碧き舞い花
200:調査と報告
「ごめん、待たせた?」
セラが部屋に光を放つと、すでにイソラがいてベッドの上で目を閉じ胡坐をかいていた。瞑想をしていたようだった。
「ううん」瞳をセラに向けるイソラ。「あたしもさっき戻って来たばっかだよ。で、セラお姉ちゃん、どうだった? ロンドスって人」
セラはローブをソファの背に掛けると、胡坐のままのイソラの隣りに座った。
「悪い人には思えないな」
ロンドスの行動をセラは話す。楽しそうに仕事をしていたこと、友人と酒を飲み交わしていたこと、どこからどう見ても『夜霧』の影が見えないということ。彼は協力しているわけではなく、脅されていると考えて明日からは調査すると最後に伝えた。
「あたしの方はね」今度はイソラが報告する番だ。「別の蔵を見つけたよ」
「ほんとっ!」
いきなりの吉報にセラは広い部屋にまんべんなく届くほどの声を上げた。
「うん! あそこの蔵では目立った動きがなかったんだけどね、密売人と会ってた男、たぶんここの拠点の偉い奴がいてね! そいつの後をつけたの! そしたらビックリっ、唐草模様の蔵に入ったの!」
「えっ、それってデデボロの蔵ってこと?」
「そう! びっくりでしょ? こっちも脅されてるのかな?」
「うーん……二人ともってこともあるかもしれない。むしろ有名な蔵貸し二人が二人して禁止されてることをしてるってことはそう考えた方がいいかも」
「脅されてるなら、あたしたちが評議会だって話せば、協力してくれるかな?」
「本当に奴らの協力者じゃなければ、もしくは」
「もっと調べてからにする?」
セラはしばし黙り込んで考え込む。
今回の一番の目的は拠点を探り、その先、本拠地までの道のりを見出すこと。急く気持ちのまま間違った行動をしてしまい、せっかく見つけた『夜霧』の影を見失ってはいけない。ゼィロスにも慎重にと言われている。
それに、まだ一日目だ。たまたま楽し気な一日だったとも考えられる。朝やさらに深まった夜の行動も見たわけではない。まだ、声を掛ける機は熟れていないのだ。
「もう少し調査を続けよう。二人が『夜霧』の協力者じゃないって確信を持ってからでも遅くないと思う」
「そっか。じゃあ、あたしも偉い奴をもう少し追うよ。今日はこの世界から出なかったけど、明日には出るかもしれないし、それが奴らの本拠地かもしれないしね」
「そうなれば一番いい」
こうして二人は調査を進めることになった。
セラはロンドスに加えデデボロを監視した。しかし、二人とも初日のロンドスと大差ない一日を過ごすばかり。楽しそうに蔵を造り、楽しそうに他の巨人仲間も含めて酒を飲む。そこでは彼女に声をかけてきたナロダロの姿を見る日もあった。そして、早朝や深夜に至っても、二人に怪しい動きはなかった。
イソラの方も、蔵を治めているであろう『夜霧』の者の追跡を繰り返したがこれといった成果は上がらなかった。その男は日がな一日蔵で過ごすことが多く、倉庫に納められた多種多様な武器や鎧、その他の戦闘用具の手入れを部下たちと行っているという。ごくたまに蔵を出たかと思うともう一方の蔵へと足を運んだ。そしてそこでも物品の手入れをするのだという。
そんな彼女たちにそれぞれ、いつもと違う出来事が起こったのは奇しくも同じ日のことだった。
調査を開始して二週間ほど経ったある日。
その日の夜遅く、まずその報告をしたのはイソラだ。
いつも通り蔵で作業をする男とその部下たちを観察していた彼女。昼下がりに男が蔵を出たので、またもう一方の蔵にでも行くのだろうと思いながらも男を追った。
するとどうだろう、男は人通りの少ない路地に入った。そしてそこで、黒縁の青白い光に囲われた空間の穴、つまりはロープスによって造られた異空への道をくぐったのだ。
密売人から武器を買ってくるのだろうと思いながら、イソラは男の帰りを待った。彼女には男を異空まで追うことも可能だっただろうが、そうはしなかった。深追いは適さないだろうという考えからだ。
男がどこに帰ってくるかわからないため、アルポス中に超感覚を張り巡らせて待ったイソラがようやく一点に集中できるようになったのは日が暮れてからのことだった。
そして、彼女のずば抜けた超感覚は男が連れてきた人影を捉えた。男の隣に立つ知った人影を。
セラにとってもそうだがイソラにとってはより、宿敵と呼べるべき『夜霧』の将。その形は光を失った瞳に強く刻まれている。
ヒィズルに甚大な被害を及ぼした女指揮官、求血姫ルルフォーラがアルポス・ノノンジュに現れたのだった。
宿敵がすぐ近くにいることからくる衝動。すぐにでも駆け出してその眼前に姿を現して、倒したい。そんな暴れる鼓動と血流を抑えに抑え、イソラは男とルルフォーラを感覚だけで追跡したのだという。
二人が向かったのは格子模様の蔵。ルルフォーラはそこで男と武器について会話を交わした。
「新しい世界に攻め込むための準備をしに来たって」
イソラは最後に鋭い顔つきでそう言って報告を締めくくった。
