきちんとカギをぶへ!?」

 レヴナントの顔は目と鼻と口が無く、いわゆる「のっぺらぼう」状態だった。船内にリファの叫びとレブナントの声が響いた。

 「あいたあ……容赦ないですね……」

 「遊んでるからだ。ほら、そのマスク早く取れ。リファが腰抜かしただろう」

 「はいはい……それでは説明は終わりです。私は上にある船長室にいますので気軽に声をかけてください。カケルさんは夜這いまでならOKとします」

 どういうOKだそれはとツッコミたかったが、こいつの思うつぼになるのも嫌なので無言で部屋に向かった。

 「あ、冷たい! ……あれ、女性の皆さん。どうしてそんな怖い顔を? あ、ちょ!?」


 あああああああああ……


 「……いいのかい、放っておいて」

 「お調子者にはいい薬だろ? 俺はこの部屋でいいか」

 すぐに甲板に出られるよう、俺は一番通路に近い部屋を選ぶ。すると、クロウはその隣に決めたようだ。するとトロベルが口を開いた。

 「……気持ち悪い……あの、私、休んでます……何かあったら呼んで……うぇ……」

 どうやら船酔いのようだ。目が覚めてもこれとは不憫な男である。そして名前も知らない大男も部屋を決めたようだ。

 「せっかくだから俺は赤い扉の部屋にするかな。それじゃ、飯に行くときは呼んでくれ」

 何がせっかくなのかは分からないが、何故か一つだけあった赤い扉の部屋へと消えて行った。大丈夫だろうか……? 俺達はそれぞれの部屋に入り、一旦休憩することにした。


 ◆ ◇ ◆


 「……さて、久しぶりに一人か。ナルレア、どうだ?」

 部屋はシンプルではあるが、通常の宿と同じくらいのベッドや机が設置されていた。ルームランプは魔力で作動するタイプのもののようだ。それはともかく、俺はずっとだんまりだったナルレアに声をかけた。

 <……あまりいい状態ではありませんが、会話位ならできそうです>

 「そうか、とりあえず礼を言っておこうと思ってな。窮地を救ってくれてありがとう」

 <礼には及びません。カケル様を守ることが私の使命です。逃してしまったことのほうが申し訳ありません>

 ナルレアがいつもの軽口ではなく、申し訳なさそうに言う。

 「気にしなくていい。あんなのがいるとは思わなかったからな……それにしてもティリアの話だとかなり強かったみたいじゃないか? あれはどうしてなんだ?」

 <私はカケル様のスキルの一つ『『ナルレア』ですが、緊急時のみ、かつ、カケル様の意識が無い場合に『同調』というスキルでカケル様の身体を使うことができます>

 ……ステータスを見ると、そういえば見慣れないスキルがいくつかある。その一つに『同調』があった。

 「でもこれだけじゃ驚異的な強さの説明にはならないぞ?」

 <それは元々私が強かったからですね、えっへん>

 「嘘だろ?」

 <すいません>

 即座に謝ってきた。

 <今、この能力について話せることはないのです>

 「あれか? 俺のレベルが足りない、とかでか?」

 <その通りです。あの破壊神の化身が現れたら、できれば逃げることをおすすめします。私も一度同調するとこの体たらくなもので>

 うーむ、話せないならいくら問い詰めてもこいつは話さないに違いない。スキルのくせに人格がどんどん芽生えているのは気になるが……。

 「分かった。なら『話せる時になったら必ず話せ』よ?」

 <……かしこまりました>

 「それじゃ次だ。『還元の光』ってのは?」

 ハイヒールがいつのまにやら消えて、そんな名前のスキルがついていた。これが前に言っていたハイヒールでない、ということだろう。

 <それは『回復魔王』としての特性ですね。傷を治すというのではなく『あるべき姿へ戻す』という魔法なのです>

 「それにしちゃ俺の背中の傷は治ってなかったみたいだが……」

 <向こうの世界のことは分かりませんが、恐らく、その背中の傷があってのカケル様、ということなのでしょう。クロウの頬の傷は逆に『あれが無ければ性格が歪まなかった』という意味であるべき姿に戻ったと考えられます。この条件については私も計りかねます>

 ……確かに俺があのまま母親と姉ちゃんと幸せに暮らすことができていたら、バイトはまた別のものだったかもしれないし、この世界に来ることは無かったかもしれない。そう思えばナルレアの言うことは分かる気がする。

 <レベルが上がればもっと大きなものを修復できるようになるかもしれませんね>

 「そこは未知数って訳か。ま、化け物相手には少しくらいこういう能力があってもいいだろ」

 <……ふう……疲れました……そろそろいいでしょうか?>

 「ん? ああ、すまなかったな。試したいこともできたし、ゆっくり休んでくれ。お前の力は必要だしな」

 <はい♪ それでは……>


 そう言ってナルレアはまた沈黙することになった。

 
 回復の魔王としての力、か。適当に付けられたわけじゃなく、アウロラは狙って俺にこれを付与したのだろうか?
 それで封印を解いて回るよう神託を……?

 いや、それだと破壊神の化身を止められなかった時のリスクが大きすぎる……。

 やっぱり聖女とやらの話を聞いてからだな……ふあ……。

 三日も船旅をするとなると途端に気が緩んできた。緊張の連続で満足に眠れてないし……少し寝るか……。


 ぐう……。









 むくり……


 <……早くレベルを……あなたの力はこんなものでは……準備を……>
  

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