碧き舞い花
498:触れるナパード
フェースは一度大きく息を吐いた。それだけで冷静さを取り戻す。
「こうなってしまった以上、仕方ありませんね。どのみち、破られると勘が告げていましたし。でもまあ、いいですよ。私が負けるとは、告げられていないので」
静かに言葉を紡ぐと、フェースは両腕を大きく広げた。すると数多の剣が、扇のように彼の背後に広がった。
「ここからはエァンダのためのとっておきです。彼と戦うときのためのものですが、本番の前に貴方で練習するとしましょうか」
「普段から練習しとけばよかったって、後悔させてやるっ!」
触れないナパードの回避ができる様になれば、普段通り戦える。その想いがセラのヴェールを再び濃くさせる。
駿馬のキレはいつも以上。旋回しながらフェースへ近付いていく。尾を引くヴェールはきれいな渦巻きを描きはじめる。
「いい気にならないことですっ!」
フェースの背後に広がった剣たちが、一つ一つ消えていき、その直後にセラを狙うように彼女の近場に現れて飛んでくる。遊歩の技術を有するセラにとっては反応には難くない。身を低くしたり、跳び越えたり、回転したりと踊るようにしながら歩を緩めない。
そしてフェースの背後にピタリと止まる。
剣たちを操りセラを狙うことに気を向け過ぎていたのか、敵は反応が遅かった。いいや、反応すらできていなかった。身動き一つしていない。
このまま終わらせる。セラはオーウィンを振るう。
「……!」
セラは振るった剣もピタリと止めた。自ら。そして振り返りざまに、敵の剣を防ぐ。鍔迫り合い。ナパードもなくフェースに後ろを取られた。いや、最初からセラの後ろにいたのだ。
剣を操っていたフェースがセラの背後から消える。
「幻覚……」セラは今なお鍔迫り合いをするフェースを睨む。「それも幼稚な」
彼女が攻撃をやめたのも、さっき背後を取ったフェースの気配があまりにも本人より弱かったからだった。だからこそセラは背後から攻撃を受けずに済んだのだが。
「そんなのがエァンダに通用すると思ってるの?」
フェースは鼻で笑う。「今のはきっかけだ。貴方と触れるための」
フェースがナパードを使う気配をセラは察知した。その通りに彼は跳んだ。セラの後方、床の端へ、オーウィンと共に。
「っ!?」
熟練のナパード使いだからこその技だ。
他人に触れながらも自分だけが跳ぶことができるということは、触れているものの中から自身と共に跳ぶものを選べるということだ。知識として、セラもそれは充分なものを持っていた。しかしこれまでナパスの民と生死をかけた戦いをしたことがなかった彼女には、虚を突かれるものに他ならなかった。
「『異空の賢者』はこういう戦い方は教えてくれなかったようですね」
フェースは主を失って落ちそうになったフクロウの柄を華麗に掴んで、試すように空を斬った。
「ぅん、なかなかいい剣だ。オーウィン……さすがは『輝ける影』の剣といったところか」
「返せっ…………!」
セラは鬼気迫る顔でフェースの懐に迫った。敵がしたように自身と愛剣だけで跳ぼうと、手を伸ばす。その時、視界が青白く染まった。怒りで判断が鈍ったセラはされるがまま、床の中央に戻された。
「フェースっ!」
今度はナパードで敵の背後を取るセラ。しかしフクロウの切っ先が、彼女の喉元に突き付けられた。それも彼女を囲むように全方位から。
「哀れだな」複数のフェースの声がセラの耳朶を叩く。「『碧き舞い花』、この程度か。練習もここで終わり」
すべてのフェースがオーウィンを引く。そしてセラの首に迫る。
「こうなってしまった以上、仕方ありませんね。どのみち、破られると勘が告げていましたし。でもまあ、いいですよ。私が負けるとは、告げられていないので」
静かに言葉を紡ぐと、フェースは両腕を大きく広げた。すると数多の剣が、扇のように彼の背後に広がった。
「ここからはエァンダのためのとっておきです。彼と戦うときのためのものですが、本番の前に貴方で練習するとしましょうか」
「普段から練習しとけばよかったって、後悔させてやるっ!」
触れないナパードの回避ができる様になれば、普段通り戦える。その想いがセラのヴェールを再び濃くさせる。
駿馬のキレはいつも以上。旋回しながらフェースへ近付いていく。尾を引くヴェールはきれいな渦巻きを描きはじめる。
「いい気にならないことですっ!」
フェースの背後に広がった剣たちが、一つ一つ消えていき、その直後にセラを狙うように彼女の近場に現れて飛んでくる。遊歩の技術を有するセラにとっては反応には難くない。身を低くしたり、跳び越えたり、回転したりと踊るようにしながら歩を緩めない。
そしてフェースの背後にピタリと止まる。
剣たちを操りセラを狙うことに気を向け過ぎていたのか、敵は反応が遅かった。いいや、反応すらできていなかった。身動き一つしていない。
このまま終わらせる。セラはオーウィンを振るう。
「……!」
セラは振るった剣もピタリと止めた。自ら。そして振り返りざまに、敵の剣を防ぐ。鍔迫り合い。ナパードもなくフェースに後ろを取られた。いや、最初からセラの後ろにいたのだ。
剣を操っていたフェースがセラの背後から消える。
「幻覚……」セラは今なお鍔迫り合いをするフェースを睨む。「それも幼稚な」
彼女が攻撃をやめたのも、さっき背後を取ったフェースの気配があまりにも本人より弱かったからだった。だからこそセラは背後から攻撃を受けずに済んだのだが。
「そんなのがエァンダに通用すると思ってるの?」
フェースは鼻で笑う。「今のはきっかけだ。貴方と触れるための」
フェースがナパードを使う気配をセラは察知した。その通りに彼は跳んだ。セラの後方、床の端へ、オーウィンと共に。
「っ!?」
熟練のナパード使いだからこその技だ。
他人に触れながらも自分だけが跳ぶことができるということは、触れているものの中から自身と共に跳ぶものを選べるということだ。知識として、セラもそれは充分なものを持っていた。しかしこれまでナパスの民と生死をかけた戦いをしたことがなかった彼女には、虚を突かれるものに他ならなかった。
「『異空の賢者』はこういう戦い方は教えてくれなかったようですね」
フェースは主を失って落ちそうになったフクロウの柄を華麗に掴んで、試すように空を斬った。
「ぅん、なかなかいい剣だ。オーウィン……さすがは『輝ける影』の剣といったところか」
「返せっ…………!」
セラは鬼気迫る顔でフェースの懐に迫った。敵がしたように自身と愛剣だけで跳ぼうと、手を伸ばす。その時、視界が青白く染まった。怒りで判断が鈍ったセラはされるがまま、床の中央に戻された。
「フェースっ!」
今度はナパードで敵の背後を取るセラ。しかしフクロウの切っ先が、彼女の喉元に突き付けられた。それも彼女を囲むように全方位から。
「哀れだな」複数のフェースの声がセラの耳朶を叩く。「『碧き舞い花』、この程度か。練習もここで終わり」
すべてのフェースがオーウィンを引く。そしてセラの首に迫る。
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