碧き舞い花
324:老人は穏やかに望む
ヅォイァとの試合は実際、純粋に楽しいものだった。
傷と疲労、そして任務。それらがなければもっと続けていたいと思えるほどに。
閃きの剣をセラが使いこなすのにはそう時間はかからなかった。数度ヅォイァと攻防を交えると、自分のものにした。
完全ではないしろ剣を持ち、本領を発揮した彼女。セブルスでありながら、セラとして十分に立ち回った結果、ヅォイァに膝を着かせたのだった。
これが最後とばかりに現出させ、保持させたマカの剣を彼女が彼の首元にあてがう。すると老人はにこやかに「参った」と言った。
それを聞くと、エーボシは恒例と言わんばかりの不満そうな勝利者宣言をしたのだった。
「見事だった。よもや逆転されるとはね。やはり老いたくはないものだな」
「そんなこと。あなたは今まで会った戦士の中でも最も誇り高き戦士の一人だぜ。……だから、こんなとこで、死ぬべきじゃ――」
「いや、もう満足だ」ヅォイァは立ち上がる。「武器を持ったお前と戦いたかったと言ったが、その必要もなくなった。最後は完全にものにしていた。戦士として、お前が最後の相手で誇りに思う。最高の冥土の土産だ」
「そんな……」
セラの声など聞かず、老いた戦士はピンと伸びた背筋と共に自らヨコズナ神の前にある台へと歩いていった。すがすがしく、軽やかな歩調だ。
その後ろ姿は、死を恐れてなどおらず、むしろ受け入れていると言っているようで。本当に満足しているようで、最初から死を望んでいたのではとすら思えてしまうセラだった。
「ヅォイァの爺さんでも負けたか、と言いたいところだが。あの爺さんは戦士としての死に場所を求めてここに来た類だからな。最初から負ける気だったんだろうよ。やめてもらいたいものだ、このフェリ・グラデムを汚すような真似は」
ヅォイァが去った闘技場に上がったのは、筋肉で大きく膨れ上がった身体の大男。ハマヤというフェリ・グラデム人だった。
セラは彼の言葉に、台の前に座すヅォイァに目を向ける。彼は穏やかな表情で彼女を見返した。彼女と戦っていた時に見せていた戦士の顔は、どこかへ行ってしまったようだった。
本当に死を望んでいたと聞かされても、それは嘘だと否定することはできないと、彼女は知る。
「……」
「ヅォイァ爺も含め、今までの外の奴らは前座だ。フェリ・グラデムの戦士として、わいがお主を終いにしてやる」
小さく息を吐くと、セラは目の前に敵に集中する。
ナパードも、剣も使える。それでも勝てるかどうか。疲労や傷がなくても、ハマヤから感じる気配はセラよりも大きいものだった。彼の前の三人が前座というのも嘘でないかもしれなかった。
――限界か。
セラは闘技場の外に座るコクスーリャに目を向けた。彼は真っ直ぐと彼女を見返してくる。
彼が昨夜、口にしようとした嘘。セラを助ける方法ということだが、やはり期待するべきではないのか。疑念が拭えない。
「コクスーリャの野郎が気になるか? 確か敵対する組織同士だったか。残念だが、お主があいつとやることはない。始めろ、エーボシ」
「はい。ハマヤ様」
前の三試合では戦士同士が話す時間など与えなかったが、エーボシのこの態度。外の世界の者との差か。
「両者、いざ尋常に、はじめっ!」
神前試合、四戦目が始まる。
傷と疲労、そして任務。それらがなければもっと続けていたいと思えるほどに。
閃きの剣をセラが使いこなすのにはそう時間はかからなかった。数度ヅォイァと攻防を交えると、自分のものにした。
完全ではないしろ剣を持ち、本領を発揮した彼女。セブルスでありながら、セラとして十分に立ち回った結果、ヅォイァに膝を着かせたのだった。
これが最後とばかりに現出させ、保持させたマカの剣を彼女が彼の首元にあてがう。すると老人はにこやかに「参った」と言った。
それを聞くと、エーボシは恒例と言わんばかりの不満そうな勝利者宣言をしたのだった。
「見事だった。よもや逆転されるとはね。やはり老いたくはないものだな」
「そんなこと。あなたは今まで会った戦士の中でも最も誇り高き戦士の一人だぜ。……だから、こんなとこで、死ぬべきじゃ――」
「いや、もう満足だ」ヅォイァは立ち上がる。「武器を持ったお前と戦いたかったと言ったが、その必要もなくなった。最後は完全にものにしていた。戦士として、お前が最後の相手で誇りに思う。最高の冥土の土産だ」
「そんな……」
セラの声など聞かず、老いた戦士はピンと伸びた背筋と共に自らヨコズナ神の前にある台へと歩いていった。すがすがしく、軽やかな歩調だ。
その後ろ姿は、死を恐れてなどおらず、むしろ受け入れていると言っているようで。本当に満足しているようで、最初から死を望んでいたのではとすら思えてしまうセラだった。
「ヅォイァの爺さんでも負けたか、と言いたいところだが。あの爺さんは戦士としての死に場所を求めてここに来た類だからな。最初から負ける気だったんだろうよ。やめてもらいたいものだ、このフェリ・グラデムを汚すような真似は」
ヅォイァが去った闘技場に上がったのは、筋肉で大きく膨れ上がった身体の大男。ハマヤというフェリ・グラデム人だった。
セラは彼の言葉に、台の前に座すヅォイァに目を向ける。彼は穏やかな表情で彼女を見返した。彼女と戦っていた時に見せていた戦士の顔は、どこかへ行ってしまったようだった。
本当に死を望んでいたと聞かされても、それは嘘だと否定することはできないと、彼女は知る。
「……」
「ヅォイァ爺も含め、今までの外の奴らは前座だ。フェリ・グラデムの戦士として、わいがお主を終いにしてやる」
小さく息を吐くと、セラは目の前に敵に集中する。
ナパードも、剣も使える。それでも勝てるかどうか。疲労や傷がなくても、ハマヤから感じる気配はセラよりも大きいものだった。彼の前の三人が前座というのも嘘でないかもしれなかった。
――限界か。
セラは闘技場の外に座るコクスーリャに目を向けた。彼は真っ直ぐと彼女を見返してくる。
彼が昨夜、口にしようとした嘘。セラを助ける方法ということだが、やはり期待するべきではないのか。疑念が拭えない。
「コクスーリャの野郎が気になるか? 確か敵対する組織同士だったか。残念だが、お主があいつとやることはない。始めろ、エーボシ」
「はい。ハマヤ様」
前の三試合では戦士同士が話す時間など与えなかったが、エーボシのこの態度。外の世界の者との差か。
「両者、いざ尋常に、はじめっ!」
神前試合、四戦目が始まる。
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