俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第五十話 危機一髪


 ――『譲滅の秘宝』――

 相手の魂を消滅させ、自分の魂を移して身体を乗っ取る……らしい。

 原理はどういったものかさっぱりだが、恐らく死体には乗り移れないのだろう。それで生きたまま誘拐してくるよう命じたに違いない。

 そこで気付いたのがソシアさんの寿命だ。

 パーティの前日で乗り移るつもりだったのだろう、だから寿命がパーティのギリギリが命日となっていたのだ。

 
 「(何て恐ろしいことを……わたくしが倒してさしあげますわ!)」

 「(待て、もう少し情報が欲しい。こらえてくれ)」

 まだ何か喋ってくれるかもしれないと思い、飛び出そうとしたレムルを慌てて止める。手に触れた柔らかいふくらみはラッキーだったと思っておこう。耳を澄ますと、婆さんと怪盗……もとい盗賊は話を続けていた。


 「でもなんだってそんな手間がかかることを?」

 「儂の目的は復讐……それも生半可なものでは気が済まぬ。この娘には悪いが、儂はこの娘に成り代わりレリクスと結婚をして王妃となったあと……ジャネイラを殺すつもりじゃ。無論その後、儂もタダでは済むまいが、あやつを殺せればそれでいい……」

 「ふーん、苦労しているんだねぇ」

 かなり重い話に大盗賊とやらが軽いノリで応えるが、婆さんは特に気にした様子もなく、むしろそうだろうという感じで冷静に言い放った。

 「ふん、分かってもらおうとは思わん。それより、他言するのではないぞ……」

 「お金をもらったからそんなことはしないよ。それより、貴女にその『秘宝』とやらを渡した人物……いや、人物達かな? そいつが気になるんだけど」

 その言葉、俺も同意だ。こんなことが繰り返されないよう、正体は知っておきたい所だ。

 しかし……。


 「それこそ、他言なぞできんわ。……とはいえ、儂も正体まではつかんでおらんがな……」

 「……ま、仕方ないか。美人が減るのは残念だけど、成仏しておくれよ」

 大盗賊がソシアさんに微笑みかけると、婆さんが言う。

 「問題ないわい。儂が中に入れば、見た目は同じ」

 「クク……なら中身が婆さんと結婚するレリクス王子でも見て楽しむとしようか。まあ、もう一人候補が居るみたいだから、きちんと結婚できるといいね!」

 「ふん、あやつは外面が悪いから問題なかろう。だからこそソシアを選んだのじゃから」

 「(な、なんですって!? このわたくしを蔑にするなんて……!) ツォレ、行きますわよ!」

 「承知しました……!」

 「あ!? 待て!」

 バタン!

 「な、何事じゃ!?」

 「おっと、見つかっちゃった♪」

 「さっきから聞いていればグチグチと! そんなに復讐したいなら誰にも迷惑をかけずに正面からおやりなさいな! ソシアさんは返してもらいますわ!」

 「な!? お主は悪役令嬢! どうしてここに!?」

 やべ、俺のセリフ全部取られた!?

 いや、いいんだけどさ……

 婆さんが驚いて振り向いたがフードを目深に被って表情までは伺えなかった。とりあえず、俺も部屋へと踏み込む。

 「あ、こんばんは……」

 「……それは無いだろう」

 ツォレにツッコミを入れられ、俺は咳払いを一つしてから婆さんと盗賊に向かって叫んだ。

 「ま、そういうわけでソシアさんを返してもらいに来た! パーティまでどう逃げ切るつもりだったか知らんが、ここまでだ」

 「まさか追いついてくるとはね。どうしますか?」

 特に気にした風も無く片手をあげながら婆さんに尋ねると、婆さんは魔法を放ってきた!?

 「≪レイジングエッジ≫! 報酬ははずむよ、手伝いな」

 「そう来なくちゃ♪ さて、相手は誰かなー?」

 いつ抜いたのか……気付いたらダガーを両手に持ち構えを取っていた。それに対しツォレがガントレットを装備しながら前へと出る。

 「……こいつは俺がやります。お嬢様と貴様は老婆を」

 「ああ、助かる。おい、婆さん……」

 「無論ですわ! 確かに過去の仕打ちは酷いと思います。ですが、無関係のソシアさんを殺していいはずがありません! それではジャネイラ様と同じではありませんか!」

 またも被るようにレムルが全部言ってくれた。しかし、レムルの言葉を聞いて老婆が激高する。

 「お主も婚約者じゃろう! ソシアに同じことをされればお前も同じことをするはずじゃ! ≪真空の刃≫!」

 「≪氷鏡≫! ……くっ……わたくしは……わたくしならそうならないように何とかしますわ! 貴女がきちんと戦っていればこんなことにはならなかったかもしれないのに……!」

