俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第四十五話 ひとまずの決着

 「ソシア~」

 レリクスとの会話を終わらせて生徒達の喧噪の中ソシアさんの所へ歩いていく。

 少しよそよそしくなったけど、グランツもエリンもそこは割り切ってくれたようで話ができないという事は無かった。そこで、とりあえず屋敷に戻るまで狂言誘拐の件は黙っておくことにしようと口裏を合わせた。

 そして今、エリンが声をかけるとビクッと身を震わせて驚いた様にこちらを振り向いた。

 「あ……エ、エリン! お話はもう終わり?」

 「あ、うん。ごめんなさい、驚かせちゃった?」

 エリンが申し訳なさそうにソシアさんへ言うと、その後ろに居た女生徒がそそくさとその場を立ち去って行った。

 「……では……これで」

 「……え、ええ……」

 「?」

 今のが誘拐の実行犯役か。とりあえず顔は覚えておこう。可愛かったし。そして、ソシアさんの様子がおかしいことに気づき俺は声をかけた。

 「ソシアさん、顔色が悪いけどどうしたんだ?」

 「え!? そ、そう、かしら? 今日は暑いからかしらね……」

 「そう?」

 「そ、そうよ! それよりもついにレムルさんとの戦いよ! 恐らく最初に出てくるはず……だから私が最初に出るわ」

 少し青い顔をしながら、大声をあげてずんずんと前へと進む。明らかに空元気なのだが、とりあえずついていくしかないのでそのまま壇上へと向かった。

 しかし、この後どうするかだな。レリクスに異世界人とばれているのは面白くない。けど、依頼を放棄するわけにはいかないし……。

 どん!

 「きゃ!? ちょっとあなた、ちゃんと起きているんですの!」

 そんなことを考えていると、いつの間にやらレムルが目の前にいて、どうやらぶつかったらしい。

 「おっと、悪い悪い。ほら」

 と、手を貸すとレムルが顔を耳元に近づけてきて耳打ちしてきた。

 「……っ! ん……まったく仕方のない人ですわね……(襲撃の件はツォレに辺りを調べさせましたが手がかりは無しでしたわ)」

 「(お!? そういや忘れてたな! ……すまない、助かる)」

 「(忘れてた!? あなたという人は……!!)」

 「カケル、近い」

 「お、おお……」

 「あ、あら……」

 トレーネに引きはがされて、元の位置に戻る。何気に向こう側のクラスまで歩いてしまっていたようだ。ネーレ先生が順番を聞いてくるが、お互いすでにここに来る前に決めていたようだ。

 ちなみにソシアさん、グランツ、トレーネ、エリン、俺の順番だが……。


 「こちらのオーダーは決まっておりますわ」

 「こっちも大丈夫です」

 「では~、先鋒前へ~!」

 ザッ……

 ソシアさんが、レムルが前へ出て火花を散らす中、ネーレ先生の間延びした声が決戦の火ぶたを切って落とした!

 「はじ……くしゅん!」

 
 「≪光刺≫!」

 「≪氷鏡≫」

 くっ……ネーレ先生に対するツッコミは無いまま戦闘が開始された! ほぼ同時に魔法が繰り出された。ソシアさんはお得意の光刺、レムルは氷の鏡を目の間に展開した。

 カカカカカ

 「弾かれる……!」

 「オーッホッホ! 光魔法であれば弾くのは容易ですわ。≪氷傷≫!」

 「≪輝きの盾≫」

 すかさず反撃をしてきたレムルの魔法を輝きの盾で防ぐと、盾の影から光の矢を放った!

 「無駄だと……え!?」

 パン! と、小気味よい音を立てて展開していた鏡が割れ、顔のすれすれを通っていくのを見てソシアさんがニヤリと笑う。うーむ、実はソシアさんの方が悪役令嬢に向いているのでは……?

 「ならば≪冷厳の……≫ うぐ!?」

 お返しをしようと魔法を使おうとした瞬間、レムルは体に衝撃を受けて体がよろけていた。ソシアさんがロッドで直接攻撃を仕掛けたからである。

 「この距離なら避けられないでしょう! ≪光刺≫!」

 「何の……ですわぁぁぁ!」

 驚いたことによろけながらも側転しながら光刺を避けた!

 「すごい根性だわ!」

 エリンが思わず声を上げると、周りの歓声も盛り上がった。尚も攻撃を繰り返すが、レムルの氷鏡に阻まれてしまう。

 「くぅ、やはり相性が悪いわ……」

 「これも運命……相手が悪かったですわね! これで終わりですわ≪氷破刃≫」

 手に氷の剣を生成して(かっこいい)ソシアさんに斬りかかっていくレムルの狙いは肩口か。しかしヒットする瞬間、ソシアさんの口がニヤリと歪み、そして……。

 ザクッ!

 ソシアさんの左頬が大きく、深く斬り裂かれた……!

