俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第四十話 敵の狙い


 「どこへ行った……?」

 去っていった人影を追いかけて俺は校舎裏へと走る。流石に昼時なので、この辺りに生徒はおらず、遠くから喧噪が聞こえてくるだけだった。
 この先はぐるりと校舎を一周するだけだからソシアさんを狙うにしてはお粗末な動き。裏口はあるが、この混雑で紛れ込むにはチラリと見えたローブ姿は怪しい。

 「どこかに隠れたか? ……ん!? どわ!?」

 「きゃ……!?」

 結構な速度で角を曲がった所で、誰かにぶつかりお互い尻餅をついて呻いた。

 「あたた……悪い、大丈夫か? ってお前は!」

 「大丈夫ですわ……って、あ、あなたは!?」

 お互い指差して顔を見合わせて驚いた! それもそのはず、目の前に居たのは悪役令嬢のレムルだったからだ! というかこいつ今『しまった』って言ったか?

 「……よっと、ほら、立ちなよ。というかこんなところで何してるんだ? 今は昼飯だろ、ここには飯は無いぞ?」

 「わ、分かってますわよ! ……あなたこそこんなところで何を……痛っ……」

 手を取って立ち上がらせると、レムルがカクンと膝を崩したので慌てて手を引っ張って再び尻餅をつくのを阻止し、ゆっくりと座らせる。どうも足を挫いたらしい。

 「いけませんわね……この後も対抗戦はありますのに……」

 「そうだな……ちょっといいか?」

 「なんですの?」

 「≪ヒール≫」

 俺はレムルの足に手をかざしてヒールをかけると、レムルの足にふわっと光が溢れていた。

 「……ヒールが使えるんですの? 珍しくはないですが意外……」

 「うるさいよ!? 立てるか?」

 「え、ええ……」

 「それで、お前はここで何をしていたんだ?」

 「それは……」

 レムルが目を泳がせながらしどろもどろに口をもごもごさせていた所で、それは起こった!

 「危ない!?」

 「え? え?」

 ボガン!

 レムルと俺が立っていた真ん中あたりに爆発が起こる! レムルの手を引いてこっちに引き寄せ、何とか回避をすることができた。レムルはえぐれた地面をみながら叫んだ。

 「攻撃!? どういうことですの!?」

 「分からん! ……いかん、来るぞ!?」

 ボヒュ! ボヒュ!

 レムルに向かって二発。新たに炎が飛んできていた!

 「≪氷……! ダメ……間に合いませんわ!?」

 「チッ、≪炎弾≫!」

 ドッ……!

 飛んでくる炎を炎弾で相殺しながら出所を伺うと、影から手だけを出して撃ってきているようだった。レムルを狙っていたのは偶然、か?

 「そこですわね! 今度こそ! ≪氷槍≫!」
 
 ビュビュ!

 「……」

 カシャンと、壁に激突した氷の槍が砕け散ると同時に手が引っ込みふわりとローブの端をチラつかせながらタタタ……と足音が聞こえていた。

 「……! 逃がすか!」

 全力で駆け出して角を曲がるがそこにはもう、誰もいなかった。

 「曲者は!」

 「……いない……」

 「まさか……!?」

 レムルが驚くのも無理はない。俺が今見ている光景は見通しのいい裏庭のような場所で、遮蔽物は無い。如何に足が速くとも見逃すはずはないんだが、実際影も形も無かった。

 しかし何故俺を……? 目障りだと思い始めたか? 

