碧き舞い花
509:十二の翼
――オーウィン。
セラはズィーに呪いの手枷を壊してもらい、その手に愛剣を呼び戻した。
「うわ、なにそれ。セラお前、また俺の知らない間に新しいこと学びやがったな、ってのは今回はいいや。カッパに勝ったの俺だし」
「まだ戦いが終わったわけじゃないぞ、ズィー。元気なら他の場所の助けに行ってくれ。悪いが俺は、このざまだ、この戦争はここまでだ。セラ、お前も戻って手当をした方がいい」
ゼィロスに言われたが、セラはヴェールを発現させる。そしてすぐに消す。
「これくらい、大丈夫だよ。自分で応急処置したら、ズィーと一緒にみんなのところに行く」
「……そうか。わかった。お前の判断に任せよう」
ゼィロスはどこか悲し気な表情を一瞬見せた後、「武運を」と言い残してナパードで消えた。
「なんか、ゼィロス哀しそうだったな」
「敵でも友達をその手にかけたんだもん。伯父さんだって思うところはあるよ」
「んー、なんかお前の反応に対してに見えたけどな、気のせいか」
「なんでわたし? 変なこと言ってないで、ちょっと手当手伝って」
セラはズィーに触れ、居住区の中でも戦いから離れた場所へと跳んだ。そこで自身の手当てを済ませ、セラは再び戦場に立つ。
エァンダとサパルが世界に空いた穴の近くにいるのは感じられた。そこで大きな気配を持つ敵と交戦中だったが、二人なら大丈夫だろうと、セラとズィーは別の場所に跳んだ。ケン・セイとコクスーリャも同じような状況だったが、こちらも任せておいて大丈夫だと判断した。
テム、ラスドール、マツノシン、そしてヅォイァが先頭に立って立ち回る一帯。実力者は揃っているが、賢者はいない場所。そして恐らくは相手にしている敵が現状で最も強大な場所だった。
相手にしているのはヌロゥ・ォキャだ。
一度死闘を繰り広げたヅォイァを狙ってこの場にいるのだと簡単に推測できる。そしてセラが姿を現せばどうなるかも。
「舞い花ぁっ!」
嬉々の表情を歪ませ、ちょうど鍔迫り合いをしていたテムを蹴飛ばし、セラに迫ってきた。
セラの前にズィーが躍り出て、空気を纏い同じく空気を纏うヌロゥを止める。
「『紅蓮騎士』か……どけっ! お前に用はない!」
「俺は、ちょっとあんだよな、それが!」
二人が剣を押し合う脇に、セラは身を出す。低い姿勢から、オーウィンを振り上げる。
ヌロゥはズィーから離れ、宙へ舞う。そこへ、天馬でテムが背後を取った。天涙が振るわれる。空気の壁に阻まれる。そして空気が破裂し、テムは返り討ちとなった。
彼に代わるようにヅォイァが跳び上がり、ヅェルフで突きを放つ。身体を翻し躱すヌロゥだが、彼の淡く光る空気の膜がわずかに破けた。デルセスタ棒術蛇爪だ。
元に戻ろうとする空気より早く、その破けた部分へとラスドールが自らマカで作り出した木の棍棒を柄にした魔素の剣で斬り込んだ。その斬り口が、続けて数度誰にともなく斬られた。セラはその斬撃に魔素を感じた。ラスドールのマカなのだろう。
そうして広がる空気の膜の欠損。そこへ今度は地上で刀を鞘に納め、居合いの構えのまま止まっていたマツノシンが動く。
「かぁあああっつっ!」
驚いたことにマツノシンは刀を抜かず、ただ咆哮が如く声を発した。声と共に爆発的に風が起こり、天のヌロゥを襲った。
「ぐっ」
彼に纏わる空気が、剥がれ消えていく。気魂法、それもかなり気迫のこもったものだ。
セラはそれをただ見て終わるつもりはなかった。空気の鎧がなくなっただけではないはずだ。外在力そのものが気魂によって押し消された。好機だ。
ズィーもそう感じ取ったらしい。渡界人二人は碧と紅を共演させ、天へ現れた。
片やエメラルドのヴェール、片や空気の淡き輝き。フクロウとハヤブサが一斉に振り下ろされる。
ガキンッ……。
そう簡単にはいかない。
身体を縮こまらせながらも二本の歪んだ剣で、二羽を受け止めたヌロゥ。再び空気がやってくる。
空気は風となり、ヌロゥに纏わるより先にセラとズィーを排斥した。
二人は地上へ降り立った。仲間たちもそれぞれ地上からヌロゥを見上げる。
「どうだ? 舞い花」ヌロゥはセラだけを見ている。「一騎打ちといこうじゃないか。他は邪魔だ、失せろ!」
とそこまで言ってからヅォイァに目をやる。
「いや。『老骨を打破せし者』お前は必要だ。お前にも因縁があるからな」
その時、セラはこの場に新たな気配が舞い込んできたのを感じた。
羽根が舞った。
「因縁、ね。だったら俺たちにもあるんじゃないか?」
「前回は参加できなかったが、今回は俺もいる」
腰の羽、耳の上の羽、すべて合わせて十二。七色の薄光の空に、十二の翼が現れた。一本は偽翼だ。
ヌロゥの背後、ビュソノータスのジュランとプライが翼をはためかせていた。ジュランが地上のセラに向けてにやりと口角を上げる。
「おう、セラ。今回は空から落ちてないんだな」
