碧き舞い花

御島いる

248:いざ庭園へ

「あっ! セラ!」
 デラバンと共に守護団の拠点へと戻ったセラを待ち受けていたのはシァンだった。人々が忙しく歩き回る建物のロビー。セラの姿を見るや否や、満面の笑みで、襲うように駆け寄ってきた。
「やったぁ! セラだ! 本物っ! まさかセラがあのセラだったなんて、驚きだよぉ! なんで言ってくれなかったのっ!」
 セラの隣のズィーまでもが仰け反る勢い。その首根っこを軽々とデラバンが掴み上げる。
「おうっ……」
「シァンちゃん、やめなさい。『碧き舞い花』だと知っているならなおさらだ。彼女は忙しいんだぞ」
「なによ、デラバン。あたしを除け者にしたくせにぃっ。お父さんに言って、お給料下げてもらっちゃうわよ」
「いくら君がかわいい娘だからと言っても、団長がそんなことするわけないだろ」
「わっかんないよ? お金貯めれば一人で長い旅に出てもいいって許してくれたんだから、何か条件付きならあり得るかもよ!」
「……」デラバンが威厳ある顔を思案に染める。そして諦めたようにため息を吐き、シァンを降ろした。「はぁ……じゃあ、シァンちゃん、ここからは君も一緒に来るといい。庭園管理班のところだ」
「お姉ちゃんとこ? なんで?」
「逆鱗花の葉っぱを貰えないか、許可を貰いに行くの」
 セラが目的を告げる。
「じゃあ、このまま庭園に行こうっ!」
 さも当然といったふうに歩き出すシァン。セラの腕を取り、べったりとくっついて、そのまま出口へと向かっていく。
「ちょ、シァン?」
「大丈夫大丈夫」
 にこにこと楽しそうにセラとくっつくシァンに、セラはどうしたものかと未だそのままの場所に佇むデラバンとズィーに目を向けた。それを合図に二人も動き出した。
 追い付いてきたデラバンが訊く。「シァンちゃん、ウィスカちゃんは庭園に?」
「え? わかんない。でも大丈夫だよ、お姉ちゃん優しいから」
「……それは君に対してだろ。俺とは仕事の関係だ。それも責任者同士だぞ。勝手は困る」
「いいじゃん、後で報告すれば」とズィーが暢気に言った。
「……っ」顔をしかめるズィーを睨むデラバン。すぐさまセラの方を向く。「すまん、セラ。俺はウィスカちゃんがここにいるか確認して、そのうえで許可を取ってから庭園に向かう」
 デラバンが三人のもとを足早に離れていく。
「場所はシァンちゃんも知っているから、問題ない」
「はい。……あはは」
 あの人も大変だなぁと思いながら、逞しい竜人の背に返事をしたセラだった。


「そういや、シァンは翼ないけど、どうやって別の島に行くんだ?」
 島の縁までやってきて、ズィーが当然の疑問を投げかけた。
 するとシァンは「あれだよ」と言って、縁近くにある流線型の小屋を指す。
「って、いままで二人もあれで移動……あ、そうか渡界人だもんね、どこにでも行けちゃうんだ」
「どこでもってわけじゃないけどな、ナパードだって。いままでも、飛ぶデラバンの後ろを歩いてついて行ってたし」
「歩いてっ!?」
「わたしたちはそういうことも出来るの。異世界の技術で」
「え、それ、それって、これらやってくれる? 見れるの?」
 気圧されながらセラは頷く。「あ、うん」
「で、あれってなんなんだ?」とズィーが問い直す。
「あ、待ってって」
 セラから離れ、小屋にトコトコと駆けるシァン。小屋にいた女性の竜人と会話を交わす。親しい仲のようで、その場で少しの時間、他愛もない立ち話をした二人。ふとした拍子にシァンが用事を思い出し、二人は小屋の中に入っていった。
「なんだ?」
 ズィーが首を傾げる。耳にした会話からはこれといったことを知ることが出来なかったセラは「さあ?」と応え、小屋の中に感覚を集中してみた。
 当然の如くシァンを感じると、驚くことにジュサから感じた気配と似たものを感じた。否、彼女がジュサとの戦いの時に感じたのはシァンに似た気配だったのだ。
「二人にどんな関係が……」零すセラ。
「ん? どした?」
「あ、ううん。なんでもない。鳥みたいよ」
 小屋の中にいたのは数羽の鳥だった。それも彼女も今まで出会ったことのないような巨大な鳥だ。セラの言葉に合わせるかのように、小屋から巨大な鳥一羽を引き連れてシァンが出てきた。
 手綱を握り、鳥と共に戻ってくるシァン。
「お待たせしましたぁ~、これがあたしの移動手段、ピャギーで~す!」
「っへぇ~、でっけえ鳥だぁ」
 感嘆の声を上げるズィー。そんな彼にピャギーと呼ばれた巨大な鳥は盛大に翼を広げて見せた。宝石をちりばめたかのように煌々とした両翼を、誇らしげに示しているようだ。
「キレイな鳥ね」
 ぴゃぁあ~~~。
 セラの言葉に喜ぶかのように、間の抜けた声で鳴く。
「『鋼鉄の森』の鳥人たちならなんて言ったかわかんのかな?」
 ぴゃぁっ!
 どういうことか、声を発したズィーに向かって嘴を突き出した。明らかに攻撃に意思のある勢いでだ。
「うわっ、ぶねーっ」ズィーは避ける。「なんだこいつ!」
 ぴゃぁああっ!
 再び翼を広げる巨鳥。
「あ、これ、ピャギーの悪い癖なの。オスに態度が悪くて」
「オ、オスって……だから小屋の人女の人なのね……」
 どうやらズィーには威嚇をしていたようだった。
「どぉどぉ、ピャギー。乗るよ」
 シァンの言葉にぴゃぁと大人しくするピャギー。だがその円らな瞳は未だにズィーを睨んでいた。
「よっと」
 シァンが巨鳥にうつ伏せの形で抱き付くように乗る。長めの鞍は、そう乗ることを前提に付けられているようだ。
「それじゃあ、二人ともついて来て。あ、その前にちょっとだけ先に行って! 空歩くところ、見せてっ」
「ははっ……わかった。行くよ、ズィー」
「あ、おう。後ろから突かれないように気を付けるわ」
 こうして三人は庭園へと向かうのだった。

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