碧き舞い花

御島いる

486:これからのことはこれから

「俺とゼィロスの関係は話し終わったところだ。これからのことは、これから話すところ」
「そうか。やはりセラにはばれていたか」優しくセラに笑むと、ユフォンに視線を向けるゼィロス。「ユフォン。君にはプォルテとして話したが、協力者はコクスーリャだ。俺は『夜霧』の存在を探り始めた当初から、彼に依頼していた」
「なるほど……フィアルムの人なら頷けますね、裏切り者がもうわかっているのも」
 セラは目をわずかに瞠りコクスーリャに尋ねる。「裏切り者が、わかってるのっ?」
「もちろん。それが今の俺の仕事だからな」
「誰っ!」
 詰め寄るセラを手で制し、落ち着かせるコクスーリャ。
「焦るなよ。それがこれからの話だ」
「聞いても信じがたいだろうが」ゼィロスはセラとユフォンに言う。「最高峰の調査人の導いた答えだ。飲み込んでくれ。俺もそうした。覆したい思いはあるが、考えれば考えるほどにそうはならないのだと気づかされる」
「そういうことだ、二人とも心構えはいいか? 特にユフォン、しっかり書き留めてくれ。これから開くことになる裏切り者を暴く評議で記録が混乱しないように、前もって話しておくんだからな」
 コクスーリャの鋭い眼差しに、セラは黙って頷く。ユフォンもそうだ。早速紙を束にして持ち、筆を構えていた。
 そうして探偵の口から裏切り者の名が告げられる。
 彼が裏切り者に行き着いた思考の巡りと、調査の経緯いきさつ、それから今後行われる作戦についても同時に語られた。
 セラは明らかになった事実を伯父が言ったように飲み込むに徹した。湧き上がる感情を押さえつけ、彼が話し終えるのを待った。隣りで忙しく筆を走らせているユフォンの音を聴きながら。


「とりあえずこれで全部だ。しっかり書いたか、ユフォン」
「はい。漏らすことなく、一言一句。作戦のこともまで全部」
「さすがはホワッグマーラの筆師だ。その紙、ことが終わるまで肌身離さずにな」
「はい。それにしても、一人でこんなに調べたなんて、すごいですね」
 ユフォンは紙の束をつまんで見せた。
「四分の三は調査報告だよ、セラ。残りは作戦のこと」
「うん」セラはユフォンに頷き、それからコクスーリャに向き直る。「でも、これでも足りないから証拠集めに行くんでしょ?」
 コクスーリャの話した作戦には、評議を開く以前に裏切り者を決定づけるための証拠集めも含まれていた。フィアルムの人間が調べ上げたというだけで充分にも思える。現にセラは信じがたくとも信じていた。裏切りとはそういうものだと思っていた。ゼィロスのように覆したいとは思っていなかった。双子の顔が浮かぶ。一度直接的に体験しているからだろうか。
「いや、俺の調査で充分足りてる。しかし状況だけが物語っているせいもあって、俺の依頼主であるゼィロスでさえ覆したいと思うんだ。話だけじゃ信じない人間は必ず出てくる。それは裏切り者に言い逃れの隙を与えかねない。確実にいかないといけない。それに俺がフィアルムの人間で、それでいて『夜霧』に潜入していた人間であろうとなかろうと、渡界人と偽って入り込んだ異物に変わりはない。不信感を持たれる可能性もある」
「そっか。物があれば、確実だもんね」
「確実といえば」ユフォンが思いついたように口を開く。「ヴェィルの名前を口にできるかを試せばいいんじゃ?」
「駄目だ」とゼィロス。「気が狂われてしまっては情報を引き出せない。場合によっては命を落としかねないしな」
「ははっ、そうですね。あまりに重要なことを任されて、気分が昂揚してしまって」
「くれぐれも、作戦が終わるまで普段通りにな。セラも」
「はい」
「うん」
「それじゃあ、行くとしようか。セラ」
「俺は評議会を招集しておく。ユフォン、手分けして集める者に声をかけるぞ。二人が戻り次第裏切り者を暴く」
 ゼィロスの言葉を最後に、セラはコクスーリャを連れて自室を発った。

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