碧き舞い花
208:ゆっくり、目的のために。
有言実行。
何も話す気はないと言ったプルサージは極光の地の檻の中、名だたる賢者たちを前にだんまりを決め込んだ。反応すらせず、詰問する者をじっと見つめるだけだった。
そんな姿にしびれを切らし、拷問をするという案がケン・セイやンベリカなどから出されたが、ゼィロスが却下した。頑なな忠誠心はどれだけの暴力でも崩れないだろうと。
かといって懐柔策も無意味だろうと彼は言った。『夜霧』の統率者、『白昼に訪れし闇夜』のことを話題に出したとき、無反応を貫き通していたプルサージの肩が震えた。それを抑えようと無理やりに自身を律しようとする有り様だった。男の精神は完全に『白昼に訪れし闇夜』に恐怖支配されている。そこに入り込む余地はない。裏切るような真似はしない。そう『異空の賢者』は結論づけたのだった。
ここ数日間、プルサージから情報を引き出すことはできていない。
その事実を受け、評議会は集会を行った。
「情報をもたらさない捕虜なんて、必要ないでしょう。殺してしまいましょう」
『界音の指揮者』メルディン・ヲーファはいつも通りの張り付いた丁寧な笑みでそういった。その後ろに控える席でキノセが頷いている。
「せっかく奴らの本拠地が分かるチャンスなんだよ!」
ケン・セイの後ろ、卵型の椅子に胡坐をかいて座るイソラが前のめりになって声を上げた。
「ケン・セイ様、弟子の躾がなっていませんな~。手柄を上げて有頂天なのはわかりますが、ここは賢者の評議の場。それを勘違いしているようです、彼女は」
「っ……!」
「イソラ。落ち着け」
「だって! あたしじゃなくて、お師匠様をっ!」
「構わん。どう評されようが、俺は俺」
「……」押し黙るイソラ。
その様子を見てキノセがしたり顔で、小さく鼻で笑ったのをセラは見た。ムスっと眉根を寄せる。
「メルディン」ケン・セイが静かに燕尾服を見つめる。「この情報源、多くの時間、労力を要した。簡単に手放すは惜しい。拷問が出来ずともだ」
「失うことを惜しみ、足踏み状態になっては意味がないですよ? 新たな糸口を探るべきでしょう」
壮年二人が視線をぶつける。
「意見をぶつけ合う。よかぁ、よかぁ~!」割って入ったのは最年長の賢者、テングだ。「しかし、殺すか殺さずかの話し合いをするための集まりではないだろう、ズエロスよ」
「ああ」ゼィロスがようやく口を開く。「今回は今後の活動についての提案をしたいがために、皆に集まってもらった。まずは捕虜プルサージに関してだが、命を奪うことはしない。情報を引き出す方法は会話や拷問だけに留まらない。そこで、先日合流したサパルと『鍵束の番人』ルピの二人が今まさに、故郷に戻り『追憶の鍵』を取りに行っている」
セラのために施術室の扉を開いたサパルは、彼女の回復を見届けるとルピと共に『扉に覆われし園』に戻ったのだった。
『追憶の鍵』は対象者に関わる過去を暴く力を持っているという。ただ過去を知るだけの代物ならば危険はないのだが、そうではないからこそ賢者のルピでも持ち歩けないのだとサパルは出立の前に言っていた。持ち出し、使えるかどうかも定かではないのだとも。
だから、二人がそれを持ち帰ってこられるかはわからない。そうなる可能性もあると説明してから、ゼィロスは話を続ける。
「メルディンが言うように新たな糸口を探ることは続けていく。人手は増えたが、今回のアルポス・ノノンジュでの一件で『夜霧』の警戒は強くなったことだろうから、こちらも難航が予想できる。そして、戦闘訓練に関してだがこちらは上々だと俺は思う。幸い、多くの才ある者たちが集まってくれたようだ。しばらくしたら、隊を組んで奴らの植民世界の解放を開始するつもりだ」
「セラ」
集会が終わり他の者たちが出ていく中、ゼィロスが彼女を呼び止めた。
「これからもお前には『夜霧』の情報を集めてもらおうと思ってる」
「なに、今更? 言われなくてもそうするつもりだよ、わたし」
「いや、もちろん分かってる。だが、ビュソノータス、アルポス・ノノンジュとここ最近の傷付きようを聞くと、伯父として心配せざるを得ない」
「……戦うなって?」と訝しむセラ。
「待て、戦うなとは言わない、だが自分を大事にしろ。お前はまだ若い。未来を潰すようなことだけはするな」
しばし間を置いてから、釈然としない表情でセラは呟く。「わかったよ……伯父さん」
「……」黄緑色の瞳が姪を見つめる。「焦ることはない。決戦の日はそう近いものではないだろう。お前はその時、一族のために戦える力をゆっくり付けるんだ。……情報収集は二の次でいい。ここを拠点にあらゆる世界を巡って来い、セラフィ」
「……?」
「修行、仲間集め。それがこれからお前が第一に考えるべき任務だ」