 「小娘が! ソシアの前にお前から殺してくれる……!」

 ……婆さんがこれだけレムルに対して怒るのは婚約者、という肩書きにトラウマがあるのかもしれないな……。レムルと婆さんが広くない部屋で魔法を打ち合う中、俺はそれを掻い潜って槍を婆さんに突きだした。

 「レムルの言うとおり、同情はするが他の方法を考えるべきだったな。返してもらうぞ!」

 「小僧が……! 邪魔をするでない! ≪ヒートタッチ≫!」

 「槍が熱く……!? チッ!」

 婆さんが俺の槍を回避しつつ引き戻す前に槍を握られると。一瞬で熱を持ち始めたので俺は婆さんを振りほどくため、横に槍を振った。

 「いい勘をしておるわ! ≪雷撃光≫」

 「こっちにも居ますわよ! ≪氷傷≫!」

 婆さんの雷が俺に放たれるが、それレムルが氷魔法で打ち消してくれた。

 「……なんて魔力ですの……このまま続けていたらこっちが先に倒れますわ……」

 「もう終わりかえ? 儂はまだまだいけるぞ?

 身体から溢れんばかりの魔力を放出し威嚇してくる婆さんに俺がレムルの前に立ち攻撃を仕掛ける。

 「レムル、ここぞという時だけでいい! 俺に任せろ」

 「悔しいけれど……そうさせてもらいますわ……!」

 室内なら槍での攻撃である、線の動きの方が有利。まして婆さんは武器を持っていないので魔法を使われる前に攻撃すればこちらがアドバンテージを取れるはず!

 何度となく攻撃を仕掛けると、流石に体力が少ないのかローブの端々に攻撃が当たるようになってきた。そしてついに婆さんのフードを剥がし、顔を見ることができた。

 「ハッ!? お、おのれ……! みぃたぁなぁ……!」

 「う……」

 レムルが呻いたのも無理はない、左頬は傷と呼ぶにはあまりに深く大きな斬り傷。右目は半分潰れており、頬はこけていた。金髪はくすみ、ほぼ灰色のようになっているが、上で見た肖像画の少女の面影がある。そんな気がした。

 「≪エレメンタル・エッジ≫」

 「うお!? ……ぐあ!?」

 低い声で婆さんが呟いたと同時に頭上にいくつもの短剣がふよふよと浮いていた。それが一斉に俺へと降り注いできた!

 「!? ≪冷厳の……≪封冠≫楔≫! え!? ま、魔法が出ませんわ!? 魔力はまだ……」

 「うっとおしいから封じさせてもらったわ。ロッドも持たぬお主はタダの娘にすぎん。儂を怒らせたことを後悔するがいい! ≪レイジングエッジ≫! ……む!?」

 「きゃ……!? あ、あなた……」
 
 「痛ぇ……!」

 レムルに襲いかかった光の斬撃を俺は槍で弾きながらレムルの前へ出る。残念ながら全部を叩き落とすことは叶わず、全身に斬撃を浴びることになったが、レムルは無傷なので目的は達せられた。

 HP:79/383

 出血が結構酷いせいか、HPの減りがとんでもないことになってる……!? この婆さん、マジで強い……!

 「……なぜそうまでしてソシアを助けようとする? 痛い思いをせんでも、見失ったと報告して探すフリでもしていればよいものを。たかが護衛の依頼一つくらいで……」

 「げほ……何故かだと? そんなもん友達を助けるために決まってるだろうが。ソシアさんが居なくなったらボーデンさん達も悲しむし、トレーネやエリンだって……! あんたが消えた時だって両親が悲しんだだろうに、それが分からんってことはないだろ?」

 「う、ぐ……友達など……! 裏切られてお終いじゃ! お主らにダメージを与えても諦めんようじゃな、ならば……!」

 冷や汗をかいて後ずさりつつ、婆さんは光る玉を取り出しながら、尚もベッドで眠るソシアさんへと向かった。
 

 マズイ!? 使うつもりか! くそ、自分でやってたら間に合わない! ナレ子! ステータスを変えてくれ!

 <ナレ子、とは誰のことでしょうか? わかりませんわぁ?>

 くだらない拗ね方するんじゃない! 人の命がかかってんだ!

 <それではきちんと呼んでいただきたく存じます>

 うぜぇ! スキルの一つの癖に……! なら……!

 お前の名前はナルレアだ! 口答えするレアなアシストにはぴったりだろ!

 ピコン

 <承認しました。私、ナルレアがカケル様の内なるアシスト全般を行わさせていただきます>

 今までの気だるげな声とは違い、凛とした声に変わったナルレア。何となくステータスをチラ見すると、俺の考えていたステータスへと一瞬で変わっていた。

 力:16

 速:50→60

 知:12→7

 体:22

 魔:10

 運:12→8

 俺は光の玉をソシアさんの胸に叩きつけようとしている婆さんに一気に迫る!

 <カケル様、――を>

 !? ……分かった!