 どちらにせよ……

 「手がかりを掴めるかと思ったんだがな……」

 「手がかり? どういうことですの? 何か曲者に心当たりがおありですの?」

 俺が考え込んでいると、レムルが頬に指を当てて首を傾げて聞いてくる。

 ……ふむ、こいつの自作自演という線も考えたが一緒に狙われていたところを見るとシロっぽい。だが、ここは少しカマをかけてみるか。

 「なあ、お前はソシアさんが誘拐未遂にあったってのは知ってるのか?」

 「? なんですのその話? ……って誘拐!? ソソソソ、ソシアさんは無事なんですの!?」

 「落ち着け、昨日も今日もいただろうが。結構前の話だし、家族以外には知らせるなと脅迫状があったらしいから知らなくて当然だ」

 この狼狽えようは嘘では無さそうだ。悪役令嬢ならこれくらいの演技はしそうだが、ここはもう少し詰めてみるかと思った矢先に、後ろから声をかけられた。

 「カケル君~? それにレムルさん~? こんなところでどうしたんですか?」

 「ネーレ先生!」

 「な、なんでもありませんわ!?」

 「ふふ、怪しいですね~逢引きのお邪魔しましたか~♪ ……ところで~物凄い音がしたので来てみたんですけど、何かありませんでしたか~?」

 なるほど、さっきの轟音を聞いて駆けつけてくれたのか。もしかしてネーレ先生の気配に感づいて逃げたのかもしれないな。

 「ええ、この前話してくれたローブの人影を見つけまして、攻撃をされたんです。しかしあえなく逃げられました……すいません」

 「ええ~!? そ、そうでしたか……それは大変です~! わたしは他の先生にも知らせてきますので、あなた達も人の多い所へ行ってください~!」

 「分かりました」

 「そうさせていただきますわ」

 では~と、緩い声を出しながら校舎へと戻って行くネーレ先生。すっかり毒気を抜かれた俺は緊張を解くと、直後に「ぐぅ~」とお腹が鳴った。

 「……戻るか」

 「そうですわね……しかし、誘拐……一体何者ですの……」

 「すまないがこのことは内密に頼む。王子の婚約者のライバルとしては広めて有利にしたいと思うだろうが……」

 「見くびらないでいただけます? わたくし、王女の座はソシアさんをキチンと討ち負かしてからでないと選ばれたくありませんの。それにあなただって、わたくしの……あ、足を治してくれたでしょう。あのままにしておけばソシアさんの勝ちは確実だったはずです」

 「ま、確かにな……ならお前を信じるよ……それと、この件で巻き込まれる可能性があるから何かあったら言ってくれ。後、何か分かったら情報を頼む」

 「わ、わかりましたわ。ちょ……ち、近いですわもう少し離れてくださらないかしら? ……とりあえず食堂へ行きましょう。流石にさっきの今で一人になるのは嫌ですわ」

 「お供はどうしたんだよ……」

 「そ、そんなのわたくしの勝手ですわ! ほら、行きますわよ! (まさかあなたを追いかけていたら見失ったと思ったらぶつかった、なんて言えるわけありませんわ! それにしてもソシアさんの知り合いにしては粗野ですが、頭の回転は早い……この男、何者ですの……?」


 ……何か見られてるな……そういやこいつが何でここにいるのか聞きそびれたな。さっきの話が裏目に出るか起死回生になるか。
 

 だけど、俺はこの時点で一つ、重要な点を見逃していた。何でもっと早く気付かなかったのか……。ここで気付けていたらあそこまで大事にはならなかったはずなのに。

 それに気づくのは対抗戦が終わってから、もう少し先の話になるのだが。


 
 ◆ ◇ ◆


 レムルと食堂へ戻ると、人だかりができており、かき分けると案の定、王子とソシアさんが居た。燃える瞳の三人は口をへの字に曲げてソシアさんの横に座っていた。冷や汗が凄い。

 「カケル!」

 「おう、俺だぞ」

 俺が軽く手を上げて挨拶をすると、トレーネが隣にいるレムルをじっと睨みつける。

 「……どうして性悪と一緒?」

 「誰が性悪ですかこの田舎娘! ははーん……この男のこと好きなんですのね? それでわたくしに盗られたと……」

 「うん、カケルは好き」

 真面目な顔でトレーネがハッキリと言い、周りが『おー……』とか『大人しい顔して凄い……!』などざわざわし始める。天然は怖い。そして俺は恥ずかしい……。

 「ぐ……は、はっきり言いますのね……こ、こんな男どこがいいのかしら」

 「好きって言うのは好きだから当然。カケルは……むぐ……」

 「お前が話すとややこしくなるから少し黙ってろ。カケルさん、何かありましたか?」

 グランツがトレーネを抑えてから俺に尋ねてくる。

 「ちょっとここでは……ソシアさん、まだ王子と話すかい?」

 「……そうですね。カケルさんはまだお昼を食べていないでしょう? 食べてきてください。その後お話を聞きますね」

 ソシアさんがそう言うと、レリクス王子がウインクしながら俺に話しかけてきた。

 「ということだよYOU。 少し借りるよ? そうだ、レムル嬢も一緒にどうだい? 僕の花嫁候補なんだ、遠慮はいらないよ」

 「それはいいお考えですわぁ♪ ご一緒させていただきますわね! ソ・シ・アさん?」

 「……ほほほ、勿論ですよ! (エリン達もカケルさんと一緒に行ってください。ここなら怪しい人も手出しはできないでしょうし)」

 「でも……」

 小声で護衛は必要ないということと同意のセリフをソシアさんが言うと、エリンが困った顔をする。意図は俺達だけで話してこいということだろう。

 「エリン、たまにはゆっくりしよう。あっちでデザートを食べようぜトレーネ」

 「わーい」

 「うん、わかった」

 「ソシア様がああいって下さったんだ、行こうエリン」

 全身で喜びを表現するトレーネと、友達になったソシアを心配するエリン。グランツがエリンを宥めながら進もうとする中、俺はふと王子が気になり振り向いた。すると、執事だろうか? 身なりの良い男性に耳打ちをされながら俺の方を見ていた。

 「――でした」

 「そうか、ご苦労。さあ、君達の話を聞かせておくれよ!」

 そう言いながら俺を見ながらニヤリと笑うレリクス王子。こいつも怪しいが……今は手がかりが無い。

 「行こうトレーネ」

 「うん」

 俺は一瞬だけ王子に対して目を細めた後、トレーネの手を握ってその場を後にした。

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