その日、僕は初めて自分を知りました。

椎名蒼

赤紙編⑧

木村は罪悪感に蝕まれた状態で家を出た。手が震え、何も考えられなかった。ノロノロと道を学校へ向かって歩き出した。しばらく進むと向こう側に誰かが立っているのが見えた。


え?


木村は目をこしらえてその人物を見据えた。そいつは俯いていた。服がボロボロになり、そこからあらわになった体はあざだらけだった。


「永田?」


そう、そこにいたのは間違いなく永田だった。目から涙を流し、ヒクヒク泣いていた。


「木村......助けてくれ......」


「......」


「体痛い......服がボロボロだよ......こんな体じゃ家にも帰れないよ......助けてよ......」


永田が近づき、木村はおもわず後ずさった。そうだ。わかっていたことじゃないか。永田は俺を見捨てた。永田は俺との友情を捨てた。大内という怪物を目の前にして逃げた。それが、こいつは自分が危なくなったら助けを求めにノコノコやってきたのだ。


バッドで殴られ、首を絞められ罵られても僕はあいつのいじめを我慢してきた。あいつのいじめから抜け出して見せた。なのにこいつは......


さっきまでの罪悪感が嘘のように消えた。もっとこいつに苦しみを味わわせてやりたい。復習してやりたい。そんな気持ちが腹の中で....まるで炎のように爆発した。


木村は拳をつくると永田の腹に目掛けて炸裂させた。


「うぐっ......」


永田は倒れるとガハガハと咳き込んだ。木村はそれを見下した。


「ふざけんなよ......」


足を思い切り振り上げ、顔面に渾身の蹴りをめり込ませる。鼻から盛大に出血し、ピクピク少し痙攣していた。


「お前は俺を見捨てたのに......」


カバンを永田の体に向けて何度も何度も....何度も叩きつけた。


「ふざけんなよぉ!」


木村はその手を止めて永田を見た。しかし、永田は木村を見上げることはなかった。身動きを取ることもなかった。


そう、永田は死んでいた。


「あ......あはっあはははは…」


そう、その日、木村はかつて親友だった男の命を

奪ったのである。

しかし、木村はもう何とも思わなかった。木村は悲しまなかった。恐れなかった。自分を見捨てた親友を自分の手で殺せた。復讐できた。

その時の木村にとって、この上ない快感だったのだ。

「あはははははははっ!!」

薄気味悪い笑い声が早朝の住宅街に響いた。




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