碧き舞い花

御島いる

520:碧、紅、黒

 ズィーはセラを優しく立たせる。「まさか諦めてねーよな」
「……」セラは瞳に溜まった涙を拭い、感情を立て直した。むしろ彼の登場に怒りとは違う感情が昂った。「もちろん」
「『紅蓮騎士』……あの時の子どもだったか。あれだけの兵士を相手に生きてたとはな」
「ったりめーだ」ズィーは逆鱗花の葉を盛大に齧った。「……でもお前を逃がしたし、いっぱい無くした。俺が弱かったからだ」
 ズィーに向けて風が集まる。
「ガキの俺は弱かった」
 ぐっと拳を握るズィーの身体が淡く輝いた。
「でも今は違う。今は強くなったし、セラもいる。お前を倒せる!」
 ガフドロが肩を竦める。「試してみればいい。それが一番わかりやすいだろ」
「セラ」スヴァニを構えながらズィーは言う。「ナパスのみんなのこととか、世界の破壊のこととかはみんながやってくれる。俺とお前はあいつにだけ集中だ」
 頷いてセラもオーウィンを構える。
 ズィーが先に駆け出した。
 淡く輝く者の力強い一太刀が黒く縁取られる大男の大剣に阻まれる。そこへ碧を纏う者が続く。
 セラはズィーがガフドロから離れるのに代わり、トラセードにより加速させた突きを放つ。
「っん!」
 ガフドロは身体を大きく仰け反らせオーウィンの下に入り込む。そしてフクロウを睨んだ。
「ぁっ!」
 セラはオーウィンから手を離した。オーウィンが高々と舞う。
 ズィーが叫ぶ。「跳べっ」
 彼は跳躍の意味で言ったのだろうが、セラは花を散らした。移動した先は上空。吹き飛ばされたオーウィンを迎える。
 愛剣を手に下を見ると、碧き花にまみれてズィーがガフドロの脚へスヴァニを振るっているところだった。
 だがそれよりも早く、ガフドロは足を振り上げてズィーの顎を打った。そのまま立ち直すと、ガフドロはがら空きのズィー腹を殴った。
 ズィーがその殴打に耐えたかと思われたその時、爆発的に敵の力が迸って彼の身体を飛ばす。
「ズィーっ!」
 セラは空中から彼の進行方向へとナパードした。そしてちょうどよくズィーの腕をがっしりと掴んで、すぐにまた花を散らした。
 ガフドロの横に現れ、ズィーに振り回される力を利用してオーウィンを振った。
 フクロウの身体は強く大剣を打った。
 セラはズィーを離し、次手を繰り出す。そこにズィー加わり、二人でガフドロを攻め込んでいく。
 ガフドロは籠手も用いて二人の攻撃を受け止めていく。
「これならどうだっ!」
 ズィーが大剣に剣を受け止められたところで、空気を放った。これにはガフドロも両手で大剣を握って対応した。
「んっ!……ヌロゥほどではないなっ!」
「いいんだよ、今は! 時間稼ぎだからな!」
「言ってどうするのよ、ズィー!」
 セラはズィーの後方で顔をしかめた。オーウィンを後ろに引いた状態で。
「だってもう、準備できてんだろ?」
「そうだけどっ!」
 セラはオーウィンをその場で振るった。魔素が彼女の意思と共に飛ぶ。
 思惟放斬に金剛裁断。
「言われなくともわかるがな」
 ガフドロがズィーから離れようと足を動かした。その時、ズィーは笑った。
「逃がさねーよっ!」
 彼の言葉と共に風が吹いた。押し付けるような風が全方位からガフドロへ向けて。
「ぬっ……」
 ガフドロは身動きが取れずに、ズィーとの鍔迫り合いの姿勢で固まる。
 魔素の斬撃がズィーをすり抜け、ガフドロに当たった。
「っ……」
「今度は俺だ」
 苦痛の表情を浮かべるガフドロを空気で捕えたままズィーは、すーっと息を吐いた。
「俺の方が強烈だぜ?」
 フッと笑いズィーはスヴァニを振るう。

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