俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第三十六話 疑惑の学院

 
 燃える瞳の三人が無事(?)に訓練を終え、いよいよ俺の番だ。

 武器適性に困りはしないけど、得物は良く使っているので槍にした。

 そして、俺の対戦相手である……えっと、一番左の席の二番目……いや三番目だったっけ? ……ともかくそいつが大剣を肩に担いで待ち構えていた。

 「どうしてまたそんなに喧嘩腰なんだ?」

 「うるせぇ! てめぇは気に食わねぇ、それだけだ」

 チッと舌打ちをされ、俺はちょっとだけムッとする。そもそも編入してきてそれほど時間も経っていないし、恨まれる覚えも無いんだけどな。

 「なら、俺が勝ったら教えてもらおうかな」

 「勝てる気でいやがるのか……ぶっ殺してやる! ネーレ先生、早く合図を!」

 ネーレ先生にはちゃんと話しかけられるあたり不良的なやつではないらしいな。突然名前を呼ばれてビクっとした先生が慌てて手を上げて掛け声を出した。

 「そ、それでは~! 始めぇ~!」

 「くたばりゃぁぁぁ!」

 緊張感の無い声が響くと同時に前から四番目の男子生徒が一気に間合いを詰めてくる! 俺の槍もそうだが、木剣といえどそれなりの重さがある。それを担いでこのスピードならかなり鍛えているに違いない。

 「速い! やるな、一番左の席の前から二番目のやつ!」

 「俺は二番目の列の前から三番目だ! どぉぉりゃぁぁぁ!」

 そうだっけ?

 とか考えていたら、即座に大剣の間合いとなり、目の前で大きく振りかぶってくる。だがモーションが大きい、フォレストボアの突進に比べたら天と地の差。すかさず槍を足の間に差し込むと、何番目かの男子生徒が大きくよろけた! チャンス!

 「んな!? こなくそ!」

 「うお!?」

 ブォン!

 よろけながら振りおろしを横なぎに変えて攻撃を仕掛けてきたので、しゃがみこんでその攻撃を回避。柄の部分を鳩尾に叩きこむ。

 「ぐは!? やりやがったな……!」

 ドゴ!

 「痛っ!?」

 構わず振り降ろしてきやがった!? 『力』も『速』も多分俺が上回っているけど、対人はこいつの方が上だな。ジャイアントビーやフォレストボアのような魔物と違って臨機応変に動いてくる。ネギッタ村で冒険者と戦ったが、あの戦いは冒険者に一方的にやられて、その後は一方的に寿命を吸っただけなのでノーカンだろう。

 ともかくグランツ達の前でみっともない戦いもできないか。力が強くて速いが、槍の間合いで戦えば何とかなるだろう。

 「悪いな、下がらせてもらうぞ」

 「逃げんのか!?」

 「そうじゃない……ぜ!」

 ビュ! ビュビュ! ドカ!

 「ぐ……! うおお!」

 鋭い突きで肩、太ももを撃ち抜くと動きが鈍くなっていき、攻撃が精彩を欠いていく。

 「もらった……!」

 「甘い!」

 カン!

 「まだまだぁ!」

 こいつ、力は強いけどそれだけみたいだ。グランツの方が何倍も強い。俺もまだまだだけど、このくらいに勝てなくては冒険者とは言えないだろう。

 「そこだ!」

 「頭ががら空きだぞ!」

 槍を突きだしたのを見計らってから剣を振ってきたが、それは読んでいたため寸止めをしてガードに回る。そのまま剣を弾いて槍を腹へと叩きこむ!

 「ぐぼお!?」

 ゴロゴロゴロ!

 たまらず転がって悶える……何番目かの男子生徒。ちなみにステータスはいじっていない。

 「くそ……! まだだ!」

 「そこまで~!」

 剣を杖代わりにして立ち上がるが、ネーレ先生が手を上げて終了の合図を出した!

 「な!? まだ俺は戦えるぞ!?」

 「なにを言ってるの~グネン君~。そんなに足がガクガクなのに~」

 先生が近づき、ちょん、と男子生徒をつつくとコテンとあっさり倒れた。

 「うぐぐ……」

 「ほら、掴まれ。グネン、って名前なのか。覚えとくよ」

 「……チッ。女連れでチャラチャラしている割にはやるじゃねぇか」

 差出した俺の手を素直に掴んで起き上がった。

 「まあな」

 「まあな!? 謙遜とかしないのかよ!? 今度は負けないからな」

 「楽しみにしとくよ、面白かった」

 「……こっちは必死だったつーの……何なんだてめぇは……」

 俺達は壇上を降りて武器を置くと次の対戦が始まる。グネンと分かれた後、燃える瞳のメンバーとソシアさんがこちらへ向かってくるのが見えた。

 「魔法じゃなくても強いんだねー。グランツと戦ってみて欲しいかも」

 「や、やめろよエリン。勝てる訳ないだろ……さっきのグネンも決して弱くは無かった。それをあっさりと倒したカケルさんに勝てるとは思えない」

 「いや、まあいい勝負になるんじゃないか?」

 「謙遜しなくていい。カケルは兄貴より強い」

 「ですね。グネン君はクラスでも結構な腕前なんです。(すでに冒険者であるあなた達なら負けないとは思いますけど)」

 と、俺達に小声でソシアさんが笑いながら告げてくる。やはりあくまでも『学生レベル』での強さってとこなんだな。

 その後、残りのクラスメイトの戦闘訓練が終わり、ネーレ先生による講義が少し入った後、本日の実地訓練が終わった。

 「それでは~明日の対抗戦までゆっくり休んでくださいね~? クラスから五人、当日の朝選んでもらうから~自分以外の五人を選ぶのを考えておいてね~! それではお昼ごはんへ行ってらっしゃい~♪」

