プリンセスセレクションー異世界からやってきたお姫様は王様を目指す

笑顔

63話 ファンファーレ

 俺たちは先ほどまであれほど人が溢れかえっていた会場まで戻ってきていた。
 家路についてすっかり人のいなくなって静まり帰ったステージに一人の少女が立っていた。
 全力を出し切ったと言わんばかりの清々しい表情でその場に立っていた。


「アリスちゃんなんかいつもと雰囲気変わりましたか?」


「え?そうか?」


 別にいつもの四葉だと思うんだが。


「正念場を乗り越えて一皮向けたようね?纏ってるオーラが全然違うわ」


「ですよね!ですよね!前にも増してキラキラしてる感じしますもん!」


「ふっ、それが分かるなんてどうやら人を見る目だけはあるようね。それに比べてあんたの連れはダメダメね?きっと女の子が髪型を変えても気がつかないタイプよ」


 アリスがじと目でこちらを見咎めてくる。


「そんなことないと思いますよ?だってムクロさんは無神経って訳じゃなくて、大雑把というか良い意味で細かいこと気にしない人なんだと思います」


「ーーフォローありがとよ。いい加減泣くぞこら」


 歯に衣を着せない言葉に俺のライフポイントはもうゼロだ。


「くすっ、神無さん達は相変わらず仲いいですね? それにアリスちゃんがこんなに男の人と仲良く話をしているのは初めて見ました」


「は、はあ!? い、一体何を言ってるのかしら?これのどこが仲良く見えるって言うのよ!」


「そうだそうだ!これは仲がいいんじゃねえ、歪みあってんだ!」


「やっぱり息あってると思いますよ?」


 俺とアリスが否定し合うのを見て、四葉はコロコロと笑う。
 そして、空気が明るくなったところで不思議と沈黙を保つヘカテアと向き合った。


「ヘカテアさんも来てくれてたんですね?」


「ま、約束したしね。君がアリスちゃんの隣に立つ資格があるか見定めるって」


「ーー結果はどうでしたか?」


 四葉の問いかけに、ヘカテアは一拍の間を置いてから答える。


「まだまだじゃないかな☆ぶっちゃけアリスちゃんの足元にも及ばない感じ?」


「あうぅ、そう、ですよね」


 ヘカテアの正直過ぎる感想に、しかし四葉は取り乱すことなく耳を傾けていた。


「ま、でも頑張り続ければ可能性くらいは……あるかもだよね」


「ほ、本当ですか!?」


「ちょ、ちょっとだけだよ☆ ほんのちょっとだけだからね?」


 まるでアリスのようなツンデレを発揮しながら、ヘカテアは嬉しそうに詰め寄ってきた四葉にたじたじとなっていた。


「ヘカテアの奴もすっかり丸くなったな」


「それだけ四葉ちゃんとアリスちゃんが頑張ったんですよ、そうじゃなきゃあんな風に仲直りできないですもん」


 意地を張ってお互いに譲らなければ戦いが終わることもなかった。
 双方の歩み寄りが実を結んだ結果として……今があるのだ。


「さぁて、四葉ちゃんを認めちゃった以上はもう還らなきゃだねー☆」


 ヘカテアはそういって、穏やかに微笑む。
 還るというのは試練からの離脱を意味しているのはここにいる全員が分かっている。


「ヘカテアさんは残らないんですか?」


 ナニィは率直な疑問をヘカテアにぶつけた。
 アリスとの間にあった問題が解決された今、ヘカテアがこのまま残るという選択肢もあったはずだが、ヘカテアはそれを選ばなかった。


「うん、メルちゃんに怒られるのも嫌だしー、肝心のアリスちゃんには振られちゃったしー、色々と出直してくるよ♪ 次に会う時はアリスちゃんもメロメロになるくらい良い女になってるからね☆」


「ふんっ、まあ精々頑張んなさいよ、期待だけはしといてあげる」


「四葉ちゃんも、こんなところで満足してたらダメだかんね☆」


「はい、私……もっと頑張ります! 認めてくれたヘカテアさんに恥じないように」


 ヘカテアはアリスと四葉にそれぞれ別れの声をかける。
 後腐れがないように元の世界へ還るのが、ヘカテアなりに考えたけじめのつけ方なんだろうと思えた。


「さて、あたしのカード……持ってるのは誰かな?」


「あ、私です。ヘカテアさんが気絶した後はそのまま私が持ってます」


 ナニィが胸からカードを取り出す。
 月の刻印が施されたそのカードはヘカテアを倒した際にそのまま保持していたものだ。


「あたしを倒したんだから、簡単に負けちゃダメだぞ☆」


「はい、私にどれだけのことが出来るかは分からないけど、全力で頑張ります」


「うんうんその意気♫ その意気♪ それじゃあ――お願いね☆」


「ヘカテアさん、お元気で――えいっ!」


 可愛らしい掛け声と共にナニィの手でカードが二つに割られた。
 パキッと甲高く鳴ったカードが淡い光を伴いながら消滅していく。


「へぇ、こんな感じなんだ☆ 痛みとかがある訳じゃないんだね♪」


 それと同時にヘカテアからも光が漏れて存在が薄れていく。
 自分の身体が光の粒子となって消えていく様をヘカテアは笑いながら見ていた。


「これが還るってことなのか?」


「場違いな感想かもですけど、綺麗ですね」


 見目麗しい少女が光の粒となっていく姿はあまりに幻想的で、儚く。それが故に美しいと思えた。


「あ、そうそう忘れるところだった。あたしからの餞別も渡しておくね♪『汝、健やかなる夢の国へ』月が誘う夢の国オニロ・フェガーリ☆」


「うおっ、なんだ?」


 消え行くヘカテアが呪文を唱えると、俺達の姿が薄く光った。


「良い夢が見れるおまじない☆ 夜はきちんと寝るんだぞ♪」


 最後までテンションの高い軽口を叩きながら、ヘカテアは完全に光の粒となって消滅した。


『ピロリン、ピロリン』


 唐突に、人数が一人少なくなった会場にアラーム音が鳴り響く。


『おめでとうございます! 貴方は見事課題の条件をクリアしました!』


 祝福を告げるファンファーレが、試練が一段落したことを知らせていた。



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