碧き舞い花
360:『老骨を打破せし者』
「ジルェアス嬢」
セラを呼んだ彼の声は当然、若々しい。
「はい」
「他の場所の助けに向かえ。ここは俺だけで充分だ」
セラは間髪入れず、笑みを湛え頷く。「分かりました」
「だが、終わる頃に迎えに来てほしい。鬼心と神容は、使うと三日三晩は動けなくなってしまうからな」
「だから、フェリ・グラデムでは使わなかった」
「そうだ。手を抜いて死を受け入れたこと、怒るか?」
「……ふっ、それはあとにしましょう」
「そうだな。ああ、そうだジルェアス嬢。お前のあの力について、俺に思うところがある」
「ほんとですかっ!?」
「一つの考えだがな。その話もあとでしよう」
「はい。必ず」
「おいおい、勝手に話を進めるなよ『碧き舞い花』」ヌロゥがぬらっと笑う。「俺がお前を逃がすわけがない」
ヌロゥに向かってヅォイァ。「俺がお前を逃がさん」
「逃げないよ」笑みを絶やさず続ける。「お前も面白いからな。『老骨を打破せし者』。だから、お前を楽しみ、殺し、そのあとで『碧き舞い花』、お前を追う」
ぬらっとした笑みが、殺気で冷たく鋭くなる。
「あとで話す? そんなことができると思うなよ」
「お前こそ、生き残れると思うなっ!」
ヅォイァが砂を巻き上げ駆け出した。彼に追随するように、棒も自ら動く。全容はわからないが、おそらくデルセスタ棒術・鬼心は棒に意思を持たせる技術のようだ。意志を持つ刀剣のように。
素手のまま、殴りにかかるヅォイァ。
二本の歪んだ剣と、素手が交わる。ヅォイァの拳は刃に向かっていったというのに無傷だ。むしろ、ヌロゥの剣に纏わった空気の塊にヒビが入った。
「神容、といったな。ただ若返るわけじゃない……まさに神通力、か」
「分析などしてる場合か?」
手がふさがったヌロゥの上空から棒が、降る。
「ふっ」後退し、棒の着地点から逸れるヌロウ。
だが。
「っ!?」
彼の太ももが、空気の鎧ごとわずかに裂けた。棒から飛び出す見えない刃、蛇爪だ。
それも束の間、地面に刺さった棒はその体をヌロゥに向かって倒す。それも高速で。そのまま回転しながら、敵に向かっていく。
「気を付けろよ、若僧。俺よりも、ヅェルフの方が凶暴だ」
後ろに飛び退いていくヌロゥ。彼を執拗に追う、ヅェルフと呼ばれた棒。ヅェルフは砂を巻き上げ、後ろにきれいな溝を作っていく。
「ジルェアス嬢、何をしている。行け」
あまりのすごさに思わず見物客と化していたセラは、声を掛けられ我に返る。そして頷くと、ジュランに声を掛けた。
「わたしは行くけど、ジュランは?」
「あ、ああ。俺か」彼もヅォイァとヅェルフの戦いぶりに見入ってしまっていたようだ。「俺はもといた場所に戻る。仲間たちを置いてきちまってるからな」
言いながら彼は羽ばたき、体を浮かす。
「じゃあな、セラ。無茶すんなよ」
「お互い様」
来た方角へと飛び去って行くジュラン。彼が零した声が聴こえた。「武器が勝手に動くなんて、びっくりだ……」
八羽の羽ばたきが聴こえなくなると、セラは今一度戦場に目を向ける。
ちょうどヅォイァがヌロゥを蹴り倒していたところだった。まだヌロゥの身体に目立った傷はないが、彼の言う通り、この場は彼とその相棒に任せておけば大丈夫そうだ。
ピンとした背筋の筋肉質の男。のらりくらりとした細く背の高い男。
まるで対極の立ち姿の二人はもう、互いのことしか眼中にない。
セラはそっと気配を探り、その場に碧き花をわずかばかり残して姿を消した。
セラを呼んだ彼の声は当然、若々しい。