 『いやー疲れたわー』と素直に口にする人や『さっきの攻撃は――』というようにおさらいをしながら各々食堂や教室へと戻って行く。

 「お疲れ! 編入生のみんな強かったね! 今度魔法、教えてよね」

 「お前、接近戦も強いんだな。すごいな……」

 「む、カケルが人気者に。でもカケルは私の」

 「いや、違うからな……」

 すれ違い様にクラスメイトから労いや称えられ、ちょっと気恥ずかしくなりながらみんなと一緒に歩いていく。

 「カケルさんもトレーネには勝てませんね」

 「ははは、まさかトレーネが一番とはね」

 はは、と笑うグランツをポカポカとトレーネが叩いていた。……何だか懐かしいなこういうの。


 と、和やかなムードに油断していた放課後のこと……。


 「カケル君~少しいい~?」

 「はい?」

 それじゃ行こうかと移動を始めた瞬間、ネーレ先生の止められた。どうしたんだろ?

 「ちょっと教員室まで来てほしいの~ソシアさん、大丈夫かしら~?」

 「カケルだけ?」

 「うん~壁の件でね~」

 う、あの事か……帰る時に言われるとはとんだ不意打ちだ……するとソシアさんは少し考えた後にネーレ先生へと答えた。

 「はい、大丈夫ですよ! それじゃあ外で待っていますから終わったら正門の所へお願いしますね」

 「ああ。……グランツ、エリン、トレーネ頼んだぞ」

 「分かってます!」

 グランツが拳を握って言い、女の子二人は無言で頷いた。一応、ネーレ先生達にも俺達が護衛である事は伝わっているはずだけど……。

 「それじゃあ~こっちへ~」

 ネーレ先生に案内されて教員室へ赴くと、先生達が一斉にこちらを振り向いてくる。その中にはあのゴリラも居たが俺を見て冷や汗をかきながら目を露骨に逸らしていた。

 「(わざとじゃないけどいい気味だったな)」

 一人ほくそ笑んでいると、奥の個室へと通される。

 「さ、座って~ごめんなさいね~依頼の途中なのに~」

 「いえ……ということはやはり知っているんですね?」

 「ええ~。ソシアさんが行方不明になった件は休み明けにソシアさんのお父様から聞きました~」

 「そうですか。では、あまり離れるのも良くないので手短に……あ、お金はありませんよ?」

 すると可笑しそうに笑いながらネーレ先生が口を開く。

 「壁の話は大丈夫ですよ~。授業中や訓練中に壊れたものは学院側が補修しますので~。話は別にあって、例のソシアさんの話です~」

 「そうでしたか。でも、何故本人は呼ばなかったんです? グランツ達も聞くべきだったお思いますけど?」

 「……恐らくあのメンバーの中ではあなたが一番強いので~、あなただけに話しておきたかったんです~。ごく一部からの報告ですが、ここの所、学院の周りで不審な人物が目撃されるようになりました~。知っての通り、この学院の周りは林になっていますよね~? その木々の間から黒いローブに白のフードを被っている人影が学院の方をじっと見ているそうなんです~」

 ……怪しい人影、か。そろそろパーティも近づいてきているし、何かしら動きがあってもおかしくは無いと思ったけどこうあからさまだと逆に胡散臭いな。

 「それを俺だけに話したのは?」

 「……あまり言いたくはないんですが~全員に話すと警戒をし過ぎると思うんです~。尻尾を出させるためにはあえてそういった話題を伝えないということです~。カケル君なら、ある程度の対処はできそうですし、話しておこうと思ったんです~」

 一応、理には適っている。が、ここは話半分に聞いておくのがいいかもしれない。警戒するに越したことはないけど、ネーレ先生が黒幕である、という可能性だってあるのだから。

 「分かりました。他には?」

 「これだけです~。わたしたちがずっと見張っている訳にもいきませんし、警護を強化して相手が強行策をとってくる可能性もありますし、他の生徒が巻き込まれる可能性もあります~。領主様の娘ではありますが、他の生徒も平等に扱わねばなりませんから~協力をお願いしますね~」

 「了解です。また何か情報があれば教えてください」

 「うん~! それじゃソシアさんを送ってあげて~」

 と、椅子に座ったままネーレ先生はニコニコと手を振りながら見送ってくれた。教員室を出て俺は正門に向かっていると……。

 キャー!

 悲鳴が聞こえた!

 今のは……ソシアさんの声だ!

 俺は『速』を上げて一気に走る! すぐに学院から外に出て、正門の近くまで駆け抜けると、正門近くに止まっていた馬車の近くでもうもうと白い煙が上がっていて、ちらほらと人影が見えた。

 「襲撃!? 無事かみんな!」

 すると、グランツの声が聞こえてきた。

 「カケルさん! こっちで……ぐあ!?」

 「目が痛いよ……!」

 俺が叫び、グランツが呻き声をあげた途端、タタタ……と煙の中で、何者かが正門の向こうへ走り去る姿が見えた。

 「待て!」

 俺は追いかけるが、相手の足も速く距離も離れていたので中々追いつけない。これ以上はソシアさんの傍から離れることになるので正門を少し抜けた所で諦めることにする。

 その時、後ろで気配がして俺は振り向く……。

 スッ……

 今、誰か正門の影に……? 

 見えた金髪……訓練の時に会った王子じゃなかったか……? 王子だったら婚約者候補を見捨てるわけが……見間違いか?

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