俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

第二十四話 袖擦り合いすぎて擦り切れる


 「フォレストボア丼、まだある?」

 「はいはい、まだ出来ますよ。カケルちゃん、ボア丼一つね!」

 「あいよー少しだけ待っててくれ!」

 俺は親子鍋(取っ手が上に向いたアレだ)にダシとタマネギを入れ、ふつふつと沸騰するまで待つ。タマネギが柔らかくなったところで、こんがりきつね色に揚がったフォレストボアのカツ、ボアカツを投入! そしてすかさず溶き卵を入れ蓋をする……。

 「よし、おばちゃんご飯を頼む!」

 「ライスだね、はいよ」

 おばちゃんにどんぶりをもらい、卵とじボアカツをご飯に乗せて完了だ。

 「お待ち!」

 「おー、美味そうだ、噂通りか!」

 おっちゃん冒険者がほくほく顔でスープとボア丼を持って席へ行った。しかし、今はお昼時、これで終わりではない……!

 「カケルちゃん、今度はボアカツ定食を頼むよ! 後、ホワイトロブスターの香草蒸しもだね」

 「はいはい、すぐ取り掛かりますよっと!」

 ほらきた、もう慣れたもんだ。

 「お、カケル精が出るな! お前の作ったボア丼とボアカツ、それとホワイトロブスターは今日も売り切れだな! はっはっは! その調子で今後も頼むぞ」

 「当たり前だろ! 任せとけって! ……じゃねぇえええ!? 俺は冒険者であって料理人じゃないぞ!! あんたが無理矢理厨房に立たせたんだろうが!?」
 

 ――と、冒頭から激高する俺だが、何気にトーベンさんとの会話から三日が経過していた。何故俺がこんな事をしているかというと――

 ◆ ◇ ◆

 次の日、俺は時間通りに厨房へと赴き、材料と調理器具を用意してもらった。トーベンさんから話を聞くと、この世界がそうなのか、それともこの町だからかなのかは分からないが、食材の調理法が偏っていて、7割方『焼く』ことが多く、次いで『揚げる』でバリエーションが変わる程度のようだ。後は生で食す感じだな。
 
 最初に俺が食べたボアの卵とじはカツにつけた衣が小麦粉で、卵のつなぎもないので身がガチガチで素揚げと殆ど変らなかった。それでも味付けはまずまずだったからマズイということはなかったけど、かつ丼に比べればギリ及第点というレベルだった。それを知ってもらうために作ろうと思ったのだが……。


 「……うーん」

 「どうした?」

 「いや、かつ丼を作るなら鍋が欲しいと思ったけど、流石に無いかと」

 「鍋ならそこにあるじゃないか?」

 「ああ、もっと小さくて底が浅いヤツなんだよ、ある意味専用の鍋なんだが……まあできなくはないからいいけど」

 「専用……何か心を動かされるな。なら作ってもらうか?」

 俺が諦めていると、トーベンさんはあっさりととんでもない事を口にする。

 「マジか……すぐできるのか?」

 「行けば分かる」


 ニヤッと笑うトーベンさんに着いて行き、山に近い町はずれへと足を運んだ。山小屋のような家屋に、もくもくと煙突から煙が吹き出していた。
 
 「鍛冶屋、か?」

 「ああ……いるかー」

 ノックも無しにドアを開けると目の前に工房が広がっていた。熱気がぶわっと外に抜けていくのが分かる。すると奥から気だるげな白髪の爺さんが出てきた。

 「なんじゃ、お主か。客かと思ったのにがっかりじゃわい……」

 「何だとはご挨拶だな、今日はちゃんと客としてきたぞ。こいつが鍋を作って欲しいらしい」

 そう言うと、トーベンさんが俺の背中を押して前へ出す。爺さんと目が合うと、俺は愛想笑いをしながら自己紹介をする。

 「へへ……俺はカケル。ちょっと調理器具を作って欲しいんだけど、できるかな?」

 すると爺さんがクワっ! 目を見開き俺の胸ぐらを掴んで怒鳴ってきた。

 「できるか? じゃと! 出来るに決まっておろう! だいたいの形と使い方を言ってくれりゃあええ。それで、金は持っておるんじゃろうな」

 「費用は俺もちだ。面白い料理を作ってくれるらしいんだが、その為には鍋が必要らしい。カケル、卵とじ以外の料理も見たいから、必要なら作ってもらえ」

 いいのか……? なら蒸し器も作ってもらうか?

 「ほほう、ケチなお主がそんな事を言うとは。ちょっと興味が湧いたぞい」

 「俺は無駄遣いが嫌いなだけだ! ほら、さっさとオーダーしろ」

 「あ、ああ……えっと、大きさはこれくらいで深さはこんなもんで、取っ手を垂直に近い感じで長くしてくれると助かる。で、もう一つ。中くらいの鍋に穴が開いた中蓋が底につかないように隙間ができるように乗せる感じのを作ってくれ」

 「ふん、変わった鍋じゃな。分かったわい。試作品で一点ものじゃから、一つ2万5千セラもらうがいいかの?」

 鍋一つ2万5千セラ……向こうの世界でも高級鍋は高いので、有り得なくないが少しお高めな印象を受けた。

 「安いな……がめつい爺さんにしちゃ安い」

 「さっきのお返しかの? その代わり、ワシにも完成した料理を食べさせてもらうわい」

 これで安いのか……腕利きの職人さんって感じか? 俺は食べさせることを約束し、早速とりかかってもらう。途中、俺がへたくそながら図を書いて、爺さんがイメージを固めるとその後は早かった。そのまま工房でトーベンさんと話ながら待っていると、爺さんが鍋を抱えて戻ってきた。