 「これで何もかも終わりじゃ……! 『其の魂……』」

 「さぁせるかぁぁぁぁ!」

 ガシ!

 間一髪! ほんの数センチの所で婆さんの腕を掴むことに成功した!

 「な、何じゃと!? お主どうやって……は、離せ! 儂は……儂はぁぁぁ!」

 「ふう……ふう……あんたがその歳になるまでの境遇や辛さは俺には分からない……けど、無関係の人を殺してまでやる復讐は……許す訳にはいかない……」

 「黙れ! あの女さえいなければ! 王子と結婚せずとも子供を育てて、ただ日々を暮らしていく……そんな普通の幸せがあったはずなのに……!」

 「あんたの幸せはあんたにしかわからない……だけど、手助けならできる」

 「何……?」

 喚き散らしながら泣いていた婆さんの手をぐっと握り……俺は『魔王の慈悲』と『ハイヒール』を使った。

 「な、なんですの……? あなた……目が……!?」

 「う、お、お、おお……」

 婆さんが光りに包まれ、俺も目が開けていられなくなる。ゴトリと、婆さんが光の玉を取り落とした音が聞こえ、やがて光がおさまった。

 「ど、どういうことですの……! お婆さんが……」

 「な、なんじゃ!? おい、レムルとやら! わ、儂はどうなってしまったのじゃ!?」

 「成功、だな」

 慌てふためく婆さんの手は離さず、俺は口に出しながらもナルレアに問いかけるように呟いた。

 <はい。『魔王の慈悲』でカケル様の寿命を老婆に与えたことで、年老いた時間を相殺し、傷つけられる前の年齢まで若返りました>

 「あんたがいくつか知らないが、その姿ならまた恋人でもできるだろうさ」

 「何……!? あ……そ、そんな……」

 婆さんが俺の手を振りほどき、壁にかけられていた鏡を見て呆然としていた。鏡に映るその姿は、肖像画そのものだった。ハイヒールで傷も消しておいたから当時のままだろう。

 寿命:99,999,887年→99,999,824

 63年引かれたか、今の婆さんが18なら81歳ってとこか……何となくほっとしたところで俺は膝をついた。

 「痛ぅ……」

 「ちょっと!? わたくしを庇った傷を治していないんですの!? し、止血を」

 おお、痛いと思ったらそうだ、自分にヒールをかけていなかった。

 「大丈夫だ≪ハイヒール≫」

 「う、嘘……」

 アンリエッタと同じリアクションだな、と苦笑しながら、俺は完全に回復する。そういえば盗賊はどうなったかとツォレの方を向くと……。


 「……ぐあ……!?」

 「ツォレ!?」
 
 ズタボロにされたツォレがこちらへ投げ飛ばされてきた。体は切り傷だらけで血がにじんでいる。盗賊は先程までの冗談みたいな喋り方ではなく、真面目な調子で呟いた。

 「若返った……のか? そんな魔法やスキルは聞いたことがないぞ。君は一体何なんだ……?」

 「ただの冒険者レベル6だ。大丈夫か? ≪ハイヒール≫」

 「……!? あ、ああ……助かった」

 「衣服まで回復した……!? ふ、ふふ……面白いね君は! メリーヌさんが居なければこの人数相手はきつい、か。報酬はいただいたし、ここらでおさらばさせてもらうよ」

 「逃がすとでも?」

 「逃げるさ……お宝もあるし、ね」

 そういって足元に転がっていた光の玉を拾った。しまった……あんなところに転がっていたとは……! だが、俺の『速』も60はあるし、扉は一つ。逃げられはしないはず。

 だが……

 「足に自信があるみたいだけど、これでも大盗賊と呼ばれているんだ。君ではまだ、追いつけないよ」

 「試してみるか?」

 「いや、もう遅いよ」

 「何!?」

 直後、視界から盗賊の姿が消えた。見失ったとかじゃない、文字通り消えた。

 「入り口を……!」

 すると、階段の上から盗賊の声が聞こえてきた。もうそんなところに!?

 「『譲滅の秘宝』とやらはいただいていくよ。なに、悪いようにはしないさ♪ ……また会おう」

 俺は階段を一気に登ると、割れた窓があることに気づき、外を見るが姿はなかった。

 その時、別の部屋でガラスが割れる音がした。

 「……やられた!」

 恐らく、俺が階段を上った時にはまだ近くにいたに違いない。だが、この部屋の窓ガラスを割ることで注意をそっちに向けたのだ。

 遅れて追いかけてきたレムルが俺に話しかけてきた。

 「……お婆さん……いえ、メリーヌがあなたにお話ししたいそうです」

 「……分かった」

 追いかけてもあの盗賊は捕まえられないだろう、それよりもソシアさんを連れて帰らねば。

 俺は一度だけ振り返った後、再び階段を降りていくのだった。 

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