「はい」
「他の場所の助けに向かえ。ここは俺だけで充分だ」
セラは間髪入れず、笑みを湛え頷く。「分かりました」
「だが、終わる頃に迎えに来てほしい。鬼心と神容は、使うと三日三晩は動けなくなってしまうからな」
「だから、フェリ・グラデムでは使わなかった」
「そうだ。手を抜いて死を受け入れたこと、怒るか?」
「……ふっ、それはあとにしましょう」
「そうだな。ああ、そうだジルェアス嬢。お前のあの力について、俺に思うところがある」
「ほんとですかっ!?」
「一つの考えだがな。その話もあとでしよう」
「はい。必ず」
「おいおい、勝手に話を進めるなよ『碧き舞い花』」ヌロゥがぬらっと笑う。「俺がお前を逃がすわけがない」
ヌロゥに向かってヅォイァ。「俺がお前を逃がさん」
「逃げないよ」笑みを絶やさず続ける。「お前も面白いからな。『老骨を打破せし者』。だから、お前を楽しみ、殺し、そのあとで『碧き舞い花』、お前を追う」
ぬらっとした笑みが、殺気で冷たく鋭くなる。
「あとで話す? そんなことができると思うなよ」
「お前こそ、生き残れると思うなっ!」
ヅォイァが砂を巻き上げ駆け出した。彼に追随するように、棒も自ら動く。全容はわからないが、おそらくデルセスタ棒術・鬼心は棒に意思を持たせる技術のようだ。意志を持つ刀剣のように。
素手のまま、殴りにかかるヅォイァ。
二本の歪んだ剣と、素手が交わる。ヅォイァの拳は刃に向かっていったというのに無傷だ。むしろ、ヌロゥの剣に纏わった空気の塊にヒビが入った。
「神容、といったな。ただ若返るわけじゃない……まさに神通力、か」
「分析などしてる場合か?」
手がふさがったヌロゥの上空から棒が、降る。
「ふっ」後退し、棒の着地点から逸れるヌロウ。
だが。
「っ!?」
彼の太ももが、空気の鎧ごとわずかに裂けた。棒から飛び出す見えない刃、蛇爪だ。
それも束の間、地面に刺さった棒はその体をヌロゥに向かって倒す。それも高速で。そのまま回転しながら、敵に向かっていく。
「気を付けろよ、若僧。俺よりも、ヅェルフの方が凶暴だ」
後ろに飛び退いていくヌロゥ。彼を執拗に追う、ヅェルフと呼ばれた棒。ヅェルフは砂を巻き上げ、後ろにきれいな溝を作っていく。
「ジルェアス嬢、何をしている。行け」
あまりのすごさに思わず見物客と化していたセラは、声を掛けられ我に返る。そして頷くと、ジュランに声を掛けた。
「わたしは行くけど、ジュランは?」
「あ、ああ。俺か」彼もヅォイァとヅェルフの戦いぶりに見入ってしまっていたようだ。「俺はもといた場所に戻る。仲間たちを置いてきちまってるからな」
言いながら彼は羽ばたき、体を浮かす。
「じゃあな、セラ。無茶すんなよ」
「お互い様」
来た方角へと飛び去って行くジュラン。彼が零した声が聴こえた。「武器が勝手に動くなんて、びっくりだ……」
八羽の羽ばたきが聴こえなくなると、セラは今一度戦場に目を向ける。
ちょうどヅォイァがヌロゥを蹴り倒していたところだった。まだヌロゥの身体に目立った傷はないが、彼の言う通り、この場は彼とその相棒に任せておけば大丈夫そうだ。
ピンとした背筋の筋肉質の男。のらりくらりとした細く背の高い男。
まるで対極の立ち姿の二人はもう、互いのことしか眼中にない。
セラはそっと気配を探り、その場に碧き花をわずかばかり残して姿を消した。
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