 「できたぞい」

 「早いな!?」

 「武器を作るより簡単じゃからな! さ、ユニオンへ行くぞい。おお、そういやまだ名乗っていなかったな、ワシはハイスじゃ、よろしくな」


 ――そしてユニオンへ戻った俺は完成した鍋を使ってボア丼を作った。焼かれて出ていたホワイトロブスターも香草と一緒に蒸し器に入れる事によって身がふんわりとした上品な味に変わり、試食した全員に絶賛の声をもらうことになる。

 「これは美味いな!」

 「ロブスター、焼き加減が難しかったけど蒸すのは楽でいいね、この鍋……家に欲しいわね」

 「おいカケル、もう一杯くれ!」

 俺流のかつ丼だが、この世界の人間の口にも合ったのは僥倖だった。特にハイス爺さんの食いつきは凄かった。

 それと調味料もそのまま向こうの世界のものっぽいものがあったのも大きい。
 醤油に似たセイユと、味噌に似たベイラ、そしてコショウも一般的に流通しているらしいので、概ね食生活に不満が出る事は無さそうだった。
 レパートリーが無いなら作ればいい、そう思いながら俺もボア丼を食す。すると、トーベンさんが俺に声をかけてきた。

 「カケル、こいつは本当にうまい! それに比べれば俺達が作ったフォレストボアの卵とじは子供だましみたいなもんだ。……で、相談なんだが、この料理、ユニオンの……いや、この町の名物として大々的に広めていいか? お前はどこかで食べたことがあると言っていたが、これはお前のオリジナル料理だろう?」

 「え?」

 と、真剣な顔でトーベンさんが俺に言った。

 別に俺が考えた料理って訳ではないが、と思ったけど、全員が見たことない料理だと騒いでいる所をみると他には無いのだろう。

 「う、うーん……あまり目立ちたくないんだけど、料理自体は多分誰でもできるから、名物にしても構わんと思うけどいいのか……?」

 「そうか! なら早速大々的に売り出すぞ! そうだな、今日の晩飯時に提供しよう。カケルはみんなに作り方を伝授してやってくれ! 忙しくなるぞぉ!」

 「あ、ちょ!?」

 活き活きとした表情で、トーベンさんがどこかへ行ってしまう。マジか!? 俺が教えるの!?

 「失敗作はワシが食ってやるから」

 ポンと、何故か優しげな表情で俺の肩を叩きサムズアップをするじじい。殴りたい。

 で、結局夜までにおばちゃん以下数名の調理師が挑戦し、それなりのものが出来るようになったが俺と同じレベルとなると難しい。しかし、トーベンさんのアホがのぼりや張り紙で宣伝しまくったおかげで広まってしまった……正式にフォレストボア丼、通称ボア丼に決定したのもこの時だった。
 その日は仕方ないので俺が作っていたのだが、ずるずると三日間俺が厨房に入り、長くなったがここでようやく冒頭の話に繋がるというわけだ。


 ◆ ◇ ◆


 「もう大丈夫だろ? カイラおばちゃん達もかなり美味しくできるようになったしな。俺も冒険者稼業をしたいし……」

 「ああ、冒険者だっけ……」

 「そうだよ!? 槍とか持ってるだろ!」

 「その理論はだいぶ雑だが、分かった。で、カケルはジョブを持ってるのか? 槍なら槍術士から竜戦士、竜騎士を目指している感じに見えるけど。レベルは?」

 あるのか竜騎士。胸躍るが、俺はその前に必要な事があると告げようと口を開く。

 「レベルは5だな。槍は依頼で必要だったから選んだだけで、何でも良かったんだ。スキルに『全武器適性』があるから……」

 と、俺がぽろっと言ったところでトーベンさんが目を細める。あ、全武器適性も結構マズイのかもしかして!?

 「……そうか。明日から厨房はいい、二階に養成所があるから朝はそこに来い。あ、今日の夜までは厨房頼むな!」

 スキルに食いつくことも無く、トーベンさんは厨房を出て行った。

 「なんじゃ? 怖い顔をしおって。もぐもぐ」

 「……よく食うね爺さん……」
 
 まあこれで俺は厨房業務から解放されたので、魔法やジョブを手に入れる方向へシフトできる。

 そう思っていたんだが……。


 「ようやく終了か」

 「カケルちゃんも今日までか、よく働くから良かったんだけどねえ」

 「はは、そう言ってくれると嬉しいけどな。俺にもやる事があってね」

 注文はすでに終了し、後は食べている人だけなのでテーブルやイスを拭きながら俺とカイラおばちゃんは片づけをしていた。
 すると、三人組の冒険者がこちらへ向かってくるのが見えた。

 ……んー、どっかでみたような……俺が顎に手を当てて考えていると、男が俺に気付き慌てて駆け寄ってきた。


 「黒目に黒髪……! 見つけた! あなたが俺達を助けてくれた治癒魔法使い様ですね!」

 ……あ!? 思い出した! こいつあの時大怪我をしていたヤツじゃないか!?

 「命の恩人、見つけた?」

 「三日間探した甲斐があったわね!」

 「俺はグランツと言います。是非あなたにお礼をと思い探しておりました!」

 あ、これは面倒な事になりそうだ……俺は心底嫌そうな顔をしながらグランツとやらに言った。

 「お引き取り下さい」

 「お引き取り下さい!?」

 ユニオンに悲鳴にも似た叫び声が響き渡った。

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