碧き舞い花

御島いる

347:それぞれの役目

 グース・トルリアースと別れたセラとユフォンは、キノセや戦士たちと共に評議会のために用意された休養所に入った。
 さっそく目についたのは怪我人たちの姿だ。その部屋の大部分を重軽傷様々な怪我人が占拠していた。
 その間を縫うように非戦闘員たちが駆けまわっていた。『白輝の刃』の人間も混ざっている。
 セラは薬草術の知識をすぐにでも活用したところであったが、そのあまりの量に太刀打ちできないだろうと思い止まる。彼らに必要なのは薬ではなく、治療。ユフォンの治癒のマカや鍵束の民が用いる施術室が適していた。
 彼女のその考えが正しいことを、怪我人が患部に巻いている包帯とは違う、白い布が教えてくれる。
 白輝側の人間がいるのも頷ける。あの布は野営地のテントと同じ煌白布だ。
 絢爛豪華な建物という空間ではなく、時の濃度が高い空間をその内部に作り出すことで、傷の自然な治りを早める。軽傷ならば数分で治るだろう。ビュソノータスでデラヴェスの回復が早かったのもこの布のおかげだ。
「キノセ、セラ」
 部屋に入った一団に声をかけてきたのは、裸体の上半身に薄衣を羽織った『空纏の司祭』ンベリカだった。彼の脚にも煌白布が巻かれていた。
 戦士を引き連れ、彼のもとへ。
「まさかセラまで来るとは思わなかったが、嬉しい誤算だ。さっそく状況を教える。といってもだ、お前らが思ってるのと大差ない。膠着状態だ」
「だからこそ俺たちが呼ばれたわけですからね」キノセが肩を竦めた。「それで俺たちはどう動けばいいですか?」
「現在、我々と『夜霧』は大まかに言うと南北に分かれて陣取っているのだが、キノセ率いる隊は、西端の野営地へ向かってくれ。休戦がなければ壊滅していたと、戦士から連絡が入った」
「わかった。すぐ向かう。行った先の状況に合わせて動く」キノセは振り向き、戦士たちに言う。「行くぞ、みんな」
 彼らが「はい」と返事を揃えると、彼らを率いてキノセは早足で部屋を出ていった。その場に四人・・が残される。
 ンベリカが眉を顰める。「お前は行かないのか、セラ」
「わたしは自由に動き回っていいってキノセに言われてるんだけど……? 評議会としての作戦じゃないの?」
「俺は聞いてない。キノセの独断か、ゼィロス殿か……まあ、悪くはない。しかし、あまり動き回るのなら通信機を身に着けておいてくれ。作戦を伝える。お前が参加しない作戦であっても、遂行の障害になってもらっては困るからな」
「うん。わたしとしても気配以外で情報が得られるのは助かる。状況が厳しい場所にはすぐに跳んでいきたいし」
「あまり無理はするな。もしものことがあれば、ゼィロス殿にどやされかねない」
「……あはは」
「ああ、そして」とンベリカはセラの隣のユフォンに目を向けた。「記録係の魔法使いくん。君はこの場で負傷者の手当てを。特に重傷者だ。頼んだぞ」
「もちろんです」
 言うと、ユフォンは表情を引き締め苦痛にうめき声を上げる負傷者たちの方を見た。そこで一つ頷くと、セラに向き直る。
「それじゃあ、セラ。僕も評議会の一員として、頑張るから」
「うん」
 彼女が強く頷き返したのをみると、ユフォンは勇ましい足取りで負傷者たちのもとへと歩んで行った。三人・・が彼を見送る。
「セラ」ユフォンを見送る彼女にンベリカ。「まだ潮が引くまで時間がある。ズィーかケン・セイか、誰かに会ってくるか? それとも、あまり本部野営地にいるのはまずいか?」
 彼はセラと白輝との関係を気に掛けているのだろう。
「うーん、でも、もうグースと会っちゃったし。白輝の将軍たちもわたしが来てることには気付いてるよ。押さえてはいるけど、消してはないから気配」
「そうか。でも」ンベリカは声を潜める。「白輝にも気を付けろ。特に戦闘中はな」
「うん。隙あらば、別の功績もっていうのが彼らのやり方なのはよく知ってるから」
『蒼白大戦争』のときも、デラヴェスはことあるごとにエァンダの命を狙っていた。白輝の将たちは彼らの長である輝ける者たちに認めてもらうためにあらゆる手を打つのだ。
「ところで……そちらの老人は?」ンベリカはセラの後方に立つもう一人・・・・。老人、ヅォイァに目を向け首を傾げた。「知らない顔だが、キノセ隊の一員じゃないのか?」
「ヅォイァさんはわたしの――」
「所有物だ」セラの言葉を継いで、ヅォイァはこの地に来て初めて口を開く。「ヅォイァ・デュ・オイプ。俺のことはジルェアス嬢の持つ道具としてみてくれていい」
 ンベリカはどう反応していいのか分からず、ただ声を漏らす。「あ、ああ……」
 セラの所有物という立場のヅォイァではあるが、その戦力は彼女が身をもって知っている。ウェル・ザデレァへ出発の前に彼の疲労が取れていることを確認した彼女は、彼を同行させることを選んだのだ。
「ヅォイァさん、そこまで自分を下げないでくださいって、言いましたよね。命令のつもりだったんですけど」
「ジルェアス嬢の命令だとしても、そこは曲げんと言うたはずだ」
「ちゃんと他は聞いてくださいね」
「基本は聞くが、場合によっては――」
「それは何度も聞きました」
「ならば、そろそろ折れてはくれぬか、ジルェアス嬢」
「それはヅォイァさんの方ですよ」
「頑固な娘だ」
「頑固なおじいちゃん」
 二人は示し合わせもせず、声を重ねた。その姿を見て、ンベリカは呆れた様子だ。
「……仲がいいのなら、問題ない、か」

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