セラはズィーに呪いの手枷を壊してもらい、その手に愛剣を呼び戻した。
「うわ、なにそれ。セラお前、また俺の知らない間に新しいこと学びやがったな、ってのは今回はいいや。カッパに勝ったの俺だし」
「まだ戦いが終わったわけじゃないぞ、ズィー。元気なら他の場所の助けに行ってくれ。悪いが俺は、このざまだ、この戦争はここまでだ。セラ、お前も戻って手当をした方がいい」
ゼィロスに言われたが、セラはヴェールを発現させる。そしてすぐに消す。
「これくらい、大丈夫だよ。自分で応急処置したら、ズィーと一緒にみんなのところに行く」
「……そうか。わかった。お前の判断に任せよう」
ゼィロスはどこか悲し気な表情を一瞬見せた後、「武運を」と言い残してナパードで消えた。
「なんか、ゼィロス哀しそうだったな」
「敵でも友達をその手にかけたんだもん。伯父さんだって思うところはあるよ」
「んー、なんかお前の反応に対してに見えたけどな、気のせいか」
「なんでわたし? 変なこと言ってないで、ちょっと手当手伝って」
セラはズィーに触れ、居住区の中でも戦いから離れた場所へと跳んだ。そこで自身の手当てを済ませ、セラは再び戦場に立つ。
エァンダとサパルが世界に空いた穴の近くにいるのは感じられた。そこで大きな気配を持つ敵と交戦中だったが、二人なら大丈夫だろうと、セラとズィーは別の場所に跳んだ。ケン・セイとコクスーリャも同じような状況だったが、こちらも任せておいて大丈夫だと判断した。
テム、ラスドール、マツノシン、そしてヅォイァが先頭に立って立ち回る一帯。実力者は揃っているが、賢者はいない場所。そして恐らくは相手にしている敵が現状で最も強大な場所だった。
相手にしているのはヌロゥ・ォキャだ。
一度死闘を繰り広げたヅォイァを狙ってこの場にいるのだと簡単に推測できる。そしてセラが姿を現せばどうなるかも。
「舞い花ぁっ!」
嬉々の表情を歪ませ、ちょうど鍔迫り合いをしていたテムを蹴飛ばし、セラに迫ってきた。
セラの前にズィーが躍り出て、空気を纏い同じく空気を纏うヌロゥを止める。
「『紅蓮騎士』か……どけっ! お前に用はない!」
「俺は、ちょっとあんだよな、それが!」
二人が剣を押し合う脇に、セラは身を出す。低い姿勢から、オーウィンを振り上げる。
ヌロゥはズィーから離れ、宙へ舞う。そこへ、天馬でテムが背後を取った。天涙が振るわれる。空気の壁に阻まれる。そして空気が破裂し、テムは返り討ちとなった。
彼に代わるようにヅォイァが跳び上がり、ヅェルフで突きを放つ。身体を翻し躱すヌロゥだが、彼の淡く光る空気の膜がわずかに破けた。デルセスタ棒術蛇爪だ。
元に戻ろうとする空気より早く、その破けた部分へとラスドールが自らマカで作り出した木の棍棒を柄にした魔素の剣で斬り込んだ。その斬り口が、続けて数度誰にともなく斬られた。セラはその斬撃に魔素を感じた。ラスドールのマカなのだろう。
そうして広がる空気の膜の欠損。そこへ今度は地上で刀を鞘に納め、居合いの構えのまま止まっていたマツノシンが動く。
「かぁあああっつっ!」
驚いたことにマツノシンは刀を抜かず、ただ咆哮が如く声を発した。声と共に爆発的に風が起こり、天のヌロゥを襲った。
「ぐっ」
彼に纏わる空気が、剥がれ消えていく。気魂法、それもかなり気迫のこもったものだ。
セラはそれをただ見て終わるつもりはなかった。空気の鎧がなくなっただけではないはずだ。外在力そのものが気魂によって押し消された。好機だ。
ズィーもそう感じ取ったらしい。渡界人二人は碧と紅を共演させ、天へ現れた。
片やエメラルドのヴェール、片や空気の淡き輝き。フクロウとハヤブサが一斉に振り下ろされる。
ガキンッ……。
そう簡単にはいかない。
身体を縮こまらせながらも二本の歪んだ剣で、二羽を受け止めたヌロゥ。再び空気がやってくる。
空気は風となり、ヌロゥに纏わるより先にセラとズィーを排斥した。
二人は地上へ降り立った。仲間たちもそれぞれ地上からヌロゥを見上げる。
「どうだ? 舞い花」ヌロゥはセラだけを見ている。「一騎打ちといこうじゃないか。他は邪魔だ、失せろ!」
とそこまで言ってからヅォイァに目をやる。
「いや。『老骨を打破せし者』お前は必要だ。お前にも因縁があるからな」
その時、セラはこの場に新たな気配が舞い込んできたのを感じた。
羽根が舞った。
「因縁、ね。だったら俺たちにもあるんじゃないか?」
「前回は参加できなかったが、今回は俺もいる」
腰の羽、耳の上の羽、すべて合わせて十二。七色の薄光の空に、十二の翼が現れた。一本は偽翼だ。
ヌロゥの背後、ビュソノータスのジュランとプライが翼をはためかせていた。ジュランが地上のセラに向けてにやりと口角を上げる。
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