何も話す気はないと言ったプルサージは極光の地の檻の中、名だたる賢者たちを前にだんまりを決め込んだ。反応すらせず、詰問する者をじっと見つめるだけだった。
そんな姿にしびれを切らし、拷問をするという案がケン・セイやンベリカなどから出されたが、ゼィロスが却下した。頑なな忠誠心はどれだけの暴力でも崩れないだろうと。
かといって懐柔策も無意味だろうと彼は言った。『夜霧』の統率者、『白昼に訪れし闇夜』のことを話題に出したとき、無反応を貫き通していたプルサージの肩が震えた。それを抑えようと無理やりに自身を律しようとする有り様だった。男の精神は完全に『白昼に訪れし闇夜』に恐怖支配されている。そこに入り込む余地はない。裏切るような真似はしない。そう『異空の賢者』は結論づけたのだった。
ここ数日間、プルサージから情報を引き出すことはできていない。
その事実を受け、評議会は集会を行った。
「情報をもたらさない捕虜なんて、必要ないでしょう。殺してしまいましょう」
『界音の指揮者』メルディン・ヲーファはいつも通りの張り付いた丁寧な笑みでそういった。その後ろに控える席でキノセが頷いている。
「せっかく奴らの本拠地が分かるチャンスなんだよ!」
ケン・セイの後ろ、卵型の椅子に胡坐をかいて座るイソラが前のめりになって声を上げた。
「ケン・セイ様、弟子の躾がなっていませんな~。手柄を上げて有頂天なのはわかりますが、ここは賢者の評議の場。それを勘違いしているようです、彼女は」
「っ……!」
「イソラ。落ち着け」
「だって! あたしじゃなくて、お師匠様をっ!」
「構わん。どう評されようが、俺は俺」
「……」押し黙るイソラ。
その様子を見てキノセがしたり顔で、小さく鼻で笑ったのをセラは見た。ムスっと眉根を寄せる。
「メルディン」ケン・セイが静かに燕尾服を見つめる。「この情報源、多くの時間、労力を要した。簡単に手放すは惜しい。拷問が出来ずともだ」
「失うことを惜しみ、足踏み状態になっては意味がないですよ? 新たな糸口を探るべきでしょう」
壮年二人が視線をぶつける。
「意見をぶつけ合う。よかぁ、よかぁ~!」割って入ったのは最年長の賢者、テングだ。「しかし、殺すか殺さずかの話し合いをするための集まりではないだろう、ズエロスよ」
「ああ」ゼィロスがようやく口を開く。「今回は今後の活動についての提案をしたいがために、皆に集まってもらった。まずは捕虜プルサージに関してだが、命を奪うことはしない。情報を引き出す方法は会話や拷問だけに留まらない。そこで、先日合流したサパルと『鍵束の番人』ルピの二人が今まさに、故郷に戻り『追憶の鍵』を取りに行っている」
セラのために施術室の扉を開いたサパルは、彼女の回復を見届けるとルピと共に『扉に覆われし園』に戻ったのだった。
『追憶の鍵』は対象者に関わる過去を暴く力を持っているという。ただ過去を知るだけの代物ならば危険はないのだが、そうではないからこそ賢者のルピでも持ち歩けないのだとサパルは出立の前に言っていた。持ち出し、使えるかどうかも定かではないのだとも。
だから、二人がそれを持ち帰ってこられるかはわからない。そうなる可能性もあると説明してから、ゼィロスは話を続ける。
「メルディンが言うように新たな糸口を探ることは続けていく。人手は増えたが、今回のアルポス・ノノンジュでの一件で『夜霧』の警戒は強くなったことだろうから、こちらも難航が予想できる。そして、戦闘訓練に関してだがこちらは上々だと俺は思う。幸い、多くの才ある者たちが集まってくれたようだ。しばらくしたら、隊を組んで奴らの植民世界の解放を開始するつもりだ」
「セラ」
集会が終わり他の者たちが出ていく中、ゼィロスが彼女を呼び止めた。
「これからもお前には『夜霧』の情報を集めてもらおうと思ってる」
「なに、今更? 言われなくてもそうするつもりだよ、わたし」
「いや、もちろん分かってる。だが、ビュソノータス、アルポス・ノノンジュとここ最近の傷付きようを聞くと、伯父として心配せざるを得ない」
「……戦うなって?」と訝しむセラ。
「待て、戦うなとは言わない、だが自分を大事にしろ。お前はまだ若い。未来を潰すようなことだけはするな」
しばし間を置いてから、釈然としない表情でセラは呟く。「わかったよ……伯父さん」
「……」黄緑色の瞳が姪を見つめる。「焦ることはない。決戦の日はそう近いものではないだろう。お前はその時、一族のために戦える力をゆっくり付けるんだ。……情報収集は二の次でいい。ここを拠点にあらゆる世界を巡って来い、セラフィ」
「……?」
「修行、仲間集め。それがこれからお前が第一に考えるべき任務だ」
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