セラが部屋に光を放つと、すでにイソラがいてベッドの上で目を閉じ胡坐をかいていた。瞑想をしていたようだった。
「ううん」瞳をセラに向けるイソラ。「あたしもさっき戻って来たばっかだよ。で、セラお姉ちゃん、どうだった? ロンドスって人」
セラはローブをソファの背に掛けると、胡坐のままのイソラの隣りに座った。
「悪い人には思えないな」
ロンドスの行動をセラは話す。楽しそうに仕事をしていたこと、友人と酒を飲み交わしていたこと、どこからどう見ても『夜霧』の影が見えないということ。彼は協力しているわけではなく、脅されていると考えて明日からは調査すると最後に伝えた。
「あたしの方はね」今度はイソラが報告する番だ。「別の蔵を見つけたよ」
「ほんとっ!」
いきなりの吉報にセラは広い部屋にまんべんなく届くほどの声を上げた。
「うん! あそこの蔵では目立った動きがなかったんだけどね、密売人と会ってた男、たぶんここの拠点の偉い奴がいてね! そいつの後をつけたの! そしたらビックリっ、唐草模様の蔵に入ったの!」
「えっ、それってデデボロの蔵ってこと?」
「そう! びっくりでしょ? こっちも脅されてるのかな?」
「うーん……二人ともってこともあるかもしれない。むしろ有名な蔵貸し二人が二人して禁止されてることをしてるってことはそう考えた方がいいかも」
「脅されてるなら、あたしたちが評議会だって話せば、協力してくれるかな?」
「本当に奴らの協力者じゃなければ、もしくは」
「もっと調べてからにする?」
セラはしばし黙り込んで考え込む。
今回の一番の目的は拠点を探り、その先、本拠地までの道のりを見出すこと。急く気持ちのまま間違った行動をしてしまい、せっかく見つけた『夜霧』の影を見失ってはいけない。ゼィロスにも慎重にと言われている。
それに、まだ一日目だ。たまたま楽し気な一日だったとも考えられる。朝やさらに深まった夜の行動も見たわけではない。まだ、声を掛ける機は熟れていないのだ。
「もう少し調査を続けよう。二人が『夜霧』の協力者じゃないって確信を持ってからでも遅くないと思う」
「そっか。じゃあ、あたしも偉い奴をもう少し追うよ。今日はこの世界から出なかったけど、明日には出るかもしれないし、それが奴らの本拠地かもしれないしね」
「そうなれば一番いい」
こうして二人は調査を進めることになった。
セラはロンドスに加えデデボロを監視した。しかし、二人とも初日のロンドスと大差ない一日を過ごすばかり。楽しそうに蔵を造り、楽しそうに他の巨人仲間も含めて酒を飲む。そこでは彼女に声をかけてきたナロダロの姿を見る日もあった。そして、早朝や深夜に至っても、二人に怪しい動きはなかった。
イソラの方も、蔵を治めているであろう『夜霧』の者の追跡を繰り返したがこれといった成果は上がらなかった。その男は日がな一日蔵で過ごすことが多く、倉庫に納められた多種多様な武器や鎧、その他の戦闘用具の手入れを部下たちと行っているという。ごくたまに蔵を出たかと思うともう一方の蔵へと足を運んだ。そしてそこでも物品の手入れをするのだという。
そんな彼女たちにそれぞれ、いつもと違う出来事が起こったのは奇しくも同じ日のことだった。
調査を開始して二週間ほど経ったある日。
その日の夜遅く、まずその報告をしたのはイソラだ。
いつも通り蔵で作業をする男とその部下たちを観察していた彼女。昼下がりに男が蔵を出たので、またもう一方の蔵にでも行くのだろうと思いながらも男を追った。
するとどうだろう、男は人通りの少ない路地に入った。そしてそこで、黒縁の青白い光に囲われた空間の穴、つまりはロープスによって造られた異空への道をくぐったのだ。
密売人から武器を買ってくるのだろうと思いながら、イソラは男の帰りを待った。彼女には男を異空まで追うことも可能だっただろうが、そうはしなかった。深追いは適さないだろうという考えからだ。
男がどこに帰ってくるかわからないため、アルポス中に超感覚を張り巡らせて待ったイソラがようやく一点に集中できるようになったのは日が暮れてからのことだった。
そして、彼女のずば抜けた超感覚は男が連れてきた人影を捉えた。男の隣に立つ知った人影を。
セラにとってもそうだがイソラにとってはより、宿敵と呼べるべき『夜霧』の将。その形は光を失った瞳に強く刻まれている。
ヒィズルに甚大な被害を及ぼした女指揮官、求血姫ルルフォーラがアルポス・ノノンジュに現れたのだった。
宿敵がすぐ近くにいることからくる衝動。すぐにでも駆け出してその眼前に姿を現して、倒したい。そんな暴れる鼓動と血流を抑えに抑え、イソラは男とルルフォーラを感覚だけで追跡したのだという。
二人が向かったのは格子模様の蔵。ルルフォーラはそこで男と武器について会話を交わした。
「新しい世界に攻め込むための準備をしに来たって」
イソラは最後に鋭い顔つきでそう言って報告を締めくくった。
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