 「きゃああああ!」

 叫んだのはソシアさん……ではなく、観客の生徒だった。無理も無い、顔半分が抉れたようになっていて、出血も酷い。それもそのはず、ソシアさんは#自ら斬られにいった__・__#のだから。

 「どうして避けなかったんですの!? あのタイミングなら反撃も……」

 「静かに~! 救護班~! 急いで!」

 レムルが動揺しながらソシアさんに声をかけるが、うまく口を動かせないのだろう、言葉になっていなかった。ネーレ先生が中断させ、慌てて救護班を呼ぶ。

 「これは……私どもの回復魔法では顔に跡が残ります……そんなことになれば……」

 あの傷では確かにただのヒールでは無理だろうな。仕方ない、依頼主を助けるのは仕事の内だ。

 「俺がやろう」

 「カケル君~!? だ、ダメよ素人が……」

 「大丈夫だ≪ハイヒール≫」

 ほわっと柔らかい光がソシアさんを包むと、あっという間にソシアさんの頬の傷は全快し出血が止まった。パチっと目を覚まして頬に触れながらパチパチとまばたきをする。

 「あ、あの、私……」

 と、ソシアさんが話しかけようとしたところでレムルが抱きついてきた!

 「良かったですわぁぁぁぁぁ! 顔は命と同じくらい大事ですもの! わ、わたくしこのままだったらどうしようかと……」

 「おう、良かったな」

 「もうもう! あなたは一体何者なんですのぉぉ! でも良かったですわぁぁぁ!」

 「レムルさん……」

 しかし周りからはどよめきが……

 お、おい、何だあいつ……

 ハイヒールなんて高レベルな魔法を使えるなんて……

 そうなるよな! でもいいの! この事件が終わったら町を出るから今日は勘弁して!

 心の中で叫んでいると、トレーネがポツリと呟いた。

 「性悪、いいやつ」

 「はは、そうだな」


 「……相変わらずすごいですねカケルさんの回復魔法は……やっぱり魔王、なんですね?」

 小声で俺に話しかけてくるグランツの顔は少し高揚しているように見えた。

 「ん? ああ、そうらしい。実感は無いんだけどなあ」

 「それってこっちの世界に来たせいでですか?」

 「そんなところだけど、俺の話に興味があるのか?」

 「うん。私は聞きたい」

 「そうか、ならその件は夜にでも話そう。今は……」

 「……良かったですぅ~! そ、それではソシアさんは負傷のため負けになります~! だ、大丈夫ですか? 保健室……い、いえ病院へ行きますか?」

 「……分かりました。いえ、カケルさんの回復魔法でまったく痛くないので問題ありません」

 ……今は対抗戦を終わらせないとな。一瞬、ソシアさんが俺を暗い目でみたような……?

 「負けちゃいました! 後はお願いしますね!」

 気のせいか? 

 とりあえず今の勝負はソシアさんの負けとなるが、勝負はまだ終わってはいない。続けてグランツが前へと出ていた。

 「任せてください!」

 「わたくしはソシアさんに勝ったので満足しましたの。ですから、この勝負は棄権させていただきますわ」

 ちょっと目を赤くしたレムルがホーッホッホと、壇上を降りてグランツの勝利が確定した。Aクラスは若干ざわざわしていたけど、概ねそうなるだろうと思っていたらしく次の相手である女生徒が壇上へと上がってきていた。

 「よ、宜しくお願いします」

 「ああ!」

 グランツの相手は魔術士のようで、グランツの声にビクッと身を縮ませるような、おどおどした感じの子だった。きっとこの子も選ばれるだけあって強いに違いない。

 「グランツ油断するなよ!」

 「兄貴、負けても私がいる」

 「大丈夫だ、ここは俺一人で……!」

 「いや、そこまで無理しなくてもいいから!? ねえ! 無理しないでよ!」

 「はじめ~!」

 「うおおお!」

 エリンに驚かれながらグランツが女の子に突っ込んで行った!




 そして……


 「――勝者、グランツ君!」

 「よっし!」

 「対抗戦、優勝はBクラスになります~! おめでとうございます~!!」

 「やったぁあ!」

 「グランツ君凄い! エリンちゃん羨ましいなあ」

 「ソシア様もお疲れ様でした」

 俺達が壇上を降りると、クラスメイトが口々にグランツと、付き添っているエリンに群がっていく。

 そう、なんとグランツは残りAクラスを全員宣言通り一人で倒したのだ!

 「優勝したBクラスには食堂が一ヶ月無料の権利が与えられます~! 好きなものを食べて精進しましょうね~♪」

 「やったぜ!」

 「くそう……! 今年のチャンスが無くなった……! アテにしてたのに……!」

 ウチのクラスはご満悦で、他のクラスからは怨叉の声が聞こえてきた。グランツの活躍のおかげで庶民の財布は守られたのだった!

 しかしここで俺はあることに気付く。


 「……あれ? 俺、対抗戦で戦ってない?」

 「私も」

 おかしい……こういうのは俺が無双するものではないのか……?

 腑に落ちない何かを抱えながら、俺はボーデンさんへどう報告するかを考